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特殊詐欺から連続強盗へ――。ITで素人を操り、粗暴な手口で手っ取り早くカネを狙う「デフレ型犯罪」はなぜ生まれたか?

文春オンライン / 2024年6月14日 5時50分

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©AFLO

 フィリピンを拠点に、特殊詐欺を働き、さらには「闇バイト」を駆使して、強盗殺人まで犯していた犯罪グループの存在は、記憶に新しいところだろう。なぜ彼らのような犯罪グループが生まれたのか? そして、その組織や手口はどのように変異していくのか? 長年、アウトローと経済事件の取材を重ねてきた著者が、その歴史を追い、実態を暴いた『 特殊詐欺と連続強盗 』(文春新書)を一部抜粋して紹介する。(全2回の1回目/ 2回目 に続く)

強盗殺人事件の意外な黒幕

 2023年1月、凄惨な強盗殺人事件のニュースが、日本列島からお正月気分を吹き飛ばした。

 1月19日、東京都狛江市駒井町の住宅で、この家の住人である当時90歳の女性が倒れているのが見つかり、現場で死亡が確認された。女性は両手首を結束バンドで縛られ、顔から血を流していた。死因は殴打されたことによる多発外傷で、犯人から激しい暴行を受けたものと見られた。

 さらに不気味だったのは、これと関連があると見られる強盗事件が全国で相次いでいたことだ。

 警察庁は同月26日、同一グループによる犯行が疑われる強盗事件が東京、茨城、栃木、埼玉、千葉、神奈川、広島、山口の8都県で14件起きていることを明らかにした。同時に、京都と大阪の両府で起きた強盗事件と、群馬、滋賀、岡山、福岡の各県で起きた窃盗事件などが、同一グループによるものである可能性も指摘した。

 実行犯が芋づる式に逮捕されると、彼らを海外から操っていた黒幕の存在も明らかになった。

 警視庁は2023年2月、フィリピンから強制送還された4人の日本人男性を逮捕した。直接の逮捕容疑は、2019年に都内の高齢者らにうその電話をかけ、キャッシュカードをだまし取ったとされる窃盗容疑だ。つまりは特殊詐欺事件である。

 この特殊詐欺の容疑者らの中に、「ルフィ」や「キム」などと名乗り、連続強盗の実行犯を動かしていた指示役がいたのである。

 警視庁は2023年6月29日、4人のうちのひとりである今村磨人被告(当時39歳)が、2022年5月に京都市の時計販売店から高級腕時計6900万円相当が奪われた事件の指示を出していたとして、強盗容疑で再逮捕した。この事件で、奪われた腕時計を運んだとして逮捕・起訴された22歳の男が今村被告の銀行口座に現金を振り込んでいたほか、警察の調べに対し「ルフィと名乗る人物に指示された」などと供述していたのだ。

 今村、渡辺優樹被告(当時39歳)らのグループは2018年ごろから、フィリピンを拠点に、日本にうその電話をかける手法で特殊詐欺を働いていた。そして2021年の夏頃から、ネット上で「闇バイト」を募る手法で集めた強盗グループを、メッセンジャーアプリなどを使い遠隔操作していた。彼らが関与した強盗や窃盗事件は50件以上、詐欺の被害総額は60億円超と言われている。

 特殊詐欺とは、親族や公共機関の職員に偽装した犯人が、電話やハガキ、メールなどを通じて被害者をだまし、現金やキャッシュカードを奪ったり、医療費の還付金が受け取れるなどと言ってATMを操作させ、犯人の口座に送金させたりする犯罪のことだ。もともとは「オレオレ詐欺」や「振り込め詐欺」などと呼ばれていたが、手口が多様化し、オレオレと言わない例や銀行口座に振り込ませず現金を対面で受け取る手法が増えるなどしたため、警察はそうした詐欺の総称として、2011年から特殊詐欺という用語を使うようになった。

 それにしても、特殊詐欺で数十億円も荒稼ぎしていたグループが、リスクの高い強盗にまで手を染めたのは何故か。

 その理由のひとつには、情報技術(IT)の進化により、「匿名性」の確保が容易になったことがある。詐欺と強盗とでは、捕まって有罪になった際の量刑に大きな差がある。詐欺ならば最長でも懲役10年だが、強盗の場合は20年や30年、被害者を傷つけたり死なせたりすれば無期懲役や死刑もあり得る。しかし、匿名空間の闇に隠れ、実行犯を使い捨てにする黒幕たちは、大した違いを感じなかったのかもしれない。

 そしてもうひとつ、この特殊詐欺と連続強盗に共通するのは、「現金を手っ取り早く手にする」ことを志向する、日本経済の長い低迷期に生まれた「デフレ型犯罪」だということだ。

特殊詐欺は「デフレ型犯罪」

 特殊詐欺は、日本経済が低迷する中で生まれ、変異を続ける「デフレ型犯罪」の一形態である──。

 1990年代から、ヤクザを頂点とするいわゆる「アウトロー」のカネ儲けを観察し続けた筆者がたどり着いた現時点での結論がこれだ。アウトローとは「LAW(法)」の「OUT(外)」にある、という意味で、「無法者」などと訳されるのが普通だ。しかしここでは完全な違法行為だけでなく、法の境界線上の、ギリギリの領域で活動する勢力までを含めている。(略)

 デフレ型犯罪とは、現金志向が強く、スピード重視で、素人の参入しやすさを特徴とする犯罪のことだ。そして、そのターゲットとされるのが、一般の個人(連続強盗でいえば商店など)である。その対極にあるのが、1980年代後半から1990年代初めにかけてのバブル期に見られた、土地や株などの「資産」とからむ「インフレ型」犯罪だ。

 当たり前の話だが、物価上昇が続くインフレーションの下ではモノの価格に対しておカネの価値が下がる。逆に物価が下げ止まらないデフレーションの下では、おカネの価値に対してモノの価格が下落する。

 法に触れるリスクを冒してまでつかみ取るなら、インフレ下ではいっそうの値上がりの見込めるモノの方が、現金よりも魅力を放つ。実際、株や不動産などの猛烈な資産インフレが起きたバブル期には、これらと紐づけられた利権に無数のアウトローが群がった。詳しくは後述するが、いわゆる企業舎弟やフロント企業、バブル紳士などと呼ばれた人々である。

 ところが今は、日本社会のあらゆるワルたちが、特殊詐欺に参入しているような感すらある。

 警察庁は2023年2月に発表した「令和4年の犯罪情勢」で、次のように指摘している。

〈特殊詐欺については、事件の背後にいる暴力団や準暴力団を含む匿名・流動型犯罪グループが、資金の供給、実行犯の周旋、犯行ツールの提供等を行い、犯行の分業化と匿名化を図った上で、組織的に敢行している実態にあり、令和4年の認知件数は1万7570件と2年連続で増加し、被害総額は約370・8億円と8年ぶりに前年比増加となり、深刻な情勢が続いている〉

 ではなぜ、特殊詐欺のようなデフレ型犯罪が、「変異を続けてきた」と言うことができるのか。ヒントとなったのが、冒頭で言及した連続強盗事件である。

〈 「連続強盗」の手口は劣化している? 「リスク無視」、「手っ取り早く現金」の拙速犯罪を支えるのはIT技術の発達 〉へ続く

(久田 将義/文春新書)

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