一夫多妻制に「これって不倫やん」と…嫉妬していた日本人女性が、第一夫人に言われた意外な言葉〈西アフリカ最貧国ベナン〉
文春オンライン / 2024年6月23日 11時0分
![一夫多妻制に「これって不倫やん」と…嫉妬していた日本人女性が、第一夫人に言われた意外な言葉〈西アフリカ最貧国ベナン〉](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/bunshun/bunshun_71431_0-small.jpg)
ベナンで暮らすエケ陽子さん
西アフリカの最貧国とされ、NBA選手・八村塁氏の父の故郷としても知られるベナン共和国で、現地男性の第二夫人となったエケ陽子さん。
青年海外協力隊ではじめて訪れたベナンで現在の夫・ボナさんと出会い、日本で結婚・出産をした後、昨年、家族でベナンに移住した。
同国の農村部に色濃く残る一夫多妻制のカルチャーに戸惑いながらも、ベナンの人々のエネルギーに惹かれ、女性支援活動も行う陽子さんに、その暮らしぶりやカルチャーについて聞いた。(全3回の1回目/ 続きを読む )
◆◆◆
洗濯は手洗い、電気や水道もない村の生活
――西アフリカの最貧国と言われるベナンは、どんな国ですか。
エケ陽子さん(以下、陽子) 経済的都市のコトヌーは中国による開発が盛んに行われていることもあり、大きなビルが建っていたりしてかなり都会ですが、そこからちょっと離れるとまだまだ村の暮らしが主流です。
私は南西部に位置するドボ=トタという地方都市に住んでいますが、都市といっても家は土壁がほとんどで、電気が通っていないところもあります。水道も整備されていないので、大きなボウルを頭に乗せた女性や子どもが毎日、水場まで水汲みをしに行っています。
――陽子さんのお家の状況は?
陽子 私たちは日本にいる間にちょこちょこお金を貯めて家を建てたので一応、コンクリートの壁ではあるんですