1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. スポーツ
  4. スポーツ総合

オリックスの“呪い”と、あだち充との17年前の約束

文春オンライン / 2021年11月7日 11時0分

写真

胴上げされる中嶋監督 ©時事通信社

 日本中のオリックス・バファローズファンの皆さん、ついにこの日が来ましたね。25年ぶりのパ・リーグ制覇!! 皆様おめでとうございます。おめでとうございます。おめでとうございます。

あの頃の僕はまだ「呪い」を知らない無邪気なオリックスファンだった

 長かった。本当に長かった。振り返ること26年前の秋。1995年9月19日西武球場。立ち見席のチケットを握りしめた21歳・大学3年生の僕は仰木彬監督の胴上げを素直な感動の涙と共に見つめていた。「オリックス・ブルーウェーブ」としての初優勝。僕にとっても贔屓球団・初優勝の瞬間だった。「これが優勝するっていうことかぁ!」ただシンプルに嬉しく楽しくワクワクしながら喜びの涙にくれていた。もちろんオリックスファンの友人など一人もいなかったので(今もいないが)ひとりぼっちで西武球場に来たらたくさんのオリックスファンが来ていて驚いたことをよく覚えている。翌年もパ・リーグを連覇。念願だった日本一にも輝いた。

 その後、僕は1997年に週刊少年サンデーで漫画編集者になり、2004年秋には念願だったあだち充先生の担当編集者になった。大のヤクルトファンであるあだち先生と95年の日本シリーズについて語り合い「次またオリックスとヤクルトが優勝したら二人で日本シリーズを観に行きましょう!」と約束した。オリックスの低迷はすでに始まっていたが今思えばあの頃の僕はまだ「呪い」を知らない無邪気なオリックスファンだったように思う。

 そして日本一の栄光から25年。仰木監督は鬼籍に入られ、毎年のように監督交代が行われ、チームは方向性を見失い、長い長い低迷が続いた。ドラフトでは有力高校生投手に入団拒否され、オリックスから別チームに去った選手は溌剌とした笑顔で活躍し、FAした大物内野手には会ってももらえずお断りックス。さらには2004年の球団合併騒動という悲劇。この25年間のオリックス・バファローズは劇的な敗戦を繰り返す前代未聞の「呪われた」プロ野球チームだったように思う。それでもオリックスファンは健気に応援し続けた(もちろん僕も含めて)。球場で出会うファンの皆さんと語り合う時、共通してみんなが言うのが「娯楽なのにオリックスは信じられないストレスを与えてくるよね(笑)。まあまた次の日になると応援しちゃうんだけど。一度ファンになるとやめられないしね」。

 僕の中でもオリックス・バファローズは「プロフェッショナルでアメイジングなプレイの数々で勝利の夢を見させてくれて、応援している自分が誇らしく、自分も頑張らなきゃ!という明日の活力になるカッコイイ憧れの存在」から「すごく出来が悪くて毎日毎日にわかには信じられない酷いことばかりしでかして心労が絶えないけど可愛くて仕方ない自分の子どものような存在」に変貌していた。

 そんなオリックスの「呪い」の最たるものに「大一番で勝てない」があったと思う。チームにとって「ここは絶対に勝たなければならない」という試合をオリックスはことごとく落としてきた。例えば開幕戦。今年も含めていまだ開幕戦は10連敗中。延長戦での勝率もほぼ毎年異常に悪くシーズン中でも劇的な逆転負けはオリックスの得意技だ。極めつけが「シーズン最終盤の悲劇」。2014年の「10・2決戦」は多くのファンの脳裏に焼き付いていると思うが、僕としては2011年「10・18最終戦の悲劇」が個人的にワースト1位。勝つか引き分けでCS出場が決まる大一番。必勝を期すオリックスはエース金子を立てるも初回から失点を重ね6回4失点。打線もバルディリスのソロ本塁打のみでなすすべもなく淡々と試合は終了。解説者さんも「普通こういう試合は勝つものなんですけどねえ。こんなことは長くプロ野球に関わってますけど見たことないです」と呆然自失。ベンチがお通夜状態の中、行われた球団セレモニーは地獄絵図だった。うなだれる選手一同が誰一人笑顔もないままグラウンド一周。そんな中鳴り響くMEGA STOPPERさんの名曲「SKY」の生演奏。「これが娯楽と呼べるのか???」僕はこの悲劇を目に焼き付けておこうと全てを見届けたがいまだに思い出すだけでゾッとするくらいのトラウマになっている。

またも「最終戦の大一番」がやってきた

 そんなオリックスの「呪い」は今シーズンもいかんなく発揮された。開幕戦では山本由伸が好投するも中嶋監督が抜擢した紅林・太田の若手コンビの守備が崩壊し敗戦。中盤から終盤にかけて快進撃を続け優勝まで駆け抜けるか、というところでまず秘密兵器のラベロが死球で尺骨骨折し一軍デビューすら出来ず脱落。そして吉田正尚が死球で尺骨骨折。さらには紅林まで死球であわや大惨事に。チームは得点力不足に陥りペナントレースは混迷を極め、オリックスの命運は事実上、仙台でのシーズン最終戦「10・25」に託された。

 そう、またも「最終戦の大一番」がやってきたのだ。25年間一度も乗り越えられなかったオリックスにとって「最凶の呪い」だ。

 僕は新生中嶋オリックスの最後の戦いをどうしても見届けたいと思った。球団も選手もファンをも飲み込んできた「オリックスの呪い」を今度こそ断ち切れるのか、それともまたも暗黒に飲み込まれるのか。

 僕は万難を排してスケジュールを空けた。僕の住む横浜市から仙台・楽天生命パーク宮城までは新幹線を使えば2時間半の距離だ。だが僕は自分の車で行こうと決めた。6時間はかかる。往復12時間の運転だ。でも僕はどうしても呪いを解きたかった。もちろん僕が戦うわけではない。でも何かいつもと違う「験」を担がなくてはこの強固な呪いが解けない気がしたのだ。もちろん自己満足に過ぎないのだが、恐らく日本中の(特に年季の入った)オリ達、オリ姫たちが自宅で、球場で、職場で、学校であの10月25日に僕と同じように何かに祈りを捧げたに違いないと僕は確信しています(笑)。

 18時00分試合開始。山本由伸VS田中将大。新旧・日本のエース対決。田中将大はモデルチェンジする前の剛球投手に戻ったかのような速球で快投を続け、山本由伸も155キロの直球で押しまくる。初回に安達が平凡なフライを落球。事なきを得たが「呪い」の存在が脳裏をかすめる。安達やT-岡田は暗黒時代の呪いを誰よりも強く感じている選手になるだろう。

「頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ」

 僕の脳裏ではそのワンフレーズが永遠にリフレインし続けていた。

 3回表、7番紅林があわや本塁打のレフトへの大飛球。3回裏、炭谷のボテボテのショートゴロを紅林がファインプレーでアウトに。5回表、二死二塁。初めてのチャンスでその紅林が低めの完全なボール球をレフト前タイムリー! 6回裏、二死二塁のピンチで浅村の三遊間を抜ければ同点の当たりを紅林がバックハンドからのロングスローで切り抜ける超ビッグプレ-! 7回表、二死一、三塁で紅林がライト前へのポテンヒットタイムリーで追加点! 7回裏、後半調子の上がってきた山本由伸が最近滅多に使わない伝家の宝刀「高速カットボール」をこの大一番で解禁。楽天打者を完全に封じ込める。

 僕は山本由伸と紅林弘太郎の力強いメンタルとビッグプレーと強運を見て思った。「ああ、ついにオリックスにも呪いなど全く気にしない新世代の選手たちが現れたんだ」と。

 その一方で、暗黒時代に苦しみ抜いた選手たちも、若月の強肩による三振ゲッツーやT-岡田の四球からの生還、駿太のジャンピングキャッチなど精一杯躍動した。その極めつけが9回表の安達のツーランスクイズだったのではないか。あの瞬間は鳥肌が立った。無駄な盗塁やディレードスチールを絶対にしない中嶋監督が大一番の最終回で見せた天下一品の奇襲攻撃。相手チームも球場のファンも騒然となったビッグプレー。あれで完全に楽天は戦意喪失した。あれこそ安達と駿太の真骨頂だ。

 オリックス4-0楽天。主力選手全員が全力で持ち味を発揮してつかんだ今季一番の会心の勝利。事実上、優勝を決めた試合だっただろう。勝った瞬間席から立ち上がってガッツポーズしたことなんて何十年ぶりだろう。あの瞬間、オリックスは球団も選手もファンも「呪い」から解放されたのだ。

オリックスが優勝して以来、この瞬間が一番グッときた

 そして10・27の優勝決定。僕は26年前のシンプルな感動とは全く違う感情を味わっていた。何とも言えない安心感である。本当に肩の力が抜けてホッとしたのだ。それくらいこの1か月は疲労困憊の日々だった。

 優勝決定の27日深夜、僕はあだち充の仕事場を訪問した。お互い優勝を祝いあった後、あだち充も言った。

「本当に疲れる1か月だったなあ。ヤクルト応援し始めてこんなに疲れるシーズンは初めてだよ」

 17年前の約束の話もした。まだオリックスもヤクルトも日本シリーズに進出できるかはわからない。でも僕はすでに満ち足りた気分になっている。転んでビリッケツばかりだった自分の子どもが初めて運動会の徒競走で1位を取ったのだ。その先の6校合同運動会でも負けるな!などという気持ちになかなかなれるものではない。ただ怪我なく元気に精一杯自分の力を発揮してくれればそれでいい。それが今の偽らざる気持ちだ。でも、まだオリックスファンは一人たりとも中嶋監督の胴上げを球場で見ていないので、それは是非見たいとも思う(笑)。

 僕が仕事場からおいとまする時にあだち充がしみじみ言った。

「こんな憂鬱な時代にホントに野球には救われたなぁ。それだけでも感謝だよな」

 オリックスが優勝して以来、この瞬間が一番グッときた。本当にそうだなと。

 こんなにオリックス・バファローズの戦いが日々の励みになった1年間はなかった。それだけで感謝してもしきれない。ありがとうオリックス・バファローズ。ありがとうプロ野球。これからも末永くよろしくお願いします。

◆ ◆ ◆

※「文春野球コラム ペナントレース2021」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイト https://bunshun.jp/articles/49598 でHITボタンを押してください。

(市原 武法)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

ミッション中・・・

10秒滞在

記事を最後まで読む

ミッション中・・・

10秒滞在

記事を最後まで読む

10秒滞在

記事を最後まで読む

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください