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ヌルッという感触で出血を確認…「犯人の目にはまるで感情がなかった」“新幹線無差別殺傷事件”現場に居た女性が明かす“犯人”の姿

文春オンライン / 2021年9月30日 6時0分

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写真はイメージです ©iStock.com

《新幹線無差別殺傷》「ばんざーい! ばんざーい! ばんざーい!」殺人犯が法廷で見せた“異常行動”の“真意”とは から続く

 2018年6月9日、走行中の東海道新幹線の車内で男女3人が襲われ、2名が重軽傷、1名の男性が死亡するという凄惨な事件が起きた。犯人の名前は小島一朗。犯行の動機について聞かれた彼は「刑務所に入りたい」と答えた……。

 身勝手すぎる理由で無差別殺傷を実行した男は、なぜそうした歪んだ考えを抱いたのか。そして、どのような経緯で犯行に至ったのか。

『 家族不適応殺 新幹線無差別殺傷犯、小島一朗の実像 』(KADOKAWA)の一部を抜粋し、裁判記録を元に事件のあらましを振り返る。(全2回の2回目/ 前編 を読む)

◆◆◆

血で染められた新幹線

 以下は、主に裁判記録を元にした再現である。

 小島が、辰野にあるホームセンターでナタを購入したのは、2018年6月8日、犯行前日のことだった。凶器にナタを選んだ理由は、撲殺との両面を考えてのことだ。鞘付きのナタだから、バッグにも入れやすい。同じ日、予備の凶器として鞘付きの果物ナイフも購入した。

 一番に狙う場所は首。太い血管が切れるくらいまで振り下ろす。確実にやり遂げるために、彼は前夜に公園でナタの素振りもしている。

 犯行当日2018年6月9日の朝、小島はJR岡谷駅付近の自転車置き場に自転車を停めると、特急あずさに乗って諏訪を離れた。最後の食事を味わうために、新宿へ向かったのだ。

 その日は、土曜日だった。昼頃に到着した小島は、事前に携帯で調べていた美味しいラーメン屋を訪ね歩いた。そして最後の食事にと、ラーメンを食べた。そのまま新宿で時間をつぶし、夜が来るのを待って東京駅へ移動する。

 東京駅に着くと、JR東海道新幹線の券売機で、「のぞみ」の最終便を選んで指定席券を購入した。誰でもいいから隣に座った人間を襲う。その後は、目についた相手をもう1人。あとは流れに任せようと考えた。座席は、被害者の退路を塞ぐため、2人席の通路側を選択している。

 改札を抜けると、駅構内にある男子トイレの個室に入り、犯行準備に取り掛かった。鞘の留め金を外し、ナタを取り出しやすくしてバッグに戻す。ナイフはズボンの右ポケットに入れた。

 小島を乗せた新幹線は、21時24分、東京駅から発車した。

 最初はガラガラだったが、新横浜駅に停車すると、大勢が乗り込んできて車内は一気に賑わった。そのほとんどは、日産スタジアムで行われた「東方神起」コンサートの帰り客である。車掌長の証言によると、新横浜からの乗客は880人になり、席の7割近くが埋まったという。

 指定席12号車で、小島は18番D席・通路側に座っていた。新横浜駅で、その隣の18番E席・窓側にX子さんが乗り込む。通路を挟んで同列の18番C席・通路側にはY美さんが座った。ともに、「東方神起」のコンサート帰りの客だ。

 X子さんは、2日間のパックツアーで席を取っていた。この日、乗車に間に合わないかもしれないと心配したが、無事に乗れてホッとしているところだ。

 Y美さんは母親と一緒にコンサートを見た後、別行動を取り、1人新幹線に乗っていた。席は乗車直前に母親が取ってくれた。最初は真ん中の席だったが、直前でキャンセルが出たため通路側に変更している。

 小島とX子さんが座る2列シートのD席とE席は、真ん中に5センチほどの肘掛けが一つあるだけで、ピッタリとくっ付いている。何か動作をすればすぐに身体が当たってしまう。そして、Y美さんと小島が座る、C席とD席の間の通路は幅1メートルほどで、1人立てば道が塞がるほど近い。

「犯人はこちらを見ることもなく無反応のままでした」

 X子さんは、小島の隣に座ったときの様子を裁判でこう証言した。

「犯人の前を通って席に座るとき、『すみません』と声をかけました。けれど反応はなく、こちらを一瞥することもなく、ただ前を向いていた。荷物を置いている途中、腕が当たったので『すみません』と言ったけれど、犯人はこちらを見ることもなく無反応のままでした。犯人は、リクライニングシートを倒さず、そのまま座っていました。襟が詰まったシャツを着て、静かすぎる印象です。会社員がラフな恰好をしている感じに見えましたが、スマホも見ていないし、不思議な人だなと思いました」

 21時42分、新横浜駅を発車。車内アナウンスが流れる。

「今日も東海道新幹線をご利用くださいましてありがとうございます。この電車はのぞみ265号新大阪行きです。停車駅と到着時刻をご案内いたします。次の名古屋には22時57分、京都23時32分、終点新大阪には23時45分に到着です。この電車の運転手はJR東海の――」

ざわついた車内、唖然とする乗客

 小島は、立ち上がった。身体を窓側に向けて、上の荷物棚に置いてあるバッグに手を伸ばし、鞘を外してナタを取り出す。そして、無言のままナタを頭上に持ち上げると、隣に座るX子さんの首をめがけて、一気に振り下ろしたのだった。

 凶行が始まったのは、新横浜駅を発車して約4分後の21時45分。

 X子さんが左手の甲に衝撃を感じて左側を見ると、男が無言で立っていた。次の瞬間、棒のようなものを振り下ろされる。攻撃は、3回、4回と続いた。あまりの出来事に、叫んだかどうかもわからない 。

 ふと犯人の手が止まり、X子さんは滑るようにテーブルの下に潜り込んで、体育座りの姿勢を取った。どこかで女性の声がした。目の前で男性が犯人の両手を掴み、取っ組み合っているのが見える。これがのちに殺害されるZ夫さんだった。Z夫さんは犯人より背が高く、2人とも無言だ。

 このとき、ヌルッという感触を覚えて、X子さんは、はじめて自分の右首から血が出ていることに気が付いた。女の人が逃げている姿が見える。Z夫さんは、犯人よりも体格が良く、このとき負けているようには見えなかった。X子さんも、逃げた。車両を移ると、血まみれのX子さんを見て、車内がざわついた。状況を把握できず、皆、唖然としている。誰かが「止血するものをくれ」と叫び、女性がタオルを渡した。止血しても、血は止まらなかった。

 C席のY美さんは、コンサートグッズを足元に置いて座っていた。缶ビールをテーブルに置き、ゆったりくつろぎながら帰るつもりだ。スマートフォンでインスタグラムを開こうとしたとき、右側から「キャー痛い!」という女性の叫び声が聞こえてきた。びっくりして右横を見ると、通路を挟んだ隣の座席で、腕を上下に振り下ろしている男の背中が見えた。

 以下は、Y美さんの証言である。

「私が立ち上がると、後方からZ夫さんが来て『やめろよ!』と止めにかかりました。このとき、刃物を持っていると思わなかったのではないかと思います。犯人は何も口にしません。犯人がその手を振りほどいて、身体を反転させ、Z夫さんがよろけました。そのとき、犯人と目が合いました。その目は、一言でいうと『無』でした。まるで感情がなかった。“殺される”と思いました。刃物を持っているし、無差別に襲っているとわかります。感情のない様子から、特定の人を殺しているのではないとすぐに思いました」

 Y美さんの感じた、この“感情のない目”については、他の目撃者も同様の証言をしている。X子さんを攻撃している最中の犯人の表情をハッキリ見たという女性は、「無表情で目が据わっている」と感じたという。

 彼女たちを助けるため、犯人と揉み合っていたZ夫さんは、小島の座る18番D席から2列後ろの20番D席に座っていた。そこは12号車の最後尾で、後方のドアから真っ先に逃げられる場所だ。しかし、Z夫さんは迷わず犯人に立ち向かった。

 3日前より兵庫から東京出張に来ていたZ夫さんは、2日間の仕事を終えた後、同窓の友人とゴルフへ行き、この日は新幹線で夜遅くに帰る予定でいた。

ナタを置く

 乗客たちは一斉に逃げ、12号車から11号車へ、11号車から10号車へと人がなだれ込んだ。10号車の後方を巡回していた男性車掌長は、すぐに異常を察した。

「刃物を持ってるぞ!」

「逃げろ!」

 叫び声とともに、乗客が将棋倒しになり、パニックに陥っている。車掌長は、乗客を避難誘導すると、逃げてくる乗客をかき分け、すぐに11号車へ向かった。

 シュッと自動ドアが開き、11号車に足を踏み入れる。車内を見渡すと、荷物が散乱し、残留客が数名いた。異常は見受けられない。

 そのまま通路を歩いて12号車へ向かう。自動ドアが開くと、目に飛び込んできたのは、約10メートル先の通路の中ほどで、男性が男性に馬乗りになっている姿だった。

 下の男性は、車掌長に頭を向ける形で仰向けに倒れている。上に乗った男は、男性にまたがって膝をつき、身体を車掌長に向けて前かがみになっていた。そして何かを振り下ろしている。そしてそこから、大量の血液が車掌長の足元に向かって流れていた。

 犯人はまだ、車掌長の姿に気づいていない。

 証人として法廷に立った車掌長は、衝立越しに、そのときの様子をこう語った。

「やめてください」「その人を助けさせてください」

「すぐに『男性を助けなきゃ』と思いました。それからゆっくり近づいて、途中で座席の座面を盾にしました。乗客が座るクッション部分は、簡単に取り外せるようになっているのです。最初は何かわからなかったけれど、近づくと被告が持っていたのはナタであるとわかったため、通路にあったキャリーバッグに持ち替えました。なぜナタとわかったかと言いますと、私は家で薪ストーブを使っているため、ナタで木を切ることがあり、それでナタとわかりました」

 キャリーバッグを盾にして、3メートル、2メートルと近づいた。しかし、犯人に変化はない。

車掌長は、犯人に向かって叫んだ。

「やめてください」

「その人を助けさせてください」

 しかし、犯人が言葉に反応している様子はない。無言でナタを振り下ろし続けている。2メートル距離を取った車掌長も、ナタを持った犯人にそれ以上近づくことはできなかった。

 非常停止ボタンが押された新幹線は、緊急停車したのち、もう一度動き出して小田原駅に向かっていた。

 徐々にナタを振り下ろす間隔が長くなる。そして、犯人の手が止まった。“疲れたから止めたのだろう”と、車掌長は思った。犯人は肩を上下に動かし、息が上がっている。自分の声がけで止めたとは思えなかった。

 手が止まると、犯人はキョロキョロと辺りを見回した。再び、車掌長が声をかける。

「こっちを見て!」

 男は一度だけ車掌長を見たが、またすぐにキョロキョロした。

「目を見て!」

 もう一度声をかけると、男は車掌長と目を合わせた。

 目が合うと、車掌長は言った。

「なにがあったんですか? 話を聞きます」

 男は、まだナタを手に持っている。

「それを捨てよう」

 しかし、男はナタを離さない。ようやく床に置いたのは、小田原駅に停車する直前だった。

 小田原駅で待機していた警察官は、車内に乗り込んでくると、犯人に向かって「立て、手を上げろ、うつ伏せになれ」と命令した。犯人は無言で応じ、おとなしく逮捕されたのだった。

【前編を読む】 《新幹線無差別殺傷》「ばんざーい! ばんざーい! ばんざーい!」殺人犯が法廷で見せた“異常行動”の“真意”とは

(インベカヲリ☆)

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