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《名古屋中1いじめ自殺》元市教委職員が実名告発「調査前から“家庭の問題”と決めつけていた」

文春オンライン / 2021年9月21日 6時0分

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取材に応じた名古屋市教委の元職員・高原晋一さん ©渋井哲也

名古屋中1女子いじめ自殺「アンケートには加害生徒の実名が書いてありましたが…」 から続く

 2018年1月、名古屋市名東区の中学1年生、齋藤華子さん(当時13歳)が自殺した。市長部局に設置された再調査委員会が今年7月に公表した「再調査報告書」では、これまで学校や教育委員会の調査では認めてこなかった「いじめ」の存在を初めて認定されたことが話題となった。しかし、当初は“家庭の問題”との見方から、いじめは否定されていた。

 いったい何があったのか。華子さんが亡くなった当時、名古屋市教委の職員だった高原晋一さん(66)が取材に応じた。

市長から呼ばれ、応援委員会の職員に

 高原さんは、華子さん自殺の調査を直接担当はしていないが、当時、名古屋市教委「子ども応援委員会」制度担当部子ども応援室首席指導主事で、アドバイザー的な役割だったという。子ども応援委員会は、2014年4月、河村たかし市長が設置した。スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカー、スクールポリス、スクールセクレタリーからなるもので、子どもの悩み事を専門的に援助する組織だ。

「この組織を作ったときに、河村市長は、姉妹都市のロサンゼルス市に視察に行きました。そのとき、アメリカと日本のスクールカウンセラーの違いを知ったようです。私は、アメリカで約10年、スクールカウンセラーをしており、著作も出していました。そのためか、市長から連絡があったんです。その当時日本にいましたので、子ども応援委員会の職員に呼ばれました」(高原さん)

大人が言葉として『いじめ』と変換しなければいけない

 華子さんは17年9月、関西地方の学校から転校した。引っ越しや転校はストレス要因になることが再調査報告書でも指摘され、《転入生に対していじめが発生するリスク要因が潜在的に存在する》と、特別の指導・配慮方針を立てる必要性を指摘する。そのため、転入時には、《学級担任以外にいつでも相談できるよう、スクールカウンセラーや養護教諭を個別に引き合わせることも必要》(再調査報告書より、以下同。P94)としている。

「もしかすると、(華子さんは)自分がされていることが、いじめとは思っていなかったかもしれない。なぜか人間関係がうまくいかないと思っていただけかもしれない。しかし、(子ども同士のトラブルについて)大人が、言葉として『いじめ』と変換する視点がありませんでした。『スクールカウンセラーは何をしているの?』って、私は思います。なぜ何もしなかったのか? 学校から頼まれなかった? カウンセラーはそれではダメです。これでは、転校生のリスクは軽減しません」(同前)

 再調査報告書でも、生活ノート、学校生活アンケート、教育相談など「早期発見の取り組み」を実施していることを挙げつつも、《これを形式的に実施していただけで、いじめがあるかもしれないという視点をもって、これらを活用出来ていなかったと言わざるをえない》(P58)と指摘している。

小さい子の聞き取りで“家庭の問題”とされた

 18年1月5日、華子さんは自宅のある集合住宅から飛び降りた。遺書はなく、自殺の原因について当初は不明だった。あるとき、調査の責任者が、直接の調査部署ではない「子ども応援委員会」にも報告をしてきたという。

「(名古屋市教委指導部の)指導室長が『自殺があったが、あれは家庭の問題です』と言っていました。でも、私には違和感がありました。ほとんど調査をしていないのに、おかしいと思ったんです。なぜ、そういう話になったのかというと、華子さんには、当時小学生のきょうだいがいました。その子に聞き取りをしたようで、“お父さんは厳しい”というニュアンスのことを言った、というのです。それが既成事実となり、“家庭の問題”とされたそうです。

 小さい子の聞き取りですので、どんな親であれ、厳しい面はあります。そんなこと言っていれば、どこの親でも“問題”になってしまいます。市教委はしばらく、“華子さんの自殺(の原因)は家庭の問題”としていました。その後も、子どもの自殺があると、家庭の問題にする傾向がありました」(同前)

華子さんの弟へのヒアリング要請

 のちに市教委は、華子さんの自殺の原因は、いじめの疑いがあるとして「重大事態」として認定。市教委の調査委「名古屋市いじめ対策検討会議」が設置される。その会議は18年11月2日、華子さんの弟に対して文書を出した。

《弟さんである●●さん(筆者注:長男の実名)の学校での会話等の内容から●●さんに確認したいことが生じました。もしよろしければ、●●さんにもご協力をお願いしたいと思います。華子さんのことで知っていることや何か気になることなど、どんなことでもよいので教えてください。例えば、おうちでの様子、華子さんが言っていたこと(学校、部活、友人について)などです》

 これは、学校での会話が聞き取りの根拠になっていることを表している。高原さんの言うような聞き取りの内容かどうかは不明だが、学校での会話が市教委に上がっていることを意味するのではないか。

「いじめ対策検討会議が長男へのヒアリングを申し出たときに、保護者同伴は拒否されたので断ったのです。紙面でお願いしたら、『姉のことで何か知ってることはありませんか?』との内容だけだったので、きっと私が厳しく子育てをしていることの裏付けを取りたかったのだと確信しました」(華子さんの父・信太郎さん)

ぶら下がり取材で河村市長は「学校教育側の原因ではない」

 21年8月6日、河村たかし市長と鈴木誠二教育長が一緒に、齋藤さん宅を訪れて謝罪した。その後、河村市長と鈴木教育長は記者たちのぶら下がり取材に応じた。入手した情報によると、記者から「なぜ意思疎通ができていなかったか?」と聞かれた際、河村市長はこう答えている。

「教育長は言い難いだろうから僕から言っておくと、学校教育側の原因ではないと。こういうふうに、早いところからですよ。これは大変言いにくいけど、そういうステップがあるんです」

 改めて記者から「事実ってことなんですか? それとも推測ですか?」と問われ、河村市長は「ほとんど事実です。はい。複数から聞いております」と述べている。

 河村市長の発言通りなら、「学校教育側の原因ではない」ということが、市教委、もしくは周辺から市長に伝わっていることになる。転校したばかりの華子さんの自殺の原因が、「学校教育側」以外の要素となると、個人的な問題か家族の問題とされてしまうのは、不思議な流れではないだろう。結果として、“家庭の問題”とされて地域に噂が流れるのは時間の問題だった。

調査前から“家庭の問題”というバイアスがあった?

 信太郎さんは「“家庭の問題”という噂は初期からあったようです。その後に支援してくれている方に聞きました。時期は正確にはわかりませんが、娘が亡くなって間もない時からだと聞いています」と話している。

 正式な調査を行う以前に、“家庭の問題”というバイアスがあったとすれば、調査の信頼性を揺るがせる由々しき問題だ。

 名古屋市教委指導室に確認すると、「指導室長を含めて、市教委の職員一人ひとりはどう思っていたかはわかりませんが、少なくとも、指導室が組織として“家庭の問題”という断定的な見立てをしていたということはありません。何らかの個人の感想はあったかもしれませんが、指導室としての方向性、方針として申し合わせるという意味合いのことはありませんでした。また、市長に、“学校教育側の原因ではない”という情報があがったとしても、市長には、市教委以外にもルートがあります。ただ、市教委としては組織として、そうした報告をあげていない」とした。

 華子さんの死後、父親の信太郎さん(49)は、いじめの可能性を疑って、学校に調査をお願いしていた。4日後の始業式で、校長(当時)が、華子さんの自殺を全校生徒に報告した。保護者にも文書で伝えて、その翌日の1月10日、学校教職員にアンケートを実施。11日には、全校生徒に記名式でのアンケートを実施した。

 さらに、記名式の回答を読んだ信太郎さんが、無記名のアンケートを要望。23日に実施した。その結果、いじめの加害者の実名が書かれていたものの、学校や市教委はいじめについて詳細な調査をすることなく時間だけが経っていった。市教委の調査では、学校内の人間関係や、部活動での肉体的、精神的疲労などを自殺の原因としていた。

「学校や市教委の調査では、はっきり『いじめ』とは出てきませんでした。加害者とされる子も『いじめ』と思ってないのです。でも、遺族のために理由をつけないといけない。調査では、部活の問題が出てきましたので、『部活にしよう』となったんでしょう。もちろん、本人の気持ちはどうだったのかわかりません。でも、死んでしまうと、権利擁護の議論はしないんですね。調べないんです」(高原さん)

再発防止の研修も形式だけ

 名古屋市に「子ども応援委員会」が設置されるきっかけになったのは、2013年7月、名古屋市南区の中学2年生の男子生徒のいじめ自殺だった。その後も子どもの自殺は続き、15年11月、中学1年生の男子生徒が「ぼくは、学校や部活でいじめが多かった。特に部活が多くよく弱いなとかいろいろいわれていた でもたえきれない」(原文ママ)と遺書のような内容を書いたノートも見つかった。

「このときも、私は調査には関わっていませんが、やはり市教委の職員の立場でした。市教委の独自の調査でいじめを認定しています。本件は調査がスムーズで、部活内にいじめがあったことがわかりました。再発防止のために研修も行われました。しかし、形式だけで、効果的なものではないように思いました。教師の、子どもに対する態度が変わり、自殺防止ができる仕組みができないといけないと思いますが、私から見れば、何も変わっていません。子どもの自殺があると、個人の問題であり、家庭の問題であるという認識が強いように感じました。そんな中で、華子さんの自殺が起きました」(同前)

提言をし続けても素通り

 高原さんなりに、いじめ対策などの改善についてのアイディアを提言することもあった。

「ING(いじめのない学校づくり)キャンペーンをしていますが、それだけではいじめはなくなりません。何か、大きな取り組みをしないといけないと思っています。私は7年間、提言をし続けてきましたが、素通りでした。何も変わっていません。ときどき回答がありますが、『ちゃんとやっています』というものだけ。学校の取り組みや教師の子どもに対する接し方が変わっていないので、私から見れば、『やっている』とは言えません。変わって初めて『やった』と言えるのです」(同前)

教職員たちは報告書を読んでいない

 再調査報告書では、「子ども応援委員会」の制度についても、《名古屋市独自の素晴らしい制度であり、他の都市にはない》と評価されている。一方で、《この素晴らしい制度が、いじめについての子どもの権利擁護に役立っているのか、学校との連携方法など、実効的な組織・運用の在り方につなげるため、検証した上で、制度内容も含めた見直しが必要》(p97)と指摘されている。

「教職員たちは、華子さんの再調査報告書を含めて、これまでの調査報告書を読んでいないですね。ちゃんと読むつもりはないのです。何かをしようという気がないのではないでしょうか」(同前)

 市教委は、過去の報告書について、「すべての教員が報告書を読んでいないという指摘はその通りです。冊子そのものを読んでいないということはあったとは思います。しかし、具体的な学校としての取り組みとして実行されています」(指導室)と回答した。

 また、華子さんの自殺に関する報告書についても、「市教委の調査報告書は詳細な部分もあり、公表できないものがありますので、概要版は見るように案内しています。再調査報告書も目を通すように周知させていただいています。教職員には、それらの報告書を自分ごととして捉えるために読んで欲しいと思っています。それが意識改革の一つです。今回の再調査報告書については、9月の校長会でもすでに取り上げ、レクチャーしています。あとは、校長会が現場で具体化していくことになります」(指導室)としている。

自殺の理由をわからなくしておきたいのでは

「名古屋市では、毎年、複数の子どもの自殺がありますが、その度に、“どうして自殺が起きるんでしょうか? 理由がわかりません”となってしまっています。そのまま、わからなくしておきたいのでは、と思ってしまいます」(高原さん)

 いじめ対策の形骸化は、再調査報告書でも《(当該校では、)いじめ防止対策の要であるいじめ防止基本方針、いじめ防止対策の重要な委員会であるいじめ等対策委員会が形骸化しており、いじめ防止のための活動として実態がなかった》(P55)と指摘されていた。子どもを守るための変化が求められている。

(渋井 哲也)

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