「父が事業に失敗し、内実は火の車。給食費が払えなくて…」吉永小百合が語る初期作品と青春の日々《デビューから65年》
文春オンライン / 2024年7月6日 6時0分
![「父が事業に失敗し、内実は火の車。給食費が払えなくて…」吉永小百合が語る初期作品と青春の日々《デビューから65年》](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/bunshun/bunshun_71338_0-small.jpg)
『キューポラのある街』(1962年、浦山桐郎監督) ©日活
今年でデビューから65年を迎える女優・吉永小百合さん。出世作と目される『キューポラのある街』を皮切りに、初期の映画作品の思い出を振り返った。(聞き手 川本三郎・評論家)
◆◆◆
100年先も残る『キューポラのある街』
川本 吉永さんが今年映画デビュー65年を迎えられるとお聞きして、びっくりしました。日本の三大女優と呼ばれる、田中絹代、山田五十鈴、高峰秀子より映画界でのキャリアが長くなられた。
吉永 高峰さんが引退されたのは55歳の早さでした。素晴らしい映画をたくさん残された後、エッセイストになられたのですね。2つのキャリアを築かれた方だと思うんです。
かたや私の方は、中学を卒業してすぐに日活撮影所に入り、16歳の時に浦山桐郎監督の『キューポラのある街』で、ジュンという少女の役を演じました。この映画がみなさんの一番記憶に残っている作品でしょうし、これから50年、100年先も残っていくような映画だと思うんです。なんとか『キューポラのある街』を超える作品に出たい、という思いで続けてきたら、あっという間に時間が過ぎていた、というのが正直なところなんです。
川本 もちろん『キューポラのある街』は名作ですが、それ以降も市川崑監督や、山田洋次監督といった名匠たちと数々の名作を生み出されてきたと思います。そうした中後期の作品については後でゆっくり伺いますが、まずは初期作品についてお聞きします。
映画デビュー作『朝を呼ぶ口笛』は、松竹映画でしたね?
吉永 ええ。私が通っていた「ひばり児童合唱団」の指導者・皆川和子先生と親しかった松竹のプロデューサーから、映画のオーディションのお話があったのがきっかけです。その前に、ラジオドラマの『赤胴鈴之助』にも出ているんですが、それもオーディションでした。1万人ぐらい応募があって、選ばれたのは藤田弓子さんと私、そして男の子が2人。そういう意味では、いろいろ幸運が重なってのデビューだったと思います。
川本 『朝を呼ぶ口笛』は、荒川沿いの葛飾が舞台でした。『キューポラのある街』も、やっぱり荒川近くの川口が舞台です。
そして、翌年の『いつでも夢を』は、「お化け煙突」が近くに見える下町の工場地帯です。初期の吉永さんというと、「川の流れる下町で、貧しくもけなげに生きる女の子」というイメージでした。
吉永 お化け煙突、なつかしいですね。成瀬巳喜男監督の『女が階段を上る時』などにも出てきます。
マリアのような芦川いづみさん
川本 吉永さんが生まれ育ったのは、代々木西原で、お父様は外務省の元官僚。下町の貧しい少女を演じるのは、ギャップをお感じにはなりませんでしたか?
吉永 ただ私の家も父が事業に失敗し、内実は火の車でした。小学生の頃、給食費が払えなくて、母に「今日は持ってくるのを忘れました、ってことにしなさい」と言われたこともあります。
だから、『キューポラのある街』の、家が貧しくて修学旅行に行けなかったり、働きながら定時制高校に行くことを決意したりするジュンの気持ちが、少しはわかるような気がしました。
川本 『いつでも夢を』も、定時制高校に通う若者たちの群像劇でしたね。
吉永 私は、昼間は看護婦として、信欣三さん演じるお父さんの医院を手伝う娘の役でした。
川本 共演された俳優の皆さんの思い出についてもお聞きしたいと思います。
吉永さんが大活躍された1960年代前半の日活は、戦後の映画製作再開からまだあまり時間が経っておらず、若々しい会社というイメージでした。俳優やスタッフにも、古株のボスみたいな人がおらず、風通しがよかったんじゃないですか?
吉永 はい、のびのびと仕事できましたし、先輩たちからとてもかわいがっていただきました。
とりわけ芦川いづみさんは、やさしい方でした。当時手が届かなかった舶来の高価な化粧品を、分けてくださったこともあります。
川本 芦川さんは、ロケの撮影中に吉永さんが熱を出した時、徹夜で看病なさったそうですね。
吉永 自分が同じことをできるだろうか、といつも考えてしまうんです。徹夜をすれば、どうしても顔に出て、翌日の撮影がボロボロになってしまう。そう考えると、やっぱり芦川さんはマリアさまのような方だと思います。
太宰治原作の『真白き富士の嶺(ね)』では、姉妹役で共演しています。私の役名が「梓」だったのですが、芦川さんは撮影中、私のことをずっと「アズちゃん」と呼んでくれました。そんなことも、大切な思い出として自分の中に残っています。
憧れの裕次郎さんと共演
川本 他によく共演された方で印象が強いのは……。
吉永 浅丘ルリ子さんや和泉雅子さんとはよくご一緒しました。芦川さんも加え、四姉妹を演じた『若草物語』もあります。芦川さんが長女、ルリ子さんが次女、私が三女で、雅子ちゃんが末っ子役でした。
雅子ちゃんは、本当におてんばでやんちゃでしたね。あとで冒険家になったのも、よく分かります。
川本 銀座の食堂の娘さんで、まさに元気な下町っ娘という感じでした。『非行少女』での彼女は、その印象とあんまり違うんでびっくりしました。
吉永 あの元気な雅子ちゃんが、あの暗い非行少女役を演じたんですからね。そこはやっぱり浦山監督の演出力が大きかったのでしょう。
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本記事の全文は「文藝春秋 電子版」に掲載されています(「 吉永小百合『日活撮影所が学校でした』 」)。
(吉永 小百合/文藝春秋 2024年7月号)
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