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美しき「民藝」を東京国立近代美術館で見直す 古くてローカル、それこそ最先端!

文春オンライン / 2021年11月6日 11時0分

写真

柳宗悦使用の机と椅子

 暮らしのなかの美を見直し、礼賛しよう。そんなテーマのもと企画された展覧会が幕を開けた。東京国立近代美術館での「柳宗悦没後60年記念展 民藝の100年」。

1920年代に生まれた「民藝」

 柳宗悦とは、もともと宗教哲学を専門とする思想家だった。若くして志賀直哉らの文芸誌『白樺』同人となり、『陶磁器の美』を著すなど工芸品への関心を早くから示した。

 そんな彼が提唱し始めた美の概念、それが民藝だった。土地に根ざして生きる無名の人々の手で為された仕事に美しさと価値を見出し、それらを通して生活や社会を豊かにしていこうとの思想だ。

 柳が志を同じくする陶芸家の濱田庄司、河井寛次郎とともに想を練り、「民衆的工藝」を略して「民藝」を造語し世に問うたのは、1925年のこと。

 彼らは民藝の概念を広めるべく、作品蒐集や展覧会・出版活動を展開し、ゆくゆくは美術館設立へ結びつける計画を立てた。その説くところは全国で賛同者を得て、やがて文化的なうねりとなっていく。

 いまも郷土色の強い手作りの日用品やおみやげのことを民芸品と呼んで、愛好する人は多い。あのジャンルは、柳らの活動に端を発しているわけだ。

 大まかにまとめれば「一般の民衆が日々生活に必要とするもの」が民藝の定義となる。片や美術品は多くの場合「特定の個人が、真似のできない発想や技量を用いてつくった、特別なもの」と考えられるから、民藝は美術の概念と反対の位置にあるように見える。

 それでこれまでは、美術館で大々的に民藝が取り上げられることは少なかった。けれど民藝だってもともとは、「何が美しいか」を真摯に問うところから始まった運動。提唱されておよそ百年が経とうといういま、改めて柳宗悦らの思考と実践を辿ろうと、東京国立近代美術館の大空間が用意されたのである。

民藝の「名品」が一堂に会す

 会場には、民藝の考えを体現したモノの数々が整然と並んでいる。柳とその仲間たちが、日本と世界の各地から蒐集した品である。

 細かい手仕事が得意な日本の民は、古くからよくできた郷土玩具をつくってきた。福島県の《三春人形 橘弁慶》や埼玉県の《鴻巣人形 女に松梅》は、その格好の例だ。

 陶器・陶磁器も各地で味わいの異なるものが産出されてきた。愛知県でつくられた《鉄絵菊に蝶文行灯皿》は、さらりと描かれた絵柄にたしかな職人技が感じられる。

 朝鮮半島産の見事な陶磁も、3点が並んで展示してある。柳の尽力で1922年にソウルで開かれた李朝陶磁器展覧会に出品されたものが、百年の時を超えてまた一堂に会したのだ。いずれの器も、薄い肌合いと淡い彩色が美しい。

 戦後になって柳が盛んに蒐集した丹波の《自然釉甕》には、人知を超えた造形の迫力がある。やきもの文化の地域ごとの多彩さには驚かされる。

 地域の特色が強く出たものとしては、雪深い青森の地で使われた《蓑(伊達げら)》がある。最先端のファッションショーに出ていてもおかしくないほどスタイリッシュではないか。

 柳は、新しい民藝的実用品の考案にも積極的だった。彼がデザインを考案した《本立》は、いまも多くの人が使いたくなるような普遍的デザインにまとまっている。

 他にも会場では、民藝の現状と活動を一枚にまとめた巨大な《日本民藝地図(現在之日本民藝)》や、柳宗悦が書斎で愛用した机と椅子、彼が1931年に創刊した布表紙の雑誌『工藝』なども実地に見られる。

 民藝の名のもとに集められたモノの数々はどれも決して華美ではないが、「なるほどこれは、こうでしかあり得ない」と思わせるユニークかつ美しい形と色をしている。「用の美」とはまさにこのことかと感じ入る。

 これら民藝の考え方や思想を体現するモノが、なぜいまを生きる私たちにもこれほど沁みるのだろう。不思議に感じたが、思えば事情や状況はよく似ているのだ。柳らが民藝に思い至った1920年代には、明治維新以来の近代化の進展で、昔ながらの道具や生活習慣が日常から消えつつあったという。

 そのことを憂えた柳らは、古くから伝わるモノに美しさを見出し、光を当てた。各地の風土や人の暮らしぶりが反映されたモノこそすばらしいと強く訴え、そこからよりよい生活とは何かを追求していったのだった。

 展示を観終えると、柳宗悦とその仲間たちにきっと強い共感を覚えることになる展示だ。

(山内 宏泰)

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