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まもなく環状運転100周年 山手線はなぜ新型車両を短期間で入れ替えるのか

文春オンライン / 2021年9月26日 11時0分

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山手線で唯一の踏切、第二中里踏切 ©iStock.com

 東京を代表する通勤電車といえば山手線。ぐるぐる回る環状運転の山手線だ。

 環状運転の開始は1925年だった。2025年に環状運転100年を迎える。その記念すべき年に電車の自動運転、無人運転が始まったらカッコいいと思うけれど、もうすこし時間がかかりそうだ。

 自動運転の技術はほぼ完成しており、JR東日本は2018年の年末から2019年の年明けにかけて終電後に実験も実施した。かなり実用化に近づいたところだけれども、課題は「安全」と「安心」だ。

自動運転と「踏切廃止」の関係

「安全」に100%はない。しかし、機器の改良などで高められる。「安心」は文字通り「心」の問題で、心理的な不安を取り除く必要がある。山手線の不安の種は「踏切」だ。乗客で気づく人は少ないだろうけれど、山手線は1カ所だけ踏切がある。駒込駅と田端駅の間にある「第二中里踏切」だ。

 もともと山手線が高い位置にあり、低い位置の山手貨物線をまたぐという地形になっている。山手貨物線は貨物列車のほか、湘南新宿ラインが走っている。道路は山手貨物線をまたぎ、山手線部分で踏切になっている。

 地元の人々は「開かずの踏切」としてなんとかしてほしいと思っているはずだ。しかし、付近に建物が密集しており、線路側も道路側も立体交差工事を実施するための余地がない。したがって、山手線で唯一、改良計画に着手できなかった。

 しかし、2016年に「踏切道改良促進法」が改正され、2017年に国土交通大臣によって「改良すべき踏切」に指定された。北区とJR東日本は、改良に着手して実施する義務がある。エレベーター付きの歩道橋を設置する案もあったという。クルマについては現状のままか、踏切を廃止して迂回してもらうか。

 北区とJR東日本が様子見を続けた理由に迂回路の計画があった。東京都の都市計画道路で、踏切より200mほど田端寄りで山手線と山手貨物線の線路をまたぐ。ここが迂回路になるから、北区とJR東日本は踏切廃止で合意できる。都市計画道路は予算や優先順位で着手時期が決まる。東京都は、都市計画道路の線路をまたぐ部分だけ未着手だったけれども、2020年11月に着手を決定した。ただし完成までは10年かかるという。つまり完成は早くて2030年だ。この時点で第二中里踏切が廃止され、山手線の自動運転の環境が整う。

山手線の「進化」

 首都・東京の進化と山手線はリンクしている。すこし歴史をたどってみよう。

 山手線は当初、民間会社の日本鉄道によって、品川線として1885年に開業した。品川・渋谷・新宿・赤羽を結ぶ路線だ。新橋~横浜間を結ぶ官設鉄道と、上野~熊谷間を結ぶ日本鉄道を結び、北関東の産品を横浜港から輸出するための輸送ルートだ。上野~新橋間は民家が多く鉄道の建設をあきらめ、人口が少ない山手地域へ迂回したわけだ。

 1890年に日本鉄道は、上野から秋葉原へ貨物線として延伸する。秋葉原で神田川の海運と連絡した。そこで品川線の池袋から分岐し、田端にいたる「豊島線」を計画した。1901年、品川線と豊島線を統合して「山手線」とした。1909年に電化され電車の運転を開始。1914年に東海道本線の品川~東京間が開業すると、山手線も電車線を延長して東京駅に乗り入れる。1919年に東京駅から中央線に乗り入れた。電車の運行経路は中野~神田~東京~品川~渋谷~新宿~池袋~上野となった。「の」の字運転と呼ばれた。

 1923年の関東大震災と復興を経て、1925年に神田~秋葉原間が開通し、山手線の環状運転が始まった。東京市域の人口が急増し、もはや山手線に「貨物迂回路」の面影はない。もっとも、貨物列車の需要も増えていたから、品川~池袋~田端間は複々線化され、それぞれ旅客列車用と貨物列車用になった。後に貨物列車用の線路を使って埼京線や湘南新宿ラインが運行されている。

環状運転の利点

 山手線は複線の環状運転を実施して、列車の増発を容易にした。同じ方向の列車がぐるぐる回るから、どんどん列車を追加できる。連結車両数を増やせるし、運行間隔も短くなる。東京の人口増と乗客増をどんどん受け入れていく基盤となった。

 往復運転の複線区間では、終端駅で列車を折り返す場合に分岐器を通って上り線と下り線を移る。このとき、同時に上下線を塞ぐ時間ができる。その間はほかの列車が分岐器地点を通行できず、折り返し列車の通過を待つ必要がある。あるいは待たずに済むような運行間隔を保つ。列車の連結車両数が増えるほど輸送力は増えるけれども、列車が長いほど分岐器通過時間も長くなり、運行間隔は広がってしまう。

 環状運転の場合、折り返しがないから、列車が内回り線と外回り線を同時に塞ぐことはない。現実的には車庫の入出庫で線路を塞ぐこともあるけれども、通勤時間帯など混雑する時間を避けて、ゆとりのある時間帯に入出庫すればいい。長編成の電車を可能な限り短い運行間隔で走らせる。これが環状運転の利点だ。

新車を大量に導入するワケ

 山手線の駅の時刻表を見ると、もっとも運行本数の多い時間帯の発車時刻は、たとえば「0、2、4、7、9、12、14、16、19、21、24……」となっている。これは「2~3分おき」と読み取れるけれども、厳密には「2分40秒の等間隔」だ。駅や市販の時刻表では秒の単位を切り捨てるため、分だけの表示だとばらつきがあるように見える。それにしても2分40秒間隔は短い。環状運転の利点を最大に引き出している。

 運行間隔を切り詰める場合は、各列車の性能を揃える必要がある。そこに高性能な新車を導入し、高性能なまま走らせようにも、先行列車に追いついてしまう。したがって、旧型車が混じっている間は、旧型車の性能に合わせるしかない。すべての列車が新型に置き換われば、新型の性能に統一して運行間隔を保てる。このとき、やっと新型車両に合わせた所要時間でダイヤを改正できる。

 分かりやすいたとえでは、東海道新幹線の「のぞみ12本ダイヤ」は、700系が引退し全列車が「N700A」になった時点で可能になった。

 高頻度の運行形態は「山手線に新車が大量に投入され、短期間で全車両が入れ替わる」理由になっている。山手線も京浜東北線も中央線も利用者が多いから、各路線に均等に新車を導入する方が顧客サービスとして平等だ。どの沿線からも不満は出にくい。しかし、山手線は新車を一気に入れ替える必要がある。列車ごとの性能にばらつきがあると、「2分40秒の等間隔」を保てなくなるからだ。

 現在の山手線の電車はE235系で統一されている。E235系は2015年に第一編成がデビューし、2020年には全車両がE235系に置き換わった。つまり、2015年に誕生した編成は、5年間は旧型車に合わせた性能で走っていた。もし、他の路線にまんべんなく新型車両を配ったら、車両の統一まで10年、20年もかかるかもしれない。せっかく新型車両を導入しても、30年程度の車両寿命に対して、10年も20年も旧性能のままで走らなくてはいけない。これではもったいない。

 新型車両は同じ路線に集中配備する。特に山手線のような高頻度路線で重要な考え方だ。そして短期間ですべての車両が置き換わると、路線全体が進化したように見える。現在のE235系の登場は2015年、先代のE231系は2002年の登場だった。次の新車投入も13年後とすれば2028年。踏切撤去は2030年の見込みだから、当然ながら自動運転を前提に開発されることになるだろう。

まもなく渋谷駅で大工事&運休 山手線はどこまで進化するのか へ続く

(杉山 淳一)

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