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反日を掲げていたのに…韓国の自治体が「戦犯」と呼んでいた日本企業を次々と誘致しているワケ

文春オンライン / 2021年10月14日 6時0分

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ソウルで行われた反日デモ(2019年8月)©AFLO

 韓国の自治体が日本企業誘致に取り組んでいる。

 2019年7月、日本の経済産業省が、半導体・ディスプレイの核心素材であるフォトレジスト、エッチングガス、フッ化ポリイミドの韓国向け輸出管理を強化すると発表した。政府はまた、翌8月7日、韓国をいわゆるホワイト国(輸出管理上での優遇措置対象国)リストから除外する政令も公布した。

 日本と韓国の間では、いわゆる徴用工裁判や慰安婦合意破棄、レーダー照射など確執が続いていたが、そうした状況下でも韓国にとってはまさに青天の霹靂といえる発表だった。

韓国全域に広がった「日本製品不買運動」

 フォトレジストとエッチングガスは半導体製造に欠かせない素材で、日本企業が世界全体の供給量でそれぞれ、85%と70%を占めている。フッ化ポリイミドは韓国勢が強い有機ELディスプレイに使われている材料で、日本が世界の供給量の90%を占めている。経済産業省は日本以外からの調達が難しい3品目を選んだのだ。

 韓国は、日本政府の輸出管理強化は、徴用工裁判で韓国の最高裁が日本企業に賠償金支払いを命じた前年10月の判決に対する報復だと主張。文在寅大統領が「ふたたび日本に負けない」と発言し、与党・共に民主党が主導権を握る自治体が反日の狼煙を上げ、韓国全域で日本製品不買運動が広がった。

 なかでも最も強硬な反日姿勢を見せたのは、次期大統領の座を狙う李在明(イ・ジェミョン)京畿道知事だった。

「脱日本技術独立」を宣言したが……

 京畿道は人口1300万人を擁する韓国最大の自治体だ。道内の平澤市は、半導体工場があるサムスン電子の企業城下町として知られており、利川市にはSKハイニックスの半導体工場、坡州市にはLGディスプレイの企業団地、また、これらの工場に部品を納める企業の工場や事務所が集まっている。これらの工場は上記3品目のほか、多くを日本企業に依存しており、日本政府の輸出管理強化による影響を最も受ける地域である。

 韓国は日本政府が、韓国をホワイト国から除外した(輸出管理のグループAからグループBに変更した)措置を輸出規制と批判するが、実際には、輸出が不許可となる例はほとんどない。輸出手続きは煩雑化するものの、兵器転用のおそれがない貨物の輸出や技術移転は従来通り、許可されるからだ。

 しかし、知事が反日を掲げる京畿道は19年7月、すぐさま「脱日本技術独立」を宣言し、素材・部品・装備の研究開発を行う地元企業に5年間で2000億ウォン以上を支援する計画を立て、また、韓国の政府機関が2012年に作成した“戦犯企業リスト”に掲載されている日本企業273社の製品を公共機関が購入しないようにする「不買条例」を制定した。

 そこから京畿道は、道内企業に20年7月までの1年間に300億ウォンを支援したものの、技術開発は一朝一夕でできるものではない。1年や2年で追いつくことなど極めて難しいし、韓国企業が追いつく頃には、日本はさらに先を進んでいることがほとんどだ。

代替品の獲得に失敗したワケ

 そこで京畿道は、日本を除く国々の企業誘致にも邁進した。19年11月に米国に本社を置く世界最大の半導体装置企業・ラムリサーチ社の誘致に成功、20年6月には世界有数の半導体中古装置流通企業であるサープラスグローバル社を、21年5月には産業用ガスを製造するエアープロダクツ社を誘致するなど、21年5月までに、10社以上を誘致した。

 しかし、結局その戦略もうまくはいかなかった。半導体の製造現場に詳しい、日本企業の韓国駐在員はこう語る。

「仮に地元企業や米国企業から代替品を調達できたとしても、それらを別の素材や部品と組み合わせると、期待通りの成果が得られないこともよくあります」

 工業技術に100%はなく、コンマ数パーセントの誤差や不純物は避けられない。一つの素材や部品が、それ単体では何の問題もないように見えても、他のものと組み合わせたときに、その「コンマ数パーセントのズレ」によって予期せぬ不具合を引き起こすことは珍しくないのだ。

