「実家に戻ってもギャンブルをやめられなかった」サラ金への“返済地獄”、20億円負けて裁判も…“ギャンブルで人生が狂った人たち”のリアル
文春オンライン / 2024年6月14日 17時0分
なぜ20億円負けてもギャンブルをやめられなかったのか? ※写真はイメージ ©AFLO
大谷翔平選手の元通訳・水原一平氏による違法賭博で注目が集まった「ギャンブル依存症」。ギャンブルはなぜ人をおかしくさせるのか。ギャンブルで人生が狂った人たちの話を聞いた。
◆ ◆ ◆
ギャンブルとなるとアドレナリン全開に
「これまでギャンブルで破滅していくお客さんを、何百人も見てきました。なかでもひどかったのは、とあるメーカー系の老舗企業の会長だったAさんです。その方はうちの店で20億円ぐらい負けて、その時の借金を踏み倒そうとしたので、大揉めして裁判にもなりました」
ため息交じりにそう語るのは、かつて都内で裏カジノを経営していた高橋一也さん(仮名・56歳)。A会長との“泥沼裁判”に至るまでに一体何があったのか。
「A会長が、初めてうちの店を訪れたのは6年ほど前。82~83歳でしたが、ギャンブルのことになるとアドレナリンが出るのか、いつも目を輝かせていました」
上場企業の会長で、金も時間もあり、しかも生粋のギャンブル好き。上客になるだろうと高橋さんは期待を膨らませた。ところがA会長のギャンブルは、長年裏カジノ界隈にいた高橋さんでも驚くような遊び方だったという。
「毎回、信じられない大金を賭けるんですよ。会長がやるゲームはいつもバカラと決まっていて、最初は2000~3000万ぐらい。でも負けが込んでくると取り返そうとして大金を入れてくる。『次は5000万だ、1億円だ』とさらに金額を上げていって……。でも、ギャンブルセンスはまるでなくて、負け続けていました」
ハマらざるを得ない“暗黙のルール”や“圧力”
大金を賭けては負け、またそれを取り返そうとさらに大きな額を賭け、負債はあっという間に膨れ上がった。
「とはいえ仮に途中で勝てたとしても、ギャンブルにハマってしまった人はそこでやめません。じゃあもう1回いけるんじゃないか、という思考になりますから」
特に裏カジノのような大金が飛び交う世界では、ギャンブルにハマらざるを得ない独特の雰囲気があるのだという。
「店のマナーとして『最低70ゲームはやる』とか『お客さんが一周回るまでは続けなくちゃいけない』とか、ギャンブル店にも“暗黙のルール”があります」
店側や客同士の同調圧力によって作られた空気感によって、簡単には抜け出せなくなるのがギャンブルの恐ろしいところだ。A会長も例外ではなかった。
2回の来店で20億円負けて民事訴訟に
「1回目で7億5000万円、2回目に来た時には12億円の負け。2回の来店でA会長はトータルで20億円近くもの負けを抱えることになりました。すぐにはそんな大金を用意できないと言うので、一時的に店が負け分を肩代わりして、会長には借用書を書いてもらいました。店としては負け分を他の客に払わないと、示しがつきませんからね。そのときは私も必死でお金を集めましたよ」
ところが肩代わりした金を回収しようという段階になって、A会長はゴネ始めたという。
「こんなに支払うのはおかしい、減額してほしいと交渉してきたんです。借用書もありますし、そう簡単に引き下がるわけにもいかず、民事訴訟もしました。でもそも裏カジノでの揉め事ですから裁判所も真剣に取り合ってくれず、結局20億円の半分も戻ってきませんでしたね」
何気なく入ったポーカー屋で…
何気ないきっかけから、ギャンブル沼に引きずり込まれてしまった人もいる。中村聡さん(仮名・53歳)は、先輩と気軽な気持ちから入ったポーカー屋で人生が狂ったと語る。
「もう20年以上前の話ですが、先輩と歌舞伎町で飲んでいて、たまたま見つけたのがポーカー屋でした。当時は歌舞伎町に限らず、全国どこにでもあったんですよ。その時はとりあえず入ってみるか、ぐらいの軽い気持ちでした」
酔った勢いで入った“10円ポーカー”と書かれたお店は、ポーカーのビデオゲーム機が十数台並んだ店だった。
「初回は1万円払うと1万円のサービスがついて、計2万円分遊べたんですよ。で、1ゲームにつき500円まで賭けられ、2万円分もあると『結構遊べるな』って感じるけど、これが一瞬なんですよ。1万円で20ゲームやっても10分も持たない。まるで溶けるみたいに、お金があっという間に無くなっていくんです」
その「負け」がギャンブル沼にハマる第一歩だったという。
500円が一瞬で100倍になるなら…
「僕がハマったのはラッキーフルハウスという機械で、ラッキーナンバーに絡んだフルハウスを出せると一発で5万円になる、というルールでした。つまり、『うまくやれば500円が5万円になる。500円が一瞬で100倍になるなら……』と夢を見てしまったんです」
勝てる日があるともうやめられない
中村さんがハマったポーカーは、いらないカードを捨てて手札の役を揃え勝負するという、ごく一般的なルールのものだったが、裏カジノならではの高額なボーナスもあった。
「店によって独自のルールがあるんですけど、揃えた役によって、5万、10万円がプラスで貰えるんです。たとえば同じ数の札4枚を揃える『フォーカード』という役で、店内にいる客全員でビンゴのように1から13までのフォーカードを揃える店内イベントがあり、最後の数字を揃えたらプラス10万円とか。うまく客のテンションが上がるように設定されていました」
ポーカー店の独特な熱気に押され、中村さんはギャンブル沼にのめり込んでいった。
「自分のラッキーナンバーでフォーカードを揃え、なおかつ店内ビンゴと個人ビンゴ(店内ビンゴと同じように個人でもビンゴを揃えるボーナスイベントがあった)がもし同時に揃うと一撃で25万円になったんですよ。最終的に25万円勝てるなら、極端な話、24万円まで使ってもプラスになるわけだし問題ないと考えるようになりました。冷静に考えればそんな都合のいい話はないんですけどね。数回に1回でも勝てる日があるともうやめられない。『この店、最高!』って当時は思ってました」
中村さんが店に通う頻度は徐々に増え、しまいには毎日のように賭けに興じるようになってしまう。
実家に戻ってもギャンブルをやめられなかった
「店は24時間営業だったから、仕事終わりに行って朝までポーカーやって、寝ずに仕事へ行くこともありました。その頃から金が足りなくなって、サラ金から借りるようになってましたね」
借金ばかりが増えていき、手を出した消費者金融は4社、5社と増えていったという。
「カードローンも合わせたら最終的に7社ぐらい借りたのかな。借金返済のために別の会社からまたお金を借りて……と繰り返して、借金総額は300万円以上ありました。月々の支払いは20万円以上。催促の電話はじゃんじゃんかかってくるし、一人暮らししていたアパートは家賃滞納で追い出されて、実家に戻りました。それでもギャンブル通いはやめられなかった。完全におかしくなってましたね」
そんなどん底状態の中村さんに救いの手が伸びる。窮状を見かねた知人が借金を全額立て替えて、代わりに返済してくれたのだ。
「『もうギャンブルをやらない』という約束で300万、快く貸してくれたんです。無利子で、善意でね。それで借金は全額返済できました。ギャンブルも1カ月ぐらいは我慢したんですよ。でも300万円返済できたから、与信枠が広がってまた300万円ポンと借りられちゃうんですよ。
それで懲りもせず、またサラ金からお金を借りてギャンブルに通うようになってしまった。毎月知人には数万円ずつ返済する約束だったんですが、それもすぐに滞ってしまいました」
「絶対に使っちゃいけない金でやるほうが面白い」
中村さんは、大谷選手のお金に手を出した水原一平氏の「気持ちが分かる」と話す。
「ギャンブルって絶対に使っちゃいけない金でやるほうが、面白いんですよ。背徳感がたまらない。だから正直、もう一生ギャンブルしないと知人に約束した後にそれを裏切ってやっていたギャンブルのほうが興奮したんですよね」
結局中村さんはその後、再度ポーカー屋に通っていることが知人にばれた。自己破産まで考えたものの、弁護士に任意整理を頼み、借金は地道に返済することができたという。
「その頃ちょうどポーカー屋が一斉に摘発されていて、通っていたお店もなくなっちゃったんです。だから強制的にギャンブルもやめられて、僕にとってはラッキーでした。お金を貸してくれた知人には相当怒られましたけどね」
ハマった本人だけでなく周囲の人まで人生を狂わされることになるのが、ギャンブルの恐ろしいところだ。
(清談社)
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