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「プーチンの支持率の高さには『マフィア的側面』がある」プーチンが利用してきたロシア国民の“不信感”の正体

文春オンライン / 2022年7月2日 11時0分

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©文藝春秋

 漫画『プリニウス』で、稀代の独裁者と伝えられる、紀元1世紀のローマ帝国の皇帝ネロの実像に迫ったヤマザキマリさん。多くの専門家が「プーチンはウクライナへの軍事侵攻を決断しない」と予測を誤る中、昨年時点から「軍事介入はあり得る」と警鐘を鳴らしていた小泉悠さん。

 独裁者プーチンがなぜこんなにもロシア国民の支持を得られるのか?  歴史上の独裁者たちの末路は? 博覧強記の2人が語り合った。

◆ ◆ ◆

ロシアでは「フェイクニュースとみなした報道を禁じる法律」が

小泉 ヤマザキさんの『テルマエ・ロマエ』と『プリニウス』の熱心な愛読者です。古代ローマ人のプリニウスはまず澁澤龍彦の作品を通じて博物学者として知りました。同時にローマ艦隊司令長官でもある人ですから、軍事オタクの私としては物語の展開から目が離せません。

ヤマザキ 軍事とロシアに関する小泉さんの豊富な知見には多くの人が注目していますから、メディアに引っ張りだこですね。

小泉 もともと私の専門はロシアの軍事力配備や軍事ドクトリンの動向といったマニアックな分野でした。2014年にロシアが軍事力を行使してウクライナのクリミア半島をあまりに容易く編入してしまったとき、仮想戦記のごとき出来事が現実に起きたことに衝撃を受けました。

 冷戦終結から四半世紀を経て、どうしてこのようなことが起こるのか、そもそもロシアは何がしたいのか。ロシアの地政学や秩序観を研究せずにはいられなくなり今日に至っています。

ヤマザキ ウクライナの現状をより詳しく知りたいと思っても、メディアは相反する情報で溢れています。私は日本とイタリアに拠点を置いていることから毎日イタリアのニュースもチェックするのが習慣になっているので、日本でもヨーロッパでも情報が錯綜していることがよく分かります。

小泉 フェイクニュースがかなり混在しているからですね。あえて実態が分からないようにするというロシアのオペレーションとして発信されているケースも少なくないと思われます。

ヤマザキ テクノロジーの進化によって私たちは多様な情報を得ることができるようになったと思いきや、何か重要な決定を下すときに判断の元となる情報がフェイクかもしれない。情報の扱いについては今後益々個々で鍛えた直観力と慎重さが求められていくことになるでしょう。

小泉 ロシアでは3月に、「当局がフェイクニュースとみなした報道を禁じる法律」が成立しました。ニュースの真偽に関係なく、当局は都合の悪いニュースはすべて「嘘」ということにできるようになったのです。

ヤマザキ アメリカのトランプ前大統領が自分にとって不利なニュースをフェイクだと強く主張していた姿が記憶に新しいところですが、プーチンは法制化までしてしまいましたか。

ロシアの独立系世論調査機関「レバダ・センター」が4月下旬に実施した調査では、プーチンの支持率は実に82%でした。支持率が高いのは、国民の多くが政権に都合のいい報道にしか接することができないからだとも言われています。

 確かに情報に判断を操られることはある。しかしメディア統制だけで支持率をここまで上げられるものなのか疑問に思っていました。

プーチンの支持率の高さに「マフィア的側面」

小泉 プーチンの支持率の高さにはマフィア的な側面があると思います。マフィアというのは、それが誕生したときは反社会勢力ではなく住民の互助システムでしたよね。

 日本語ではマフィア=ヤクザだけど、英語ではもう少し広い意味がある。アメリカ空軍では戦闘機乗り出身者を「ファイター・マフィア」と言ったりしますが、緩やかに価値観や利益を共有する団体というニュアンスだと思います。

ヤマザキ イタリアのマフィアは、他国からの支配や侵略に遭い続けた中世のシチリア島において、圧政に反抗するために生まれたという説があります。農地を守るための管理者たちが政治的支配者と繋がって今のように発展したともされています。

 組織はやがてボスの下に幹部や構成員が集まる「ファミリー」となり、その一部が移民先のアメリカで同様の結社を組織し、そこにアル・カポネのようなボスが現れるわけです。
    
 現代のイタリアでも利権と結びついたファミリーがある一方で、クリーンなまま継承された血族主体の組織が、ビジネスや地域の互助システムとして、現在も普通に散見されます。

小泉 ロシアの社会もこれによく似たところがあると思います。ロシアの場合は昔から公的なシステムに対する国民の不信感が根強く、公に頼らず身内で助け合ってきました。

 こういう非公式の助け合いは「法」ではなくローカルな「掟」に基づいているので近代的な秩序には馴染まない。この「掟」に基づく互助構造の総元締めがプーチンなのだと思います。イタリアの元首相ベルルスコーニもファミリーの親分ですよね。

10年ほど前、プーチンの目が急にキツネ目になったワケ

ヤマザキ 彼自身はマフィアとの関与は否定していますが、そもそも闇の多いメディア帝国の帝王でしたからね。まったく繋がりが無かったとはなかなか思い難い。なにせありとあらゆる利権を手中に収めていた人でしたから。

小泉 プーチンとベルルスコーニは気が合いました。10年ほど前にプーチンの目が急につり上がってキツネ目になったのですが、ベルルスコーニに薦められてプチ整形したらしいです。

ヤマザキ プーチンは、思惑通りの自分を象ろうと誇張し過ぎて実態が消えてしまった人という印象があります。イソップ童話の、身体を膨らませて大きく見せようとして破裂するカエルを思い出します。

小泉 逞しいリーダーをアピールするときは、国民の前で裸で泳いでみせたり、上半身裸で馬に乗ってみせたりしました。

 でも、そうやって22年間も彼なりの理想の権力者像を演じているうちに、演技力は徐々に落ちてきたんじゃないでしょうか。特にコロナ以降は引きこもりがちで、かつてのような派手なパフォーマンスは稀になっています。

ヤマザキ 年齢的にも誇張を維持するのは相当しんどいはずなんですが。

小泉 一方のゼレンスキーは3年前まで人気コメディアンでしたから、演じる力はまだまだ残っています。

※続きは発売中の『 週刊文春WOMAN vol.14(2022年 夏号) 』「特集 戦争入門―戦争に慣れないために」にて掲載。後半でも「ドストエフスキー『悪霊』は重いラノベ」「安全保障を外国に依存すると『主権』がない?」など、刺激的な議論が続きます。

text:Atsuko Komine

ヤマザキマリ Mari Yamazaki
1967年東京都生まれ。漫画家・文筆家。東京造形大学客員教授。84年からフィレンツェの国立アカデミア美術学院で美術史・油絵を専攻。2010年『テルマエ・ロマエ』で第3回マンガ大賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞。2015年度芸術選奨文部科学大臣賞受賞。著書に『プリニウス』(新潮社、とり・みきと共著)、『オリンピア・キュクロス』(集英社)、など。最新刊は養老孟司との共著『地球、この複雑なる惑星に暮らすこと』(文藝春秋)。

小泉悠 Yu Koizumi
1982年千葉県生まれ。東京大学先端科学技術研究センター専任講師。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所客員研究員などを経て現職。2019年、『「帝国」ロシアの地政学──「勢力圏」で読むユーラシア戦略』(東京堂出版)でサントリー学芸賞受賞。近著に『現代ロシアの軍事戦略』(ちくま新書)、『ロシア点描 まちかどから見るプーチン帝国の素顔』(PHP研究所)。

(「週刊文春WOMAN」編集部/週刊文春WOMAN 2022夏号)

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