「日本企業の誘致」という禁じ手

 そうして5年計画で「脱日本」に邁進した京畿道だが、決定的な成果が得られないまま、世界的なコロナ・パンデミックの影響でテレワークが拡大し、また無人化のAIが増えるなど、半導体の需要が急増しはじめた。

 サムスン電子は2020年8月に世界最大規模の半導体工場となる平澤2ラインの稼動を開始し、21年8月には半導体新工場の建設費2兆円を含む23兆円相当の投資計画を発表した。SKハイニックスも1兆円規模の設備投資を行う方針を明らかにするなど、即効性が求められるようになった。

 高まる需要を前に、「国産化の推進」「日本からの輸入を抑制」「地域のグローバル企業を妨害しない」という3つの課題の解決策を模索した京畿道は、ある答えに辿り着いた。日本企業の誘致である。日本企業が韓国内で製造した製品は数字上、韓国製にカウントされ、また、“日本製”の素材や部品であれば「組み合わせの不具合」を心配することなく、そのまま使うことができる。

 サムスン電子とSKハイニックスは、いずれも東芝との提携を通して半導体を製造する技術を得ており、日本から購入した素材や部品で、製品を作ってきた。そんな両社の増産は、日本企業からの輸入増加を意味している。

「戦犯企業」を次々と……

 実際、昭和電工の子会社である昭和電工マテリアルズ(旧日立化成)は、京畿道安山市に110億円を投資して新工場を建設した。2016年にSKマテリアルズと合弁でSK昭和電工を設立した同社は韓国内の生産能力を30%引き上げる計画で、10月に稼働を開始する予定である。ちなみに、昭和電工は韓国政府の「戦犯企業」リストに掲載されている。

 京畿道に隣接する忠清南道も「戦犯企業」を誘致した。

 2021年1月、忠清南道と同道唐津市は、ダイキン工業が韓国半導体製造装置メーカーのシーアンドジーハイテク社と合弁で唐津市松山に工場を新設する覚書(MOU)を締結した。ダイキン工業は、韓国半導体製造用ガス市場で約28%のシェアを持ち、半導体の製造過程で必要なエッチングガス(高純度フッ化水素)を日本や中国で生産して、サムスンやSKハイニックスなどに供給してきた。

 4月には半導体装置メーカーの日産化学と子会社である韓国現地法人のNCKも、唐津市松山2産業団地に工場を新設する覚書(MOU)を忠清南道と締結した。NCKは2001年に日産化学が出資して京畿道平澤市に設立した子会社で、半導体やディスプレイの材料の研究や製造、販売を行っている。

 ダイキン工業とNCKが工場を新設する唐津市は、SKハイニックスの工場とは100キロ近く離れているが、サムスン電子の企業城下町である平澤市とは川を挟んだ対岸に位置している。なお、ダイキン工業と日産化学も昭和電工と同様、「戦犯企業」リストに掲載されている。

日本企業にとってもメリットはある

 日本企業を誘致する韓国の自治体は、地元の雇用を守り、国産化を推進したと主張できる。一方、これは日本企業にとってもメリットがある。韓国がホワイト国から除外されたことで輸出手続きが煩雑になっているが、その点、韓国工場で生産すると、手続きを簡素化できるし、韓国企業の要求に合わせて納入しやすくなるのだ。

 また、サムスンをはじめ、日本政府のさらなる規制を危惧する韓国企業が、日本以外からの調達を本格的に進める可能性もある。その点、日本企業が韓国で生産すれば、日本企業に依存してきた韓国企業の第3国からの調達を防ぐことができる。

 京畿道をはじめ、各自治体は整備した税制優遇、賃貸料の減免、法務、会計、人事労務、金融の無料相談などのインセンティブを訴求して、日本企業を誘致したい考えだ。

 表では反日を掲げながら、裏では“戦犯企業”を誘致する李在明京畿道知事は、現在、次期大統領の最有力候補となっている。

(佐々木 和義)

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