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マスク越しの会話、聞き取れていますか? コロナ禍で広がる「難聴」の見分け方〈聞き取りづらくなる五十音も…〉

文春オンライン / 2021年9月11日 17時0分

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©iStock.com

 早いもので、マスク生活も1年半が過ぎた。

 秋の気配も感じるようになり、マスクによる暑さや蒸れなどの苦痛も少しは和らぐ季節になってきた。しかし、そうはいっても早くマスクのない生活に戻りたいと思うあたり、やはり体はマスクに順応しきれていないのだろう。

マスクによって大きく影響を受けた「耳」

 体の中でも、特にマスクによって大きな影響を受けている器官がある。「耳」だ。マスクのゴムひもで耳の裏側が痛くなる、という話ではない。マスク越しの会話が聞き取りにくいという、マスクをつけたときの難聴に悩む人が増えているのだ。

 昭和大学医学部耳鼻咽喉科頭頸部外科主任教授の小林一女医師が解説する。

「マスクだけでなく、アクリル板やフェイスシールドなど、ウイルス感染を防ぐための遮蔽物越しの会話は総じて“聞き取りづらさ”を助長しています。若い人もそうですが、年齢的に“難聴になりかかっている世代”が感じる不自由さはとりわけ大きい。50歳を境に、マスクを着けたときの難聴に悩む人が増えているように感じます」

 小林医師によると、同じ遮蔽物でもアクリル板やフェイスシールドなどは口元の動きが見える分だけ言葉の理解がしやすいが、視覚的情報も遮断されるマスクは、貴重な手掛かりを奪い去っていく。

マスク越しの声、聞き取れますか…?

 この夏に56歳になった筆者は、まさに今、そんな状況に喘いでいる。

 コロナ禍前は1時間以内の取材ならICレコーダーを使うことなく、ノートのメモ書きだけで済ませていた。録音すると原稿を書く時に相手の発言に引っ張られるので、記事の質が落ちるような気がするのだ。要点だけをノートに書いてそれを元に原稿を書く方が、結果的に内容も簡潔になり、何より短い時間で原稿を書ける。

 しかし、マスク越しのインタビューは聞き取りづらく、聞き返す回数が飛躍的に増えた。何度も聞き返して話の腰を折るのも気が引けるので、コロナ禍の比較的早い時期から、短いインタビューでもICレコーダーを使うようになった。

 聞き取れない箇所も、よほど重要な部分でない限り分かったような顔をしてそのまま聞き流す。そして、あとで録音した音声をボリュームを大きくして聞くことでどうにか凌ぐ――という、あまり褒められたことではない手法で、この難局を乗り切ろうとしているのだ。

 ちなみに56歳の筆者は、菅義偉首相の自民党次期総裁選不出馬が報じられた日のお昼に、党本部で記者団の質問にマスク越しに答える二階俊博幹事長の受け答えをテレビで見ていたのだが、その発言の大半を聞き取ることができなくて愕然とした。

 何より驚いたのは、現場の若い記者たちが二階氏の発言を受けて質問を重ねていることだ。彼らには二階幹事長の話が聞き取れているのだ。56年も生きていると、意外なところで自分の老いを実感するものなのだ。

年齢を重ねると聞き取りづらくなる“高い周波数” 五十音では特に…

「人は、年齢を重ねるごとに“高い周波数の音”が聞き取りにくくなります。そして、マスクをするとこの傾向に拍車がかかるのです」(小林医師、以下同)

 日本語は「五十音」で成り立っていて、ア行以外はすべて子音と母音の組み合わせでできている。小林医師によると、この一つひとつの音に周波数の高低があるのだ。

「子音が“K”のカ行、“S”のサ行、“T”のタ行、“H”のハ行などは周波数が高いので聞き取りづらくなる。そのため『白い』と『広い』、『魚』と『高菜』の区別が難しくなります。それでもマスクをしていなければ唇の動きや前後の言葉との関連で理解もできますが、マスクはそうした情報を隠してしまうのです」

 たしかに、「首相」「総裁」「素質」「施設」「折衝」などの音は、そう言われてみると聞き取りづらい気がする。なるほど、選挙前に関係しそうな言葉は、マスク越しの「音」として耳と相性が良くないようだ。

 ちなみに、マスクによって判別しにくいのは“音(文字)”であって、“声”が聞こえなくなるわけではない。知っている人から声をかけられれば、その人がたとえマスクをしていても『△△さんだ』という判断はできるのだが、何をしゃべっているのか(内容)は聞き取りづらくなる――ということだ。

 こうした現象は難聴によるもので、マスクの有無に関係なく加齢とともに進行していく。しかし、マスクをした状態で会話をすることで、比較的若い人でも似た症状を起こすことがあるのだ。

「日常生活ではマスク越しの声が聞き取りづらい人でも、リモート会議ではヘッドホンをしたりボリュームを上げることで“難聴の症状”をマスキングできてしまう。コロナ禍は難聴の人を増やしたり、その存在を隠したりしているのです」

 マスクをつけたときの難聴は本物の難聴ではないので、コロナ禍が収束してマスクがいらない世の中に戻れば理論上は聴力も戻る。

難聴の“種類”、どう見分ける?

 しかし、ベースに加齢性の難聴があって、そこにマスクによる難聴が重なっている人は、話がややこしくなる。

「同じ難聴でも、中耳炎で鼓膜に穴が開いて起きるような難聴なら手術で治せます。しかし加齢性の難聴(老人性難聴)は、音や声を聞き取る細胞が死んでいくことで起きる疾患なので、根本的な治療法はありません。日ごろから大きな音を避ける、動脈硬化や糖尿病などの基礎疾患がある人は血管へのダメージを予防するなどの対策である程度は症状を遅らせることはできますが、日常生活に支障をきたすようであれば補聴器の使用を検討する必要が出てきます」

 いまの聞き取りにくさが加齢性の難聴なのかマスクによるものなのか、あるいはその両方なのかは、検査をしないと分からない。特に50歳以上の世代は、マスクをつけたときに聞こえづらいだけだろう思っていたら、じつは加齢性の難聴だった、ということもあり得るのだ。

「加齢性の難聴であれば、会話の際だけでなく、自宅でテレビを観たり音楽を聴いたりするときに音が大きくて家族から指摘されることもあるでしょう。ただ、それだけで判断はできないのですが……」

 難聴の原因をはっきりさせるには耳鼻咽喉科で行われる一般的な聴力検査のほかに、必要に応じて語音聴力検査という専門性の高い検査を加えて診断につなげていくことになる。

 いつかコロナ禍が落ち着き、人々の顔からマスクが取れたときに、どこまでクリアに会話が聞き取れるのか――。

 いずれにしても、コロナ恐るべし。

(長田 昭二)

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