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教師が「悠太と関わるな」「嘘を吹聴した」と追い込み… なぜ道教委は「指導死」と向き合わないのか

文春オンライン / 2021年10月12日 16時0分

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控訴審判決の後の記者会見で(2020年11月) ©️渋井哲也

「教員からの不適切な指導や対応を契機として、自殺に追い詰められた事実を知ってほしい」

 2013年3月3日、北海道立高校1年生の、悠太さん(享年16)が自殺した。遺族によると、吹奏楽部の顧問が、他の部員たちに「悠太と関わるな」と言うなど、悠太さんを孤立させたうえ、前日に不適切な指導をしたことが自殺の原因だとして訴えていた。

 控訴審の札幌高裁(長谷川恭弘裁判長)は2020年11月、遺族の訴えを棄却したが、自殺前日(3月2日)の指導は不適切で、自殺の契機だったと認定した。遺族側は、上告をせずに、道教委との話し合いの道を選んだ。2021年9月24日、判決後初めて両者は面談をした。

連絡網メール以外の連絡禁止、部員には「悠太と関わるな」と指示

 不適切な指導をめぐっては調査委員会が設置されたり、裁判になったりするなど、社会問題に発展するケースが相次いでいる。文部科学省は、2010年に作成された学校・教職員向けの基本書「生徒指導提要」(以下、「提要」)の改訂を目指しており、協力者会議で議論が行われている。「不適切な指導」があることが前提の議論がされるか注目したい。

 札幌高裁判決などによると、2013年1月末、悠太さんと他の部員とのメールトラブルがあり、学校側は悠太さんのみを指導対象とした。悠太さんに対し、連絡網のメール以外は禁止とし、部員には「悠太と関わるな」と指示した。

 2月、部内で別の問題が生じた。顧問は「悠太が嘘を吹聴した」と決めつけ、自殺前日の指導が行われた。指導の場所は音楽準備室。上級生の部員4人を立ち合わせた場で顧問は事実確認せず、「何のことかわかっているな?」「俺なら黙っていない」などと叱責。他の部員と一切のメールを禁止した。

『提要』に沿っていない指導だったことは明らか

 自殺前日の指導について、判決は、指導の前提事実を十分に伝えず、部員間のメール禁止という部に残す条件が判然とせず、「適切とはいえず、本件生徒に対して教育的効果を発揮するどころか、かえって本件生徒を混乱させる指導になってしまったと言わざるを得ない」「組織的に対応をしていれば、不合理な指導は回避できた」「不合理な指導が自殺の『契機』になった」などと指摘した。

 遺族はこう話す。

「『提要』は、生徒指導を行う教師側の心得です。本来なら指導の必要性を教員で共有し、その必要性に合った指導を教員が行うことになっています。その指導も目的や守秘義務について明確に伝えるなど、面談のやり方等も細かく記されています。

 でも悠太に対する指導は、『提要』に沿ったものではありませんでした。それについて裁判所は、道教委の主張とは反する認定をしました。それでも、道教委は指導が“適切”との判断を変えていません。となると、提要の意味は何なのでしょうか」

和解期日を設けても遺族との面談を拒み続け

 控訴審では、結審後、長谷川裁判長が和解を勧告した。何度も和解期日を設けていたが、道側は遺族と話し合いのテーブルにつくことはなかった。道教委は、不適切とされた指導内容を検証することに否定的だ。遺族は今年7月、道教委あてに、認識を問う要望書を提出。改めて面談を要望した。道教委は8月20日、「当方の主張が認められたものと考えておりますが、判決については厳粛に受け止めています」などと回答。その上で、遺族との面談を拒んだ。

 遺族側は道教委の回答を「事実上の無回答」として、8月31日、鈴木直道・道知事との面会を求める要望書を提出しようとしたが、「(要望書の)窓口は道教委」と言われたため、要望書の提出を断念した。その後、道議会文教委員会で、 旭川市のいじめ凍死事件 とともに、この問題が取り上げられた。こうした点を踏まえ、道教委は方針を一転。9月24日、生徒指導・学校安全課長と遺族が面談することになった。

 遺族との面談について、筆者の取材に対して、道教委は課長補佐が対応した。

「道教委としては当初、遺族の要望書に回答をすればいいと思い、面談を遠慮させていただきました。しかし、要望書の回答後、遺族が知事部局に訴えたこと、道議会文教委員会でも質問があったこと、他にもいろいろな方からの話があったこと。それらを考慮して、遺族とお会いして、もう一度、こちらの考えを伝えた方がいいと思いました」

 道教委は、悠太さんの自殺前日の指導をめぐる見解を変えていない。遺族と面談したものの、「裁判を通じて道教委の考えを伝えている」との回答に終始したという。

「同じことを繰り返してほしくない」という遺族の思い

「『裁判で争った点はすべて適切か?』という問いに対してですが、結論からいくとそうなります」(課長補佐)

 道教委が認識を変えないということは、同様な指導が行われたとしても、「適切」との判断になり、同じ遺族対応を繰り返すと思われてもしかたがない。

「今後の、教員によるハラスメントによる自殺の予防についても無回答でした」(遺族)

