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寄生虫「エキノコックス」とはどんな生物か? その症状から対策までを一挙解説

文春オンライン / 2021年10月23日 6時0分

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キツネや犬などを宿主にする「エキノコックス」とはどんな寄生虫なのか? ©iStock.com

 10月12日、福井新聞が「寄生虫『エキノコックス』、愛知県で犬の感染相次ぐ 人体に入ると重い肝機能障害」という報道を行い、SNSで大きな話題となった。

 エキノコックスは北海道では以前から問題となっている寄生虫で、今回報道された愛知県でも2014年に県内で捕獲された野犬から初めて検出され、以降、県の継続調査で今日までに8件のエキノコックスの陽性犬が確認されている(直近2021年9月の検査では、13検体中のすべてが陰性)。

 これまで、北海道で感染した動物が一時的に本州に入ってきたと考えられるケースはあったが、愛知県の知多半島では複数年にかけてエキノコックスが発見されたため、国立感染症研究所は定着に至ったと判断したという。

 エキノコックスとはどういう寄生虫なのか、何が問題となるのか、私たちはどのように対処すればいいのか。「エキノコックスの基礎知識」を解説する。

エキノコックスとは何か?

 エキノコックスは扁形動物門条虫網に属する、いわゆる「サナダムシ」と総称される寄生虫の仲間だ。エキノコックス属の条虫は現在までに9種が知られており、うち6種は人間にも寄生する。

 その中でも、とりわけ「多包条虫」と「単包条虫」という2種は古くから人類を悩ませてきた。どちらも、成虫はキツネやイヌなど主にイヌ科動物の小腸に寄生するが、成虫が産み落とした卵が何かのはずみでヒトの口に入ると、幼虫(包虫という)が主に肝臓などの臓器や器官に寄生してゆっくりと増殖し、やがて機能障害を引き起こす。

「エキノコックス症」というこの疾病は、紀元前4世紀ごろの古代ギリシア医師ヒポクラテスの時代からすでに知られていたとされている。もっとも、自然にできる腫瘍の一種だと考えられていて、寄生虫が病原体だと判明したのは17世紀になってからのことだ。

 日本の北海道で発生しているエキノコックス症の原因は多包条虫である。単包条虫は全世界の主に牧畜の盛んな地域に分布しているが、日本には分布していない。

 北海道では、1925年ごろ千島列島から礼文島にアカギツネが持ち込まれた際、一緒に入ってきた多包条虫によって多数の島民がエキノコックス症にかかった。その後、強力な撲滅対策で流行は終息したが、1965年には根室市で患者が発見され、以後、北海道の全域に流行が拡大して現在に至っている。このときの侵入経路は礼文島とは別で、千島列島から流氷に乗って渡ってきたキタキツネによって持ち込まれたのではないかとされている。

エキノコックスの一生

 エキノコックス(以降、北海道の多包条虫について書く)は一生で二つの宿主を必要とし、成虫はキツネやイヌなど主にイヌ科の獣を、幼虫は主に野ネズミを宿主としている。成虫がキツネの小腸で卵を産み、キツネの糞と共に排泄された卵は、キツネの体毛に付着し、あたりの草地を汚染し、川の流れに乗って広がり、さらには埃と一緒に空中へと舞い上がる。

 この卵を野ネズミが口にすると、ふ化した幼虫が主に肝臓に移動して袋状になり、その袋からさらに小さな無数の袋が出てきて、塊をつくりながら増殖する(この幼虫を多包虫という)。そして、感染から1~2か月で、袋の内部に「原頭節」と呼ばれる成虫の頭部が大量につくられる。

 多包虫は肝臓から腹腔内のほかの臓器、胸腔、脳などに転移し、体内に数百万もの寄生虫の頭部パーツを抱いた野ネズミができあがる。この野ネズミがキツネに捕食されると、多包虫から大量の原頭節が出てきて、キツネの小腸に固着する。直後は頭部しかないが、やがて頸部と複数の体節がつくられていき、1か月ほどで体長2~4ミリの成虫になる。

 成虫の後端の節には200個ほどの卵が詰まっており、寄生虫はこれを順次切り離し、節を再生しながら、卵をばらまき続ける。一匹の成虫が産む卵の数はそれほど多くはないが、いかんせん頭数が多いので、キツネの体から排出される寄生虫の卵は膨大な数となる。

 そうやって、北海道のエキノコックスは、主にキタキツネやアカギツネと、エゾヤチネズミやミカドネズミといった野ネズミの間でライフサイクルを回している。北海道に生息するキツネのエキノコックス感染率は上昇しており、近年ではキツネの40パーセント以上がエキノコックスを保持しているといわれている。

 ちなみに、キツネやイヌだけでなく、ネコも、感染した野ネズミを食べればエキノコックスの成虫に寄生される。イヌの場合はキツネと同様の経過をたどるが、ネコは成虫の発育に適した宿主ではないため、感染性のある卵はほとんど排泄しないとされている。

 また、幼虫はヒト、ブタ、ウマなどにも寄生するが、こちらも幼虫の発育には適さず、原頭節はほとんど形成されない。ヒトからヒト、野ネズミからヒト、ブタやウマからヒトへの感染は起こらない。

人間が感染するとどうなる?

 エキノコックスの問題は、何かのはずみで虫卵を飲み込んでしまえば、図らずも人間が野ネズミの代わりになるということだ。例えば、流行地のキツネがうろついているような野山で、山菜や野苺を摘んで洗わずに食べたり、生水を飲んだり、野生のキツネを触ったりすれば、エキノコックスの卵が口に入る危険が積み上がり、ヒトも野ネズミのようにエキノコックスの幼虫に寄生される可能性がある。

 ヒトの体内でふ化した幼虫は、主に肝臓に、まれに肺や脾臓、脳などに定着し、臓器をじわじわと浸潤しながら、まるでがんのように増殖し、やがて致命的な機能障害を引き起こす。何もしなければ臓器のほとんどが多包虫の組織に置き換えられてしまい、90パーセント以上の高い確率で患者は死んでしまう。

 多包虫を殺す薬はなく、発育を抑える薬もあるにはあるが効果が一定ではない。最も効果のある治療法は寄生虫を外科手術で摘出することだ。ところが、ヒトの体内の多包虫の発育は遅く不完全で、この寄生虫はヒトの臓器に寄生すると10~20年かけて非常にゆっくりと増殖する。

 そのため、ヒトは寄生されてからかなり長い間、自分の体内で起こっている深刻な事態に気がつかない。症状が現れて病院に駆け込むころには、すでに寄生虫が臓器を占拠していて手遅れということが起こりうる。さらに、外科手術で完全に切除できなかった場合、取り残した病巣から再び多包虫の増殖が始まってしまう。

毎年約20名の患者、どう対策すればいい?

 国内では毎年20名前後のエキノコックス症の患者が報告されている。患者の発生数だけを見ればそれほどよくある病気とはいえず、過剰に恐れる必要はないが、あなどらず注意はしたい。

 北海道では、患者の早期発見と治療を目的として、各市町村で希望者に血清検査を実施している。幼虫を殺す薬はまだ開発されていないが、幸いエキノコックスの成虫をよく効く「プラジクアンテル」という駆虫薬が存在する。北海道では、これを混ぜた餌を散布して野生のキツネや野犬に食べさせ、それらのエキノコックス感染率を下げるという試みが行われており、一定の成果を上げている。

 にわかに話題になった愛知県知多半島では、今後もエキノコックスの継続的な調査が行われていく。データを集め続け、動物の感染状況をしっかりと把握することが重要だ。

 私たちが個人でできる対策としては、流行地では外から帰ったらよく手洗いをし、野山の果物や山菜を口に入れるときはよく水道水で洗い、沢水を飲むなら煮沸し、いくら愛らしくても野生のキツネや野犬には決して触らないようにすることだ。

 ペットを飼っているなら、イヌは野ネズミの死がいを拾い食いさせないように、ネコは室内で飼うようにしたい。もし感染の機会があったと思われる場合は、動物病院に相談しよう。そして、これらの行動はエキノコックスの流行地であるかどうかにかかわらず、多くの病原体を私たちの体に入れないために常に心がけておくべきことである。

 私たちがエキノコックスについて正しい知識を持ち、適切な対策を心がけていれば、エキノコックスの感染は予防できる。

(大谷 智通)

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