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「今日の売上は5000円です…」6店舗あった直営店は5店舗が閉店…“観光の島”沖縄で起こる「サバイバル経営」

文春オンライン / 2022年1月20日 17時0分

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国際通りにあるフジタカクリエイションの直営店「KUKURU OKINAWA 市場店」。女性スタッフと取材に応じてくれた高里洋輝取締役(右)。©竹内謙礼

 沖縄を嫌いな人はいない。温暖な気候、青い海、明るい人柄――。昨年の47都道府県の魅力度ランキングで沖縄は北海道、京都に次いで3位となった。国内で南の島を存分に味わわせてくれる観光地として、万人に愛されているのが、沖縄だ。

 そんな筆者も沖縄が好きな一人だ。数年に1回のペースだが、沖縄の離島をめぐる旅をライフワークとしている。バックパッカー向けの宿を一人で泊まり歩き、昼間から砂浜で泡盛を呑む。何も考えずに頭を空っぽにするのが、お決まりの旅のスタイルになっている。

 その沖縄が、今、日本中の観光客から敬遠されている。年末の新型コロナウイルスの新規感染者数は2桁にとどまっていたが、年明けから一気に感染が拡大。7日には1400人を突破し、9日にはまん延防止等重点措置が適用された。一時期は感染者数が2000人に迫る勢いもあり、緊急事態宣言への移行も検討されている。

 今回の沖縄の取材は成田空港からLCCを利用したが、機内の乗客は20人もいなかった。旅行のオフシーズンとはいえ、この光景は異常だ。那覇空港に降り立っても、お土産売場の客もまばら。いつもの賑やかで明るい沖縄の雰囲気はどこにもない。

「年末年始は賑わっていたんですよ」

「年末年始は国際通りも観光客で賑わっていたんですよ」

 そう話すのは、沖縄でTシャツやボクサーパンツの製造販売を手掛ける「フジタカクリエイション」の高里洋輝取締役だ。国際通りの直営店「KUKURU OKINAWA 市場店」も正月はコロナ禍前の9割程度まで売上が回復したという。

 しかし、感染拡大とともに売上は激減。今は国際通りを歩く観光客はほとんどいない。取材の日、直営店でTシャツを2枚購入したところ、女性スタッフが手を叩いて喜んでくれた。

「今日の売上、5000円しかなかったんですよ」

 沖縄は想像していた以上に大きな打撃を受けていた。

国際通りに6店舗「同じ通りに新規店を出しても既存店の売上が落ちない」コロナ禍前

 取材したフジタカクリエイションの業績は、コロナ前まで順調だった。沖縄の観光客数が右肩上がりで増え続け、それに比例してお土産用のTシャツやハンカチが売れていた。

「1.6㎞しかない国際通りに一時期は6店舗ありました。国際通りに新しく店を出しても既存店の売上も落ちない。そんなサイクルがずっと続いていました」(高里さん)

 フジタカクリエイションはうるま市に本社を構え、自社デザイナーによるデザイン力と、自社工場による少量多品種の製造を強みに、沖縄県内のお土産店にファブリック商品を卸していた。空港を始めとした県内の取引先は50社にも及び、沖縄のTシャツの製造販売のリーディングカンパニーでもあった。

 売上が伸び続ける中、次の施策としてショッピングモール「イーアス沖縄豊崎」に出店を決めた。隣接する「DMMかりゆし水族館」を目玉にした訪日客向けの施設は、シャトルバスで近隣のアウトレットモールからも集客し、沖縄の新しい観光名所としても期待されていた。

観光が生命線の沖縄を襲った「前年比8割超のマイナス」

 しかし、こちらの新店もコロナで計画が大きく狂うことになる。2020年6月のオープン時には国内の観光客や訪日客も来なくなってしまった。

 新型コロナウイルスの感染拡大は、沖縄にとって天国から地獄に突き落とされた出来事といえる。沖縄県の観光政策課が発表したデータによると、コロナ前の2018年の観光収入は7340億円に達し、6年連続で過去最高を記録した。観光客数も1000万人を突破し、ハワイと同等の人気を誇るリゾート観光地にまでのぼり詰めた。

 しかし、コロナの影響を受けた2020年度の4月~9月の沖縄県の観光客数は、前年比81.8%減の97万人まで落ち込む。沖縄県の県内総生産のうち、観光収入が占める割合は20%に達する。他の都道府県が5~10%という現状を考えれば、いかに沖縄県民の生活に観光が重要な収入源になっているのかが分かる。

 観光客向けのファブリック商品を扱っていたフジタカクリエイションも、コロナで大きな打撃を受けた。6店舗あった直営店のうち5店舗を閉店し、卸も含めた売上もコロナ前とは比べ物にならないほど減少した。

コロナ禍の嵐の「逆転戦略」がたどり着いた“答え”は…

 今は嵐が過ぎ去るのをじっと待つしかない――私自身、沖縄の現状を見てそう思ったが、高里さんの口からは意外な言葉が返ってきた。

「今は自分たちが変われるチャンスだと思っているんです」

 フジタカクリエイションは、コロナ前から沖縄の観光客に依存するビジネスに危機感を持っていた。その思いから、2012年には秋葉原や浅草に沖縄をイメージした手ぬぐいや扇子などを販売する店舗を出店。しかし、業績は振るわず、2年で撤退した。

「沖縄の直営店の売上が好調だったので、本気になって東京の店舗の売上を伸ばす気持ちが足りなかったんです」

 その敗因に気づかせてくれたのが、コロナだった。感染が拡大した2020年から、自分たちの商品の強みをもう一度見直すことを社内で始めた。創業以来の最大の危機を乗り越えるために、スタッフたちが一丸となって必死に考えた。

 たどり着いたのが全国の水族館や動物園にTシャツやハンカチ、ボクサーパンツを卸す営業活動だった。沖縄の美ら海水族館をはじめ、沖縄の観光地の土産店の商品を取り扱ってきたことから、魚や海をテーマにしたデザインには自信があった為、コロナを機に、全国の水族館に自分たちの商品を取り扱ってもらうよう、営業をかけることにした。

「商談に行くと、『わざわざ沖縄から来てくれたんですか』と驚かれることが多いです。取引先に沖縄が好きな人も多く、コロナ禍になって、初めて自分たちの住む沖縄が、たくさんの人たちから愛されていることに気づきました」

 コツコツと全国の水族館や動物園に営業をかけて、コロナ前の取引先も含めてようやく30社まで増やすことができた。今後は博物館や遊園地、フラワーパークなどにも営業先を広げていくという。

「ネット販売を目的として作った商品でしたが、直営店に並べたら…」

 コロナ禍真っただ中の2021年7月には、今までやっていなかったEコマースのビジネスにも挑戦した。

 高い印刷技術を生かし、有名絵画を題材にした布ポスターを販売するネットショップ「エノアル」を楽天市場にオープン。世界中の名画を約1か月で1000種ほどラインナップし、注文を受けたらすぐに工場でプリントして送付するドロップシッピング型のネット通販を始めた。

 素材感のある布にプリントした絵画は折り目が付きにくく、耐久性が高いメリットがあった。紙に印刷した絵画とは違う味わいになることから、販売を開始してすぐに全国から注文を受けるようになった。

「ネット販売を目的として作った商品でしたが、直営店に並べたら観光客が絵画の布ポスターを購入してくれるんです。巣ごもりの影響で、部屋に絵を飾る人が増えているのかもしれません」

 ネット販売の売上はまだわずかだが、コロナがなければ誕生しなかった新商品といえる。

「今までのように無策で店をオープンして、商品をただ並べるだけの売り方はしません」

 コロナ収束後の観光客の回復に向けた戦略にも力を入れる。

「3月には国際通りに新店舗を再出店する予定です。今までのように無策で店をオープンして、商品をただ並べるだけの売り方はしません。店舗デザインからマーケティング、商品開発までしっかりやって、本気で売れるお店を作るつもりです」

 昨年、コロナ禍で店を閉じる際、他店の売上や商品構成を調べる機会があった。すると、同じような商品構成にも関わらず、自分たちの店よりも売上が大きかったり、客単価が高かったりといったケースがあることに気づかされたという。直営店の売り方がまだまだ未熟であることが分かったのだ。

 一般的なビジネスであれば、マーケティングは当たり前にやることである。しかし、増え続ける観光客に対して、「考えて売る」という行為の優先順位は低かった。コロナを機にマーケティングの大切さに気付けたことは、払った代償は大きかったものの、かけがえのない経験だったといえる。

観光する人は「どういう人たち」なのかを突き詰めると…

 最後に高里さんに、今後の展望を聞いてみた。

「観光に依存している沖縄ですが、裏を返せば、それだけ沖縄のことを好きな人がたくさんいるという意味でもあると思うんです。今後は観光客が来るのを待って商売をするのではなく、自分たちからも沖縄が好きな人に積極的に商売をしていくスタイルに変わっていかなければいけないと思っています」

本土復帰50年を迎える「メモリアルイヤー」の沖縄

 沖縄県の2022年の未来は明るい。感染の拡大は今もなお続いているが、感染が収まれば、再開するだろうGoToトラベルの後押しもあり、沖縄に活気が戻るのは想定しているよりも早いかもしれない。

 5月15日には沖縄本土復帰50周年を迎えることも大きな起爆剤だ。全国各地で沖縄関連のフェアやイベントが開催されて、そのタイミングに合わせて沖縄県を舞台にしたNHKの朝ドラ「ちむどんどん」の放送も始まる。2022年は沖縄が観光で注目される可能性は非常に高い。

 コロナで苦しんだ沖縄に対して「応援消費」もある。コロナの感染者数の増加に胸を痛めているのは、沖縄県民だけではない。沖縄が大好きな人たちも同じように、「沖縄を助けたい」という思いに駆られている。コロナが収束したら、沖縄に足を運び、街で沖縄の商品を見たら購入するような消費が生まれるかもしれない。冒頭で紹介したように、東京や大阪といった大都市を抑えて都道府県の魅力度ランキングで3位に食い込む沖縄は、それだけ多くの人に愛されている。

 日本で最もコロナのダメージを受けた沖縄。しかし、そこでは知恵を絞り、工夫をしながら、必死になってこの危機を乗り越えようとして頑張っている人たちがいる。今はまだもがき苦しんでいる状態だが、コロナが収束した暁には、今まで以上に魅力的になった沖縄を私たちに見せてくれるに違いない。

※本文に出てきた布にプリントする絵画のネットショップ「エノアル」
https://www.rakuten.ne.jp/gold/enoaru/

(竹内 謙礼)

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