1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 国際
  4. 国際総合

キャラは相当濃いが「これほどブルーな大統領選はない」…韓国大統領候補に若者が盛り上がらないワケ

文春オンライン / 2021年11月12日 11時0分

写真

©時事通信社

 11月5日、来年(3月9日)行われる韓国大統領選挙の顔ぶれが出揃った。

 候補者は5人。この中で、事実上、与党「共に民主党」の候補者、李在明前京畿道知事(56歳)と野党第一党「国民の力」の候補者、尹錫悦前検事総長(60歳)の一騎打ちとなっている。

 両者ともに韓国大統領選史上、初の国会議員未経験者。しかも尹前検事総長は今年6月に出馬を表明し、党に入党してからわずか4カ月で大統領選候補者となるなど、今までにない選挙戦になった。

尹錫悦候補の支持率が上昇

「国会議員の経験ゼロの人物が候補者になったというのは、新しい政治が求められているということでもあります」(中道系の韓国紙記者)

 来年3月の次期大選の争点はずばり「政権交代なるか」だ。ここで言う政権交代とは与・野交代という意味で、現時点では「政権交代を求める」声が6割近くある。

 野党「国民の力」の尹錫悦候補といえば反文在寅政権の象徴だ。与党との軋轢の始まりは、検事総長時代の2019年11月、曺国元法相の捜査から。

「身内だと思っていた尹候補が捜査の手を緩めなかったのは検察改革への報復」とみなした現政権から執拗ともいえる攻撃を受け、秋美愛前法相との攻防は1年にも及んだ。この攻防が尹候補の人気を押し上げたともいわれ、懲戒の危機を乗り越える度に尹候補の支持率は上昇した。

9浪の末、司法試験に合格し検事に

 今年3月、「私が検察でやれることはここまで」という言葉を残し、4カ月あまりの任期を残して電撃辞任。今年6月には大統領選出馬を表明し、翌7月に「国民の力」に合流した。

 父親は名門、延世大学統計学科名誉教授。一橋大学大学院でも学んでいる。母親も教授という学者一家の家庭で育ち、ソウル大学、同大学院法学部を卒業。9浪の末、1991年、司法試験に合格した。検事になり10年後にはいったん検察を辞め、有名法律事務所で働くも1年後には検察に復帰。その後は政権に寄ることのない「硬骨な特捜検事」として名を馳せた。

 一躍時の人となったのは朴槿恵前大統領時代の2013年度の国政監査だった。朴前大統領が大統領に当選した大統領選時、国家情報院が世論操作のためにネットへ不正な書き込みを行った疑惑を捜査し、公職選挙法違反により当時の元世勲国家情報院長の拘束令状を申請したが、法務省の反対に遭い頓挫した。

 これを「上(法務省)からの指示は違法だった」と発言。当時言い放った「人には忠誠を誓わない」という言葉は今も尹候補を象徴するものとして語り継がれている。

曺国元法相のスキャンダル追及で、文政権と対立

 この後、地方に左遷されるも朴前大統領の国政スキャンダルが起きると16年、特捜のトップとして返り咲いた。文大統領の宿敵といわれた李明博元大統領を起訴に持ち込み、李、朴槿恵政権時代の“積弊清算“を次々と行った当時は、「積弊清算の象徴」と持て囃された。

 その功労から17年5月には異例のごぼう抜きでソウル中央地方検察庁長に任命。続いて19年7月には検察トップの検事総長に大抜擢された。しかし、そんな現政権との蜜月も束の間。翌8月、文大統領が新しい法相に指名した側近、曺国大統領府民情首席秘書官(当時)に数々の不正疑惑が浮上すると、検察はさっそく捜査に乗り出した。ついには曺国元法相夫人を起訴すると、この時から尹候補は完全に与党の“敵”となった。

 ちなみに、曺元法相夫人は、娘を不正に大学に入学させた「私文書偽造」などにより、控訴審でも懲役4年が言い渡され、上告。今も係争中だ。

当時の貧しさから立身出世したことをクローブアップ

「秩序を乱した張本人・尹錫悦へ祝辞は送れない。まず疑惑から吐き出せ」(ハンギョレ新聞、11月5日)

「国民の力」が尹候補を選出した11月5日、与党「共に民主党」はこんなコメントをだした。前出の記者は、「与党はこの間、尹候補を相手にした戦い方を研究してきたと公言していましたから、内心では待ってましたとほくそ笑んでいるのではないでしょうか」と言う。

 その「共に民主党」の大統領選候補者は李在明前京畿道知事だ。

 李候補の人気を語るのにコリアンドリームともいえるその生い立ちは欠かせない。自らを「土のスプーンともいえない無のスプーン」(両親の所得によって金・銀・土[泥]に分かれる韓国のスプーン階級論で、土のさらに下という意味)出身と話す李候補は9人兄弟の7番目として生まれ、小学校を卒業するとすぐに工場へ働きに出された。父親は市場の清掃員、母親は畑仕事や薬売りなどをして糊口をしのいでいたという。

 当時の写真を与党議員はFacebookにアップしたが、制服を着た小学生の頃の尹候補の写真と並べ、李候補の写真はわざわざモノクロームに加工して、当時の貧しさから立身出世したことをクローブアップしていた。

