1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. 経済

【80歳になったら無税で利益を…】長すぎる老後に新NISAが効く〈橘玲氏が明かすテクニック〉

文春オンライン / 2024年6月22日 6時0分

【80歳になったら無税で利益を…】長すぎる老後に新NISAが効く〈橘玲氏が明かすテクニック〉

新1万円札 ©時事通信社

 “自助なしに、高齢社会に対応することはできない——。新NISAに込められた政府の思惑を、作家の橘玲氏はこう解説する。世間が騒然とした「老後2000万円問題」をふまえると、新NISAによる資産形成は若者だけのものではないという。

◆◆◆

「老後」を短くするために……

 岸田政権は人口減に歯止めをかけようとしているが、健康保険や介護保険の赤字から独居高齢者の増加、孤独死にいたるまで、超高齢社会の負の側面はこれからさらに顕在化してくる。社会保険料を際限なく引き上げて現役世代に負担を押しつけると、少子化がさらに加速してしまう。

 だからといって年金支給額を減らすと、高齢の生活困窮者が大挙して生活保護を申請し制度が破綻する。現役世代の負担と高齢世代への給付のバランスは一歩踏み外せば奈落に堕ちる綱渡りのようなものなのだ。

 老後問題というのは「老後が長すぎる」という問題なので、それを解決するもっとも簡単な方法は老後を短くすることだ。人生100年時代に60歳でリタイアし、年金生活を始めると老後は40年もある。

 だが80歳まで働けば老後は20年、医師の日野原重明さんのように105歳まで現役で活躍すれば「老後問題」そのものが存在しなくなる。――毎月10万円の収入でも年120万円、10年で1200万円、20年で2400万円だからこれだけで「老後2000万円問題」は解決してしまう。

 このように考えれば、長期の資産形成はけっして若者のためのものだけではなくなる。65歳になっても年金受給を繰り下げて働き、その収入の一部をNISAで積み立てれば、80歳や90歳になったときにその果実を無税で受け取ることができる。対して60歳でリタイアし、繰り上げ受給で減額された年金以外の収入がなければ、あらたな資産をつくることはできないだろう。

 格差の拡大が引き起こす社会・経済問題をどのように解決するかという困難な問いを脇に置いておけば、重要なのは、健康が許すかぎり楽しく働き、資産形成を続けることだ。「生涯現役」や「貯蓄から投資へ」という政府の掛け声を毛嫌いするひとがいるが、北欧などリベラルな福祉国家も含め、先進国はすべて同じ方向に向かっている。もはや“自助”なしに、高齢社会に対応することはできないのだ。

月3万円で1億6300万円

 NISAのメリットがどれほど大きいか、簡単な試算をしてみよう。

 ファイナンス理論では国債は「無リスク(安全)資産」で、元本と利払いが国家によって保証されている。それに対して株式投資は元本の保証がなく、リスクが高い分だけ平均的には国債よりリターンが大きくなるはずだ。

 このリスクプレミアムは5%程度とされ、長期国債の金利を2%とすれば、株式市場に長期に投資した場合の期待リターンは7%になる(合理的な投資家は、5%ほどのプレミアムがないと株式に投資せず国債を保有する)。

 これを「机上の空論」と思うかもしれないが、アメリカの株式市場の代表的な指標であるS&P500(大手企業500社の株価の平均)の過去10年の平均リターンは年率10%を超えている。アメリカの株価はグローバル株式市場にほぼ連動するので、世界経済が今後も年率7%程度の成長を続けるという予測はさほど大胆なものではない。

 20歳の若者が月額3万円を世界株式に積み立て、年平均7%で運用できたとすると、10年で元金の360万円は約520万円になる(利益は160万円、収益率44.4%)。NISAならこの全額を受け取れるが、(課税対象になる)特定口座だと譲渡益に20%(+復興特別所得税)の税金がかかり、約32万円を納めることになる。

 長期投資の最大のメリットは、複利の力によって、投資期間が長くなればなるほど利益が雪だるま式に膨らんでいくことだ(アインシュタインは複利を「人類最大の発明」と呼んだとされる)。

NISA以外は意味がない

 NISAの非課税保有限度額は1800万円なので、この若者が50年間、月3万円の積み立てを続けたとすると、投資元本(1800万円)に対して資産は9倍の1億6300万円、利益は1億4500万円に(理論上は)なる。――表1でわかるように、月額3万円の積み立てでも、運用期間が長期になるにしたがって利益は急速に増えていく。これが複利のパワーだ。

 ところが課税口座だと、この利益に対して2900万円もの税金を払わなければならない。さらには、株式やファンドの配当・分配金にも税金がかかるが、NISAではこれも非課税なので、全額を再投資に回すことができる。そう考えれば、NISAが断然有利な制度だとわかるだろう。

 もちろんNISAには、1年間に非課税で投資できる上限(成長投資枠と合わせて360万円まで)が決まっているとか、信用取引で投資にレバレッジをかけたり、空売りができないとか、損失が出たときに他の譲渡益と損益通算できないなどの制約がある。だがこれらはかなりの資産を運用するセミプロにとっては重要でも、老後のために資産形成したいふつうのひとたち(あなた)にとってさしたる意味はないだろう。

 そうなると、「NISA以外で株式投資をする理由はあるのか」という単純な疑問が生まれる。そのシンプルな答えは「なにもない」だ。

余裕資金はすべてNISAに

 月々3万円の積み立てでも、NISAなら50年で3000万円ちかい税金が非課税になる。譲渡益や配当・分配金に税金を払いながら、信用取引や空売りでそれ以上の利益を出せるひともいるかもしれないが、運用益に20%(分離課税)から50%(所得税・住民税の最高税率)の税がかかる以上、ほとんどの投資家はどんなに頑張っても税コストを埋めあわせることはできないだろう。

「投資の収益に対して税金を払わなくていい」というNISAのメリットはあまりに大きいので、課税口座での株式投資だけでなく、不動産や金の現物取引など、それ以外の投資をすべて無意味にしてしまう。今後は、「余裕のある資金はすべてNISAで運用する」というのが資産形成の王道になるだろう。

 NISAの口座は18歳以上で開設できるので、これがどれほどのパワーをもつか、夫婦と子ども2人で月20万円(5万円×4人)を積み立て投資するケースで試算してみよう。

 もちろん夫婦2人で10万円ずつ積み立てても同じことだが、子ども1人あたり年間110万円までの贈与は非課税なので、子どものNISA口座で運用すれば、非課税で資産を贈与することができる。――この場合、最初の30年間で非課税の保有限度額(1800万円×4人)に達するので、それ以降は積み立て無しの運用のみになる。

 現実には「夫婦で30代からNISAへの積み立てをはじめ、子どもが18歳になったら口座を開設する」という順番になるだろうが、一家4人で同時にNISA口座を開設し、それぞれ月5万円を積み立てる簡略化した試算をすると、年利回り7%という保守的な想定でも、投資元本の7200万円に対して50年後の世帯資産はおよそ10億円(9億8541万円)になる。利益は9億1000万円、節税額はこれに20%をかけた1億8000万円だ。

 NISAはいつでも解約できるが、この(かなり極端な)試算からは、いったん積み立て投資を始めたら、長く続ければ続けるほど複利と非課税の効果が大きくなることがわかる。それと同時に、資産形成にこれほどのパワーがあるのだから、それ以外の投資に資金を配分する理由がないことも理解できるだろう。

本記事の全文は「文藝春秋」2024年7月号と、「文藝春秋 電子版」に掲載されています(橘玲「 臆病者のための新NISA活用術 」)

(橘 玲/文藝春秋 2024年7月号)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください