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電気コードで首を絞め、死体は鍋で煮込んだ…凄惨すぎる「家族殺し」の現場

文春オンライン / 2021年9月21日 17時0分

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北九州監禁連続殺人事件をめぐる人物相関図

 起訴された案件だけで7人が死亡している「北九州監禁連続殺人事件」。

 もっとも凶悪な事件はなぜ起きたのか。新証言、新資料も含めて、発生当時から取材してきたノンフィクションライターが大きな“謎”を描く(連載第71回)。

電気コードで首を絞め、ついに殺人の実行犯に

 1998年1月20日、松永太の意向に忖度した緒方純子と緒方一家の大人たちは、度重なる通電での虐待によって精神に変調をきたした、緒方の母である和美さん(仮名、以下同)の殺害を決めた。

 浴室内で横たわる和美さんに対する殺害方法については、松永が指示を出した。それは緒方の妹の智恵子さんが足を押さえ、智恵子さんの夫である隆也さんが、電気の延長コードで首を絞めるというもの。その様子を緒方と隆也さん夫妻の長女である花奈ちゃんが見守り、松永はひとりで離れた和室にいた。

 以下、福岡地裁小倉支部で開かれた公判での検察側の論告書(以下、論告書)にある、緒方の証言をもとにしたその際の様子である。

〈和美は、「片野マンション」(仮名)の浴室の洗い場に、仰向けに目を閉じて横たわっていた。隆也は、和美の肩付近にしゃがみ、松永の指示どおり、和美の首に電気コードを巻き付けて首を絞めた。この間、智恵子は、松永の指示どおり隆也とともに浴室に入り、和美が暴れないよう和美の両足を押さえ付けていた。当初、隆也が首を絞める力が弱かったためか、和美は苦しみもがき、「グエッ」というような音を口から発したが、隆也が更に力を込めて首を絞め、智恵子が上体を和美の足に覆い被せるようにしてその体を押さえ付けているうちに、やがて、和美は動かなくなった。

 

 隆也は、浴室の出入口付近に立っていた緒方の方を振り向き、「もう、いいですか。」と、首を絞めるのを止めてよいかと尋ねてきた。緒方が、「もう、いいんじゃないか。」と答えたところ、隆也は電気コードから手を放した。隆也が和美の首を絞めていた時間は、5分以上10分以内くらいではないかと思う。緒方は、和美の死に顔を見て、開いた口から歯が見えていることに気付き、「自分も歯が出ているから、こんな状態で死ぬんだろう。」などと、ふと思った〉

 その後、緒方は和室にいた松永に「終わりました」と報告。松永は、「そうか」と答えて洗面所に来ると、和美さんの両手を胸の前で組ませるように指示している。

 この約1カ月前の97年12月21日に、緒方の父である孝さんが殺害された際には、通電を行ったのは緒方であり、隆也さんと智恵子さん夫妻は遺体の解体と遺棄のみを手伝っていた。その段階での犯罪行為は死体損壊と死体遺棄だったのだが、和美さん殺害において、ついにふたりは殺人の実行犯となってしまったのだった。

 これにより、彼らは松永に大きな弱みを握られたことになり、わずかに残されていた逃走の可能性についても、みずから蓋をしてしまったと考えられる。

和美さんの死体解体「血抜き作業」と「煮炊き作業」

 和美さんの遺体の解体作業は、松永の指示により、緒方と智恵子さん、隆也さん、花奈ちゃんの4人で行うことになった。解体に必要な道具の購入費用は、緒方を含む緒方一家が松永から借用するかたちをとり、殺害から間もなく隆也さんが買いに出ている。解体は彼の帰宅直後から始められた。

 そこでの様子については、前記公判における判決文(以下、判決文)に詳しい。

〈和美の死体解体の際、和美の死体は脂肪が多く、解体しにくかったこと、肉片や内臓を鍋で煮るとき、臭いを消すために、松永の指示で、しょうがやお茶の葉を入れたこと、便が腸にたくさん詰まっており悪臭がしたことを覚えている。松永は、他の死体解体時よりも特に細かい指示をした。緒方が、和美の腸に便が詰まっていることを報告すると、松永は、「ペットボトルを半分に切って、そこに便を絞り出せ。」と指示したので、智恵子が腸から便をペットボトルに絞り出し、緒方がその便をトイレに流して捨てた。また、松永は、ペットボトル内の肉片等を捨てる作業を急がせたり、骨や歯をフェリーから海に投棄させたりした。松永は花奈も死体解体作業に従事させた〉

 なお、前記公判において、松永と緒方は、死体解体時の「血抜き作業」と「煮炊き作業」について、異なる証言をしている。

●血抜き作業

「5、6時間温水を掛けながら行った(その間ガスを使用した)」(松永)

「水を掛けながら行った(その間ガスを使用しなかった)」(緒方)

●煮炊き作業

「死体1体あたり最低20回は鍋を掛け、終始強火で3時間から3時間半くらい煮込んだ」(松永)

「死体1体あたり5、6回くらい鍋を掛け、一旦沸騰させて、弱火で2、3時間煮込んだ」(緒方)

 なお、和美さんの死体解体作業は、1月下旬頃に終了したとされる。

次なる殺人計画へ

 和美さんが殺害された後、次に松永が殺害のターゲットとしたのは智恵子さんだった。そこで男性の隆也さんではなく智恵子さんを狙ったのには、松永なりの考えがあったようだ。論告書は触れる。

〈智恵子は孝夫妻の実の娘であり、松永に対する反抗のおそれという意味合いでは隆也に勝る危険がある上、解体作業にあっては若い男手である隆也の方が頼りになる一面があった。また、(広田清美さんの父親の)由紀夫事件においても顕著なように、松永は、壮年男性を手に掛けるについては相当に慎重になっていた節があり、当時38歳の壮年男性であった隆也についても、由紀夫同様、生活制限と虐待を通じて衰弱させ、十分に弱らせた上で対処を考えるつもりであったと認められる〉

 こうして、智恵子さん殺害を決めた松永は、まず住居を振り分けた。広田由紀夫さん、それに緒方一家の孝さんと和美さんを殺害・解体した「片野マンション」30×号室には、広田清美さん、隆也さん、隆也さん夫妻の長男である佑介くんを残した。そして松永は、緒方と長男、次男、さらに智恵子さん、花奈ちゃんを連れて「東篠崎マンション」(仮名)90×号室に拠点を移したのである。判決文には次のようにある。

〈松永は、甲女(清美さん)を同行させて、智恵子を買い物等に行かせるときのほかは、智恵子と花奈を「東篠崎マンション」の浴室に閉じ込め、同人らが起きているときは洗い場に立たせておき、寝るときは浴槽の中で向き合わせて体育座りの姿勢で寝かせた。松永は、緒方に指示して、智恵子と花奈にマヨネーズを塗った食パン数枚を食事として与え、たまに菓子パンやカロリーメイトを与えた。小便はペットボトルにさせ、大便はトイレでさせたが、便座を上げ、尻を便器に付けない状態で排泄させた〉

智恵子さんの顔面に理不尽な通電を繰り返し

 論告書は松永による通電の状況を明かす。

〈また、松永は、智恵子に対し、特に理由もなかったのに、理不尽な通電を繰り返していた。智恵子がもっともひどい通電を受けていたのは、他の緒方一家の者と同様に、殺害される直前期のことであった。そして、松永の通電は、この時期はほとんど智恵子に集中していた。

 

 このころの松永による智恵子に対する通電は、ほとんどが顔面に対するもので、それが毎日何度も繰り返されていた。そのためか、智恵子は通電を極度に恐れて一層萎縮してしまい、また、和美同様に耳が遠くなったのか、松永の指示を取り違えてしまうことも多くなっており、そのため、更に通電を受ける結果になっていた〉

「智恵子も頭がおかしくなりよるんじゃないか」

 ここで松永は、緒方に向け、改めて自身の言葉に忖度をするよう投げかける発言を繰り返す。

〈しばらくすると、松永は、しばしば智恵子が指示を取り違えることを殊更誇張して取り上げ、「智恵子も頭がおかしくなりよるんじゃないか。和美みたいになったらどうするんだ。」などと言うようになった。これを聞いて、緒方は、松永が、和美同様、智恵子を殺すつもりであることを知った。しかし、緒方は、さりとて、松永の真意に気付いたことを松永に気取られれば、和美の時のように、「やるならすぐにやれ。」と言われるであろうと警戒し、意図的に松永の言葉を聞き流していた〉

 この時期、決して松永には反論できない緒方なりに、真意を理解していないふりをすることで、殺害実行の引き延ばしを図っていたのである。だが、それにも限度があった。

〈2月9日の夕方ころ、「東篠崎マンション」の浴室で、智恵子と花奈が口論をした。智恵子は、いつになく苛立ちを見せており、その様子を見て、松永は、「智恵子はやっぱり頭がおかしい。」と断定した。

 

 2月9日の午後11時ころ、松永は、緒方に目配せしながら、「向こうに移る。向こうに移るということは、どういうことか分かるだろう。」と言い、さらに、松永や子供の着替えなど、当面の「片野マンション」での生活に必要な物を準備するよう指示した。松永が述べた「向こう」とは、当時被告人両名(松永と緒方)のもう一つの拠点であった「片野マンション」を意味したが、この時の松永の口調は持って回ったものであったことから、緒方は、これまで「片野マンション」で由紀夫、孝、和美を殺害しては解体してきたこととも考え合わせ、松永の真意は、「片野マンション」に移動して智恵子を殺し、智恵子の死体を解体するという意味であると理解した〉

「智恵ちゃんは、風呂場で寝とっていいよ」

 やがて、2月10日の午前0時前後頃になって、呼び出した隆也の運転する車で、「東篠崎マンション」にいた全員が「片野マンション」に移動した。

〈「片野マンション」に到着した際、隆也は車を付近の駐車場に停めに行ったが、それ以外の者は、他人に見かけられないようにするため、一斉に「片野マンション」の室内に入った。到着直後、松永は、智恵子に、いつになく優しい口調で、「智恵ちゃんは、風呂場で寝とっていいよ。」などと浴室で寝るように指示した。智恵子は、これに従った。

 

 それから10分ほど経って、隆也が「片野マンション」に到着した。松永は、「片野マンション」の台所で、緒方らに向かって、「俺は今から寝る。緒方家で話し合いをして結論を出しておけ。」などと命令し、緒方、隆也、花奈を、洗面所に追い立てた上で、「起きるまでに終わっておけよ。」と言い置くと、台所側から洗面所のドアを閉めた〉

 殺害に一切関与するつもりのない松永は、こうしてふたたび実行の決断を、緒方らに丸投げしたのだった。

( 第72回 へ続く)

松永太の意向を忖度し…夫が首を絞め、10歳の娘が足を押さえ、姉がつま先に手を添えた へ続く

(小野 一光)

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