工場を転々とし、プレスで左手首を負傷した青年期

 工場を転々とし、野球のグローブ製造工場で働いていた時にプレスで左手首を負傷し、今も曲がったままだ。中学・高校には進学できず、後に検定試験で中・高の卒業資格を得て、奨学金で中央大学法学部に入学。バケツが机代わりだった。

 卒業と同時に司法試験に合格。検事の道も開かれたが、「独裁者(当時の全斗煥元大統領時代)の下では働けない」と地元の城南市で人権派弁護士としてスタートを切った。これは盧武鉉元大統領の弁護士時代の講演に感銘を受けてのことだったという。

 市民運動に参加しながら、盧元大統領時代の2006年、当時の与党「開かれたウリ党」に入党。城南市長選挙や同市議会選挙での落選を繰り返した後、2010年に城南市長選挙で当選を果たし、政界デビューした。市長を2期務めた後、2018年には京畿道知事に当選。大統領選候補者になる直前まで知事職に就いていた。京畿道は韓国全人口の約4分の1に当たる人口約1000万人あまりを有する。

 李候補は政策通としても高く評価されており、尹候補を「政治のアマチュア」と皮肉っている。「共に民主党」内では「非主流・非文在寅」といわる。そのため、与党では李候補が大統領になれば、有権者が現政権を審判したと判断したことになり、実質的に「政権交代を意味する」とされている。11月10日、ある討論会に参加した李候補はこんなことを言っている。

「李在明政府は(文在寅政府と)根っこは同じであることは事実であり基本的なことは共有しているが、以前とはまったく違った、さらに有能でさらに前進する政府になる」(東亜日報、11月11日)。

米国と足並みを揃えた対北政策を指向

 では、新しい大統領の下で日韓関係はどう動くのか。

 肝心の対日政策は具体的なものはまだ見えてこない。ふたりとも歴史・領土問題などについては韓国側の立場から対処するとし、一方で未来志向的な関係をも作っていく、と抽象的だ。

 外交ブレーンとして、尹候補には、ソウル大学国際大学院のパク・チョルヒ教授が、李候補にはソウル大学日本研究所のナム・キジョン教授がそれぞれ入っているが、ふたりとも知日派として知られた人物だ。ただ、李候補は対日強硬派として日本へは過激な発言も多く、また、「文大統領の被害者第一主義を継承するだろう」(前出記者)と見られている。

 対北政策では李候補は文政権同様、北朝鮮で非核化が行われるという条件の下での制裁緩和や経済特区の設置などをあげ、尹候補は軍事境界線に米韓+北朝鮮の連絡事務所を設置し、非核化の進展により経済支援などを行っていくとしており、米国と足並みを揃えた対北政策を指向していることが窺われる。

「これほどブルーな大統領選はない」

 こうして候補者が出揃い、いよいよ本格的な盛り上がりを見せるかと思いきや、まだそんな気配は見られない。これほどブルーな大統領選はないといわれるほど「投票したい候補者がいない」という声が多いのだ。

 特に両候補者は20~30代には圧倒的に不人気だ。李候補については「狡猾にみえる」「何をするか分からない恐ろしさを感じる」という評が、尹候補については「古い価値観」「ジェンダーに鈍感」という声が多く、李候補よりも好感度は低い。

 また、共にいつ爆発するか分からない火種を抱えてもいる。

 李候補は、最近、城南市長時代に行われた開発事業で便宜を図ったのではないかという不正疑惑、通称「テジャンドン疑惑」が浮上し、連日メディアを騒がせており、捜査の行方いかんで大統領選史上初の途中辞退となるかもしれない状況だ。

 尹候補も検事総長時代に与党議員を起訴させるため不正な細工をしたのではないかという疑惑などが持ち上がっており、こちらも捜査が進んでいる。さらに実業家の夫人には株の不正取引疑惑が浮上しており、義母は高齢者施設を違法に開設し、資金を横領した罪状などで逮捕され、一審では懲役3年の判決が出て、控訴している。

日本と何か摩擦が起きれば…

 韓国では与・野党共に3・5割ほどの岩盤支持層を持ち、中道層は3割といわれるが、2020年4月の総選挙では与党を圧勝させておきながら、今年4月の補欠選挙では野党を圧勝させた流動性の高い中道層がどんな選択をするのかに注目が集まっている。

 11月10日、世論調査会社「韓国ギャラップ」がメディアの依頼で行った調査では、尹候補「41.7%」、李候補「32.4%」という結果が出た。他の調査でも今のところ尹候補が優勢だが、韓国の選挙は最後まで何が起こるか分からない。この調査でも、20~30代で「支持する候補者無し」という回答が合わせて36.8%もおり、両候補者共にこの世代の取り込みに躍起になっている。

 別の中道系紙記者はこんなことを言っていた。

「90年代後半までは北朝鮮の脅威を煽ると保守が勝利するというような“北風”効果が言われたこともありましたが、今回の選挙では、日本と何か摩擦が起きれば、対日強硬派の李候補者にとっては追い風になるかもしれません」

(菅野 朋子)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

ミッション中・・・

10秒滞在

記事を最後まで読む

ミッション中・・・

10秒滞在

記事を最後まで読む

10秒滞在

記事を最後まで読む

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください