1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. カルチャー

恐竜研究者が熱弁、リアルな復元に必要なのは「肋骨への愛」だ!

文春オンライン / 2021年10月4日 6時0分

写真

古脊椎動物を研究している名古屋大学博物館講師の藤原慎一さん

 もしも恐竜が絶滅しておらず、どこかに生き残りがいたら――。そんな「IF」の世界を描いたコミックが『 ディノサン 』(木下いたる著、新潮社)だ。主人公は「恐竜園」で飼育員を務めている。

 もちろん生きている恐竜の姿を見たことがある人類はいないが、本作では恐竜の「生態」をなるべくリアルに描こうとしている。その監修を行っているのが、恐竜など絶滅した動物の姿や動作を研究している古脊椎動物学者の藤原慎一氏(名古屋大学博物館講師)だ。

 化石などからどうやって生態を解き明かしていくのか。そして、恐竜のポーズに秘められた事実とは……。恐竜研究者へのインタビューを数多く手がけている安田峰俊氏が話を聞いた。

専門家の立場で恐竜の骨の形や輪郭、動作を監修

――まず『ディノサン』監修を担当された経緯からお願いいたします。

藤原 私の師匠の真鍋真先生(国立科学博物館副館長)からお話をいただいたんです。先生の教え子のなかで私が一番、恐竜の動作の復元なんかをやっているのと、私自身絵を描くのが結構好きなので、そういうところからお話があったのかなと思っています。

――『ディノサン』第1話・第2話ですと、具体的にどういう部分について監修をおこなわれましたか。

藤原 まずは骨の形とか輪郭。たとえば第1話に登場するギガノトサウルスは、下顎の先端の尖り方が特徴的でややしゃくれていたりします。あと、私が一番助言できるのは、恐竜の動作についてですね。立っているときに「このポーズだったらどこの筋肉をムキっとさせましょう」「身体の重心をもうすこしこっちに持っていくほうがリアリティがあります」とか。そういう部分を気にして恐竜の姿を復元する人が、あまりいないんです。

――作中で興味深いのが、恐竜のしゃがみかたの描写です。たとえばギガノトサウルスやアロサウルスのような大型の獣脚類が独特のポーズで座っている。これまでの映画などですと、大型獣脚類の休憩は、上半身を地面につけて腹ばいになっているような格好が多かった気がしますが。

藤原 腹ばいみたいなポーズをすると、呼吸が苦しくなって肋骨が折れるリスクが高くなる。身体の構造からして無理なはずなんです。実際は『ディノサン』作中のように、恥骨の部分をイスのようにして、そこに体重をあずけて座っていることの方が多かったと思います。これは化石からも裏付けられていて、カカトから先をペタッと地面につけた「しゃがんだ姿勢」の痕跡が残った足跡化石には、両足の間に恥骨の跡が残っていたりします。

骨格の構造や筋肉のつきかたなどから姿勢が推測できる

――『ディノサン』第3~4話に登場するトリケラトプスの場合は、ネコの「香箱座り」のようなポーズでかわいく座っていますね。

藤原 骨格の構造や筋肉のつきかた、見つかった化石のポーズから、この姿勢をとったのだろうと。ヴァガケラトプスという恐竜は実際にしゃがんだ状態で見つかっています。私は過去にも恐竜イラストの監修に関わったことがありますが、「こういうの描いたらどう?」と提案してもなかなか反映してもらうことは難しい。ワンカットの絵では、座りポーズなんてなかなか出てきませんから(笑)。でも、『ディノサン』はマンガなので、いろんなカットの恐竜の動作が描かれる。さらに、トリケラトプスの「香箱座り」については木下先生が物語の鍵となるシーンとして生かしてくれています。このような形で、座っている恐竜たちの姿が世に出てくれてすごく嬉しいです。

――恐竜に限らず古生物の化石は、骨や歯などの硬質な部分が残りやすくて、筋肉のような軟組織が化石化する例はほとんどないですよね。そもそも、恐竜の「筋肉のつきかた」が、なぜわかるのでしょう?

藤原 大原則として、体の主要な筋肉は、現在生きている動物と共通していたと考えられます。また、筋肉そのものは化石になりにくくても、筋肉の付着位置は骨の形からわかる。そことそこを結べば、実態からそう遠くない筋肉の復元は可能なんです。さらに、その筋肉を持つ肉体が、ある動作をおこなうときにかかる重力の方向や、動作の速度や方向、どの筋肉を使うかといったところも、計算や推測ができるわけです。

――従来、恐竜や中生代の古生物が登場するフィクション作品で、最も多くの人に知られているのが『ジュラシック・パーク』シリーズでしょう。先生としては、作中の描写をどう感じられていますか。

藤原 『ジュラシック・パーク』の第1作は、CGで恐竜を動かして映画作品として送り出したパイオニア的な作品だという点で、私も大好きなのですが、その後はリアリズムの追求を怠っている印象があって、見なくなってしまいました。『ジュラシック・パーク3』まではギリギリ見たのですが、画面的な迫力ばかり重視する方向に流れてしまっている気がする。誇張が多かったり、基本的な骨格の描写が化石に忠実ではないところが多いんです。恐竜の動きについても、実際にこんな動きをすれば大ケガだぞ? という。

――具体的にはどういう動きでしょうか?

藤原 『ジュラシック』シリーズ内ではティラノサウルスが猛ダッシュして車を追いかけたりしていますよね。でも、ティラノサウルスの大きさとあの骨格で、あんな走りかたをするには、「スーパーサイヤ人3」みたいな超ムキムキのモコモコの筋肉じゃないと難しいそうです。すでに、そのシミュレーションも行われています。また、個人的には作中のような脚の関節のつきかたで、猛ダッシュしているとアキレス腱断裂しないかハラハラしてしまいますね……。

「1つでも無理なところが生じたら、動物にはできない動きなんです」

――なるほど。ほかに恐竜関連のフィクションといえば、現在の大人世代にとっていちばん馴染み深いのはアニメ映画『ドラえもん のび太の恐竜』でしょう。作中ではフタバサウルス(正確には恐竜ではなく首長竜)のピー助がまだ幼体のときに、のび太が投げたバレーボールを、長い首でポンと打ち返すシーンがありますが、あれは可能なんでしょうか?

藤原 そもそもピー助は陸上で運動できたのでしょうか。検証してみないとですね……。あと、フタバサウルスみたいなプレシオサウルス類の仲間は、どれほど頸の可動性が高かったか、それについても検証しないといけません。ピー助とバレーボールをすると、横からの衝撃でポキっと頸椎脱臼を起こさないかが心配です。

――首長竜を飼うときは気をつけないと。しかしピー助はともかく、ティラノサウルスの猛ダッシュくらいは、本人(?)がすごく気をつけて頑張ればできなくもないのではありませんか?

藤原 仮に「○○の筋肉だけ」を局所的にみて、そういう動きが可能だという推論ができたとしても、体全体のバランスで考えると無理ということは多い。1つでも無理なところが生じたら、そこはもう、動物にはできない動きなんです。

――なるほど……。

藤原 たとえば、鳥盤類の恐竜には、いちど2足歩行になったのに進化の過程で再び4足歩行に戻った仲間が多くいます。それこそトリケラトプスのケラトプス類の系統もそうですね。いっぽう、獣脚類の大部分は2足歩行から再び4足歩行には戻らなかった。その理由は肋骨が関係しているとみていますが……その理由がどこにあるのかを、いま研究中です。胴体の骨格が十分な強度を持っていないと、前あしで体重を支えることができません。もし、胴体の骨の強度に違いが見られるなら、獣脚類と鳥盤類で違った進化をしていった要因も説明がつくと考えています。

肋骨にはそれぞれ特有の形があり、意味がある

――大型の獣脚類は腹ばいポーズができなかった、という、恐竜の座りかたについての冒頭の話にもつながってきますね。

藤原 はい。たとえば、ティラノサウルスの「腕」は数百キロのものを持ち上げることができたという研究もあります。しかし、それならばティラノサウルスは四つん這いのポーズができたか? それは難しいと思います。なぜなら、「腕」という局所的な部位では可能だったとしても、胴体の骨格がもたなければ、それは不可能です。すなわち「体全体のバランスで考えると無理」ということになるわけです。

――恐竜図鑑やBBCの恐竜ドキュメンタリーに出てくるポーズでも、肋骨をはじめとした骨への負担や、筋肉のつきかたを考えると不自然なケースはありそうです。

藤原 恐竜の絵やCGというのは、骨格をしっかりなぞって描けば、本来は誰でも正確に書ける……はずなのですが、それがおこなわれない例は意外とたくさんあります。特に大きな問題は、多くの復元に「肋骨への愛」がないことです。

――肋骨は愛の対象だった。

藤原 そうですよ(笑)。肋骨は胴体の輪郭を作る。しかし、愛のない人が復元すると、肋骨はみんな同じ形だと勝手に想像して、胴体を前の方からまん丸く作ったりする。しかし、そうじゃないんです。実際の動物を背中から見ると、ゾウは美しいナスビのような形をしているし、ヤギであれば肩のあたりがすごくキュッとなっていて、お腹はポッと膨らんでいて……と、それぞれ特有の形がある。またその形にはそれぞれ意味がある。しかし、それが無視されることが多いんです。

「骨格愛」「筋肉愛」のきっかけは『キン肉マン』と相撲

――普通、恐竜学者は化石や地質への関心が強い方が多いイメージですが、お話をうかがっていますと、先生は血の通った生き物の肉体への関心が強いタイプのように感じます。

藤原 その通りです。私の場合、化石をばんばん見つけていくのはあまり得意ではないいっぽう、生物学的なアプローチをおこなっています。近年は日本でも恐竜研究の裾野が広がって、こうした角度からの研究もできるようになってきました。他にも発生学的な部分からアプローチする研究者ですとか、さまざまな角度から恐竜をとらえる動きが広がっています。

――特に藤原先生の場合は「骨格愛」や「筋肉愛」を強く感じます。どういうきっかけがあったのでしょう?

藤原 もともと『キン肉マン』が大好きで、ウェブでファンページまで開設していたくらいなんです。もう閉じてしまいましたが。あと、相撲を見るのも好きでしたね。昔の相撲だと、吊り技が得意な力士は僧帽筋が発達し、突き技が得意な力士は三角筋や上腕三頭筋が発達する。そういう体型の違いと得意技の関係というのもおもしろい。ボディビル的な「見せる筋肉」もいいのですが、テニス選手の腕みたいに、ある動作を理由に発達した筋肉のほうが興味ありますね。

マンガは恐竜の動きをより正確に描写するのに向いている

――恐竜といえばフィギュアも人気ですが、藤原先生が造形の面で評価しているメーカーなどはありますか?

藤原 実際の骨格の3Dスキャンや写真を正しくトレースしたものがあれば、それ以上正確なものはないので、評価できると思っています。ですが、ポーズを取らせたときの骨の角度や筋肉の張りとかまで考えると、まだまだ改善していく余地はあると思います。

――なるほど。いっぽう、今回の『ディノサン』に登場する恐竜は、骨格にもとづいて、筋肉の形までしっかり考証して描かれている……と考えていいわけでしょうか。

藤原 そうですね。CGやフィギュアについて専門家が監修をおこなった場合、監修者が「○○の部分をなおしたほうがいい」と言っても、技術的な問題や、制作時間や作り直すコストの問題で、充分な修正ができないことがあります。ただ、『ディノサン』は作者の木下先生ご自身がそこに妥協をされない方で、しっかりなおしてくださっています。これは監修者冥利に尽きて、うれしいですね。

――CGやフィギュアと比べると、マンガの場合は相対的に絵の修正が容易なので、恐竜の動きをより正確に描写するのには、向いているメディアなのかもしれません。

藤原 そうですね。あと、本作についてはなにより木下先生が熱意を持って描かれている。ご本人が動物好きで、現代の動物の行動なんかも参考にして、リアリティのある恐竜の行動を描写していただいています。

――9月9日に刊行された第1巻では、ギガノトサウルスの食事、トロオドンの産卵、トリケラトプスの生態、ディロフォサウルスの病気がリアルに描かれました。次巻予告ではアロサウルスが登場するみたいですが、飼育員を襲ったらしき描写がありますね。アロサウルスの骨格と筋肉は、果たして人間を襲うという動作ができるのでしょうか?

藤原 それはぜひ、マンガを読んでのお楽しみということで(笑)。

――ありがとうございました!

恐竜が絶滅しなかった世界、“普通の動物”として恐竜を飼育してみると… へ続く

(安田 峰俊)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング