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「私には会わないほうがいい」アルコール依存、がん、生活保護…“守備範囲が異様に広い”ナゾの職業・MSWが放った一言

文春オンライン / 2021年11月18日 17時0分

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「ビターエンドロール」1話

 あなたはもし、入院しても完治できない病気になったら、あるいは突然事故に遭い、身体の一部が動かなくなったらどうするだろうか。

 家には階段があるのに歩けなかったら? 今までの仕事ができなくなったら? 家族は協力してくれる? 治療や生活にかかるお金は? 何か制度が使える? 漠然とした不安や不自由は想像できても、実際にどうするべきか、誰が支援をしてくれるのか、患者になった自分がどんな権利を持っているのか、ピンとくる人は少ないだろう。

「病気が傷つけるのは『肉体』だけじゃない。だから『医療ソーシャルワーカー』が必要だ。」

 2021年6月より、月刊アフタヌーン(講談社)にて連載を開始した「 ビターエンドロール 」には、そんな紹介文が記される。

 医療ソーシャルワーカー(MSW)は、医療機関において、社会福祉の立場から、患者やその家族が抱える社会的・経済的な問題の解決を図る仕事だ。

 9月に発売された「ビターエンドロール」単行本1巻では、脳卒中、アルコール依存症、生活保護といった、多くの人々が「存在は知っているが自分には関係ない」と遠ざけがちな課題を、人々にとっての非日常である病院と、人々の中の日常である自宅や社会を繋ぐ役割を持つ医療ソーシャルワーカーの視点で解きほぐしていく。

 今回の取材では、前後2編を通じ、著者である佐倉旬氏と、担当編集者である真並紗樹子氏に、「ビターエンドロール」執筆の経緯や、おふたりが持つ医療や社会への想いを伺った。(前後編の前編/後編を読む)

◆ ◆ ◆

知名度が低い職業だが…

——「ビターエンドロール」では、なぜ医療ソーシャルワーカーをテーマに?

佐倉 実は私は最初、医療に関するテーマをやるつもりはなかったんですけれど、担当の真並さんに医療モノはどうかって勧められて。調べていくうちに、医療ソーシャルワーカーという仕事を描いてみたいなということで決まりました。

真並 社会や、この世の中にそこまで関心がない人だと、ノンフィクション系の題材は描けないと思うんです。

 元々、佐倉さんはアンテナを張っていらっしゃって、ニュースの話や時事ネタを会話の中でできる方だったので、いけるのではないだろうかと思って。描いてみてはどうですかという話をした記憶はあります。

天才外科医がバシバシ治す、みたいなストーリーは…

——医療ソーシャルワーカーに惹かれたのはどういう気持ちで?

佐倉 私の性格的に、天才外科医が病気をバシバシ治していくみたいなストーリーは多分描けないんですね。だから、もっと他の、病院の中のいろんな仕事をふたりで探してみようっていうことで。

 調べていくうちに、すごく分野の広い問題に対処している医療ソーシャルワーカーっていう職業があることが分かって、描いてみようという方向になりました。

——日常生活の中で医療ソーシャルワーカーと関わる経験があったわけではなかったんですね。

佐倉 はい。本当に、これをきっかけに知って。真並さんもなかったですよね?

真並 そうですね。私も調べてみて初めて仕事の名前を知りました。

 ただ、単行本ができて、いろんな方面に配っている時、「自分の親がソーシャルワーカーにお世話になった」という人は周りにちらほらいました。皆さん「すごく大切な仕事だと思うので、頑張って描いていってほしいです」と言ってくれて。実際にソーシャルワーカーにお世話になった人達が皆さん存在意義を見出していたのが印象的でした。

「私には会わない方がいい」医療ソーシャルワーカーの言葉

——取材を重ねる中で、具体的なエピソードを練っていった形ですか?

佐倉 そうですね。取材させていただける方や病院を探したのですが、ちょうどコロナ禍の時期と重なってしまったのが大変でした。

 やっぱり本を読むだけでは分からないことは多いです。実際に医療ソーシャルワーカーさんの話を聞くうちに、具体的な感覚も教えてもらえるので、毎回取材は刺激的です。

——刺激的ですか? どんなところが?

佐倉 取材させていただいた医療ソーシャルワーカーさん自身が、「私には会わない方がいいんだよ」と言っていました。例えば、骨折して入院しても、治って退院して普通に生活に戻れる人は、ソーシャルワーカーさんとは一切会わないで済んでしまう。

 医療ソーシャルワーカーさんの存在があまり知られてないのって、日常生活に戻る上で困ったことができた時にはじめてお会いする職業だからこそと思うと、その言葉に、なるほどなって。

まるで落語みたいに…イメージと違った「断酒会」

真並 私は、アルコール依存症になりかけている女性が登場する第2話の取材のために、断酒会に行かせていただいたのが印象に残っています。

佐倉 たしかに。断酒会に行く前は、雰囲気が分からなかったです。

 それまで、「アルコール依存症」と聞くと、私の中ではテレビとか、それこそ昔の創作物に出てくるようなイメージが強かったんですね。でも実際の参加者の皆さんは、一般的なアルコール依存症のイメージと違って、和やかで柔らかな感じだったり、語ることはヘビーなんですけれど、落語みたいにお話しされる方もいたり。

 好き勝手にお酒を飲んで、身体的にも精神的にも悪い状態になっている――みたいなのが多分、ごりごりに固まったアルコール依存症のイメージだと思うんです。でも、本当は本人も、飲みたくないと思っている、飲んではいけないとすごく思っているっていうのを知った時に、多分、私が想像している以上の辛さがあるなと思いました。アルコール依存症の方々がなんで飲むのかってことを、そもそも考えたことがなかった。

——アルコール依存症を作品内で取り上げることになって、初めて思い至った、ということでしょうか。

佐倉 そうですね。調べ始めてみて、治療では「どうしてこの人はお酒を飲むのか」ってところにスポットを当てていることを知ったんですけれど、自分の中に「飲まなきゃいいだけなのに」って想いがどこかにあると、その「なぜ」の部分には思い至らないと思いました。

 アルコール依存になってない人には「本人が溺れたくて溺れているわけではない」ということが分からないから、溝がどうしてもできてしまう。人が離れてしまう。

 そうやってどんどん孤独になっていくと、また症状も重くなっていってしまうので、怖いです。本人が良くないと思ったからといってすぐにやめられるってわけではない事実と、それを周りに理解してもらえないことが怖いなって思いました。

「お酒飲んだら動けるって分かってたら、飲むわ」

——佐倉さんご自身はアルコール依存症をはじめ、何かしらの疾患や社会的な困難の当事者ではない立場ですよね。現実に当事者のいる問題について、漫画を描く上で大変だったことはありますか?

佐倉 私自身は、まず分かったつもりには絶対ならないようにしようと思っています。でも、だからといって当事者のことは当事者しか分からないって限定してしまうと、じゃあ宇宙人が主人公の漫画は宇宙人しか描けない。変な答えかもしれないけど、そういうことになってしまう。

 創作は、自分じゃない人を描くことの方が圧倒的に多いので、「分かったつもりにならない」上で、知識や勉強、取材や他の人の話を聞いて補っていくものだと思います。

 同時に、取材や、話を聞いた経験から、例えば「もし自分が育児ですごく疲れていて、お酒を飲んだらこれが解決する、動けるっていうのが分かってたら、飲むかな? ……飲むわ」みたいな、自分だったらどうするかに思いを馳せる、小さい想像の積み重ねを大切にしたいです。

 あとは真並さんにいつも、「変なこと描いてたら言ってください」と言っています。「こうはならないだろ」ってこともそうですし、感動ポルノ的な感じになりそうだったら突っ込んでくれると信頼しているので。

 言葉を補い合うようにして話す佐倉氏と真並氏の間には、共に作品を作り上げてきたパートナーの信頼関係が窺えた。続く 後編 では、社会問題や、危機的な状況に在る方々を作品として描く漫画家の、根底にある怒りや願いに触れていく。

【続きを読む】 生活保護受給者は“テキトーに生きてきたんだろ”とSNSで…取材で見えてきた「医療現場でのフクザツなまなざし」

生活保護受給者は“テキトーに生きてきたんだろ”とSNSで…取材で見えてきた「医療現場でのフクザツなまなざし」 へ続く

(木村 映里)

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