 遺族は「息子と同じ子どもがでることを繰り返してほしくない」と話し、道教委との接点を探している。同じように児童生徒の自殺があった場合、いじめ問題だけでなく、教師の不適切な指導についても十分な検証をしてほしいとの願いもある。そのため、検証や再発防止に関する話し合いを続けることになった。次回の面談は10月末だ。

 生徒指導をめぐっては、基本書である「提要」は策定されてから10年が経ち、スマートフォンやSNSの普及、発達障害とされる児童生徒の増加、児童生徒の自殺が増加しているとして、文科省は「今年度中に改訂」(初等中等教育局児童生徒課)しようとしている。

教師の不適切な指導をきっかけとした自殺「指導死」

 教師の不適切な指導をきっかけとした自殺は、「指導死」と呼ばれることがある。遺族である大貫隆志氏(指導死親の会・共同代表)の造語で、不適切な、教員による説諭・叱責・懲戒などの指導によって、児童生徒が精神的に追い詰められて死に至ることを指す。

 例えば、「飴を舐めたことで反省文を書かせ、かつ全校集会で決意表明を求められていた」、「長時間拘束したり、証拠のないままにカンニングを疑い追い詰めた」、「ライターを友人に見せていたことを理由に指導。タバコを吸っていたことを疑われたと同時に、友人を告発するように言われた」、「いじめを疑われ、執拗な指導を繰り返された」など。不登校や自殺未遂となったケースもある。

「文科省としても、きっかけが生徒指導だったと指摘されている児童生徒の自殺があることは認識しています。この問題は(提要の)各項目にわたって横断的に関わってきます。子どもの心理を考慮しつつ指導をすることに関しては、総論の部分でも検討することになります」(児童生徒課)

「再発防止対策検討委員会」を立ち上げた鹿児島県奄美市のケース

 調査委の調査が終わった後、遺族と教委が再発防止を求めたケースがある。2015年11月4日、鹿児島県奄美市の市立中学校1年だった男子生徒(享年13)が自宅のベランダで首をつった。その日、男子生徒は学校で担任から指導を受けていた。帰宅後も担任が家を訪ねてきた。玄関先で、二人で話した後の自殺だった。自宅は学校から近く、ベランダは校舎を見ることができる場所だった。

 調査報告書によると、11月2日、同級生が欠席した。担任が母親に電話をすると、「友達に嫌がらせを受けている」と告げた。4日に同級生が登校したとき、担任が紙を渡し、「された嫌なことを書くように」と言った。担任は、同級生の書いたことをもとに聞き取りをした。そのメモには、男子生徒の名前は嫌がらせ行為の主体ではなく、別の子の箇所に名前が挿入される形で書かれており、一緒にいただけのようになっていた。

 担任は、男子生徒にも指導するため、放課後に残るように言った。「なんで俺が呼ばれるのか?」と不満げだった。聞き取りで、ある方言を言ったことを認めているが、時代によって表現が変わる若者言葉だが、誤解された可能性があったため、「これからも仲良く遊びましょう」と謝罪した。その後、担任はさらに指導。担任が家庭訪問したのは約1時間後だ。その後、男子生徒が自殺した。

 遺族は、市に対し、調査委の設置を要望。18年12月、調査委は報告書を作成。発表した。「自殺した当日の指導と家庭訪問時の対応が不適切であり、男子生徒を追い詰めたことは明らか」と、教員の指導が自殺の要因とした。その後、市教委は、再発防止対策検討委員会を立ち上げた。遺族から見れば議論が尽くされてなかったが、2021年3月「生徒指導ハンドブック」を公表することをもって、検討委員会を終了させた。

政治的関心が高まる「指導死」

「指導死」に関して政治的な関心が高まっている。自民党内では「こども庁」創設を求める動きがあり、党内の勉強会では、指導死について遺族から話を聞いた。また、総裁選の最中、地方議員から「要望書」が出され、その中で、学校現場で生じている問題の一例として「指導死」が挙げられた。

 このほか、「提要」の改訂に合わせて、名古屋市子どもの権利擁護委員が「意見書」を9月3日に提出した。子どもの権利条約の精神にのっとり、子どもが権利の主体であること、子どもの意見が尊重されること、子どもの最善の利益を明記することを要望した。現行の提要では、子どもの権利条約の文言はない。

 さらに、埼玉県内で初めての「子どもの権利条例」を検討している北本市議会も9月28日、意見書を可決した。市議会では、条例制定を検討するため「特別委員会」が設置された。教員が男子生徒になりすましてTwitterで女子生徒を誹謗中傷した事件や、市内の小学校を廃校としたときに児童の意見を聞かなかったことが問題となって、条例制定の動きが生まれた。意見書では、「不適切な指導事例」や「教師による指導が原因の一つになったと考えられる自殺」にも触れている。

 遺族たちは10月16日14時から、Zoomで、指導死を含む不適切指導による児童生徒への影響に関するシンポジウムを開く予定だ。参加申し込みは「 安全な生徒指導を考える会」の申し込みフォーム へ。

(渋井 哲也)

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