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《事故物件の間取り図掲載》浴槽内には真っ赤な液体、壁面は天井まで血しぶきの跡…特殊清掃の現場を徹底ルポ!

文春オンライン / 2021年9月15日 17時0分

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※写真はイメージです ©iStock.com

死後1か月の亡骸が残された部屋で発見した2匹の猫…“事件現場清掃人”が明かす「人を殺す部屋」の共通点とは から続く

 誰にも看取られずひとり亡くなった者たちの、この世に生きた痕跡を完全に消し去る「事件現場清掃」を職業とし、年間3000件以上の現場に立ち会い続ける高江洲敦氏。

同氏がこれまでに見てきた事件現場の詳細を記した『 事件現場清掃人 死と生を看取る者 』(飛鳥新社)が各方面で話題を呼んでいる。ここでは同書の一部を抜粋。実際に目の当たりにしてきた壮絶な現場の様子を紹介する。(全2回の2回目/ 前編 を読む)

◆◆◆

「現場を見ないほうがいい」と警察の方が…

 ある晩秋の昼下がりのことでした。車での移動中、携帯電話に事務所宛の電話が転送されてきました。出てみると若い女性の声で、特殊清掃の依頼でした。

 「父が死んだと聞いてすぐに駆けつけたのですが、警察の方からは現場を見ないほうがいいと言われて、どんな様子なのかはわからないのです」

 憔悴しきった様子の女性の声からは、父の突然の死を受け入れなければならなくなった緊迫した状況がうかがえました。亡くなったのは浴室だったそうです。

 私は直感的に自殺ではないかと感じ、「ご安心ください、すぐにうかがいます」と伝え、そのまま現場に向かうことにしました。

 指示された住所には古い団地があり、その入り口で待っていた20代ほどと見られる女性が依頼主でした。「来てくださって本当にありがとうございます」、そう言って私の右手を震える手で握りしめてきたことから、彼女が相当の不安を感じていたことが伝わってきました。

首の動脈を切っての自殺

 さっそく部屋に上がると、生臭い血の臭いが鼻につきました。そして、廊下の床には遺体の搬送中にポタポタと垂れたであろう血痕が続いていたことから、その血生臭さの元が浴室にあることがわかりました。さらに浴室に近づいてみると、浴室と廊下とを隔てる折り戸の曇りガラスには、無数の赤い点、そして手の跡が見えます。意を決して扉を開けると、そこには、電話を受けたときにすでに予想していたとおりの惨状が広がっていました。

 浴槽内には血で染まった真っ赤な水。壁面には、風呂椅子を起点として、天井まで達した血しぶきの跡。死の間際にもがき苦しんだのか、血まみれの手で触ったと思われる跡が浴室内の至るところに見られました。首の動脈を切っての自殺でした。

父の最期の様子を知っておかなければいけない気がする

 依頼主の女性に見積もり金額を伝えると、すぐに作業をしてほしいと言われました。幸い、車にひと通りの作業ができる資機材を積んでいたため、そのまま清掃作業を行うことにしました。私としても、肉親を亡くした直後で動揺している依頼主にあの惨状を見せるわけにはいきませんから、すぐに清掃に取り掛かろうと思ったのです。しかし、その前に、女性にこう問いかけられました。

 「清掃する前に、浴室の状態を見せていただけませんか? どうしても父の最期の様子を知っておかなければいけない気がするんです」

 私にはとても勧める気にはなれませんでしたが、結局は、強い意志を感じさせる女性のまなざしに負け、自殺の現場まで付き添うことにしました。

 そして浴室のドアを開けた瞬間、彼女は腰が砕けてよろめきました。特殊清掃の現場に慣れている私でも、あの血で染まった浴室に入ると無条件に衝撃を受けたのですから、一般の方、それも肉親であれば無理もありません。しかしすぐに立ち直ると、浴室全体を目に焼き付けるようにゆっくり見渡したあと、ダイニングの奥にある和室で畳の上にへたり込み、静かに涙を流しました。

 私はそっとふすまを閉じ、やはり見せるべきではなかったと思いながらも、作業に取り掛かることにしました。私にできることをやるしかありませんでした。

浴室の10円カミソリ

 現場は死後半日ほどしか経っていないため、腐敗もしていなければ、虫も発生していません。まずは左手に洗浄剤のスプレーを、右手に雑巾を持ち、浴室までつながる廊下に点々と付着した血痕を拭っていきました。

 次は遺体のあった浴室です。いつものように「お疲れさまでした」とつぶやき、塩と酒をひとつまみして浴室内に弾くと、作業を開始しました。

 浴槽内の水は血で赤く染まっています。しかし配管を詰まらせるような異物はなく、そのまま流しても問題なさそうでした。そして、血しぶきがかかった残置物を一つひとつ処分していきました。シャンプー、石鹸、洗面器、歯ブラシ、肌着……。次々とゴミ袋に入れていくと、浴室の片隅にあるカミソリが目に入りました。

 安物の、いわゆる10円カミソリです。そのピンク色の柄は血液で濡れ、親指と人差指の指紋がくっきりと残されていました。掻き切った首からおびただしい量の血が噴き出す中、意識が遠のいていき、手の力が抜けて床に落ちた10円カミソリ……。これが家主の命を奪った凶器であることは間違いなさそうでした。警察は現場検証で事件性がないと判断すると、現場に凶器をそのまま置いていくのです。

 死後間もなかったこと、また浴室で大量に水を使えたことで、作業自体はスムーズに終わりました。堪えたのは、やはり遺族の方が、親が自殺したという事実に直面する様子を目の当たりにしたことです。

2日前に故人に会っていた

 清掃を終えた浴室を確認してもらうと、依頼主の女性はただうなだれ、丁重な礼とともに「遺品整理だけは自分でやります」と話しました。聞けば故人は60代、妻とも死別して団地で一人暮らしをしており、長く持病を患った末の自殺ということでした。

 実はこの依頼主の女性は、2日前に故人に会っていたのだそうです。そのときに言われた「今までありがとう」という言葉に、違和感を覚えていたと言います。おそらく故人はそのときすでに死ぬ覚悟を決めていたのでしょう。

 遺書がなかったため真実はわかりませんが、女性から聞いた故人の生前の様子からは、家族に面倒をかける前に逝いこうと考えたのではないかと思われました。私には、故人は最後までプライドを持って生きたのだと感じられましたが、その決断は、遺族にとっては到底承服しがたい、やりきれないものなのです。

自殺の覚悟

 自殺があった部屋には、独特の雰囲気があります。それは、身辺整理をしてから亡くなる人が多いためではないかと思います。何かあったときのために、旅行に出かける前や入院する前に部屋を片付けていく人は多いと思いますが、自殺があった部屋の、時が止まったかのような静かな雰囲気はそれらとは根本的に異なります。場合によっては、遺品から写真や手紙などの過去の思い出の品がまったく出てこないこともあるのです。誰にでもどうしても捨てられないものはあると思いますが、そんな想いのこもったものを一切なくして命を絶つという最期は、なんと寂しいものでしょうか。

 たとえば以前、「計画自殺」とでも言うべき現場に遭遇したことがあります。

 その部屋の主は、認知症を患っていた母とともに、ぶらさがり健康器に首を吊って亡くなっていました。その際、死後に部屋を汚さないよう、紙おむつを穿いて首を吊り、床にはブルーシートまで敷いていたのです。人は縊死すると肛門が緩み汚物が漏れ出るということを知っていたのでしょう。もちろん、室内はすみずみまで整理整頓が行き届いていました。

 しかも驚くことに、自殺した本人はあらかじめ、葬儀や墓、そして私にも見積もりを依頼し、その連絡先を依頼主となった妹さんに伝えてから自殺したということでした。

衝動的な自殺の現場も数多い

 また、遺品整理をしていると、自殺に至った理由がそれとなく読み取れることがあります。先に紹介した浴室での自殺では、現場に分厚いレンズのメガネと高齢者用の紙おむつが残されていました。おそらく故人は、理解力や判断力は衰えていないにもかかわらず、身体機能が低下して体が思うように動かないというもどかしい状態に苦しんでいたのでしょう。

 また「計画自殺」の現場では、部屋の片隅にあった卓上カレンダーの裏に母親の書き残したメモがあり、日を追うごとに認知症の症状が進行して、親子仲がうまくいかなくなっていった様子が伝わってきました。決意したうえでの自殺は、その覚悟が遺品にも表れるのです。

 もちろん、衝動的な自殺の現場も数多くあります。

 ただ、自殺だと判断されたケースでも、実は事故だったということはあるのかもしれません。たとえば、自慰行為の最中に亡くなった可能性が考えられるケースがこれまでいくつかありました。

自殺を図るときにズボンを脱ぐ理由

 首つり自殺と聞くと、椅子の上に立って高い場所から垂らしたロープに首をかけるシーンを思い浮かべる人が多いと思います。実際に特殊清掃の現場で見つかるのも、ぶらさがり健康器や和室の鴨居、ロフトなどに紐をかけた形跡です。

 しかしまれに、ドアノブにかけた紐やタオルで首を吊って亡くなったという現場に出くわすことがあります。しかも、なぜか決まって下半身だけが裸だったというのです。

 孤独死の現場ではズボンを穿いていない状態で亡くなることは珍しくありません。ただそれは、突然の体の異変からトイレに駆け込もうとしていたり、急激にお腹を下したりしたと考えられる場合です。自殺を図るそのときにズボンを脱ぐというのは、一体どういうことなのでしょうか?

 実は一時期、首を絞めながら行う自慰行為がインターネット上の一部で流行していたと聞いたことがあります。もしもドアノブを使った首つり自殺の真相が、自慰行為の最中に起こった事故死だったのだとしたら……。それは自殺と同じくらい、不幸なことかもしれません。

【前編を読む】 死後1か月の亡骸が残された部屋で発見した2匹の猫…“事件現場清掃人”が明かす「人を殺す部屋」の共通点とは

(高江洲 敦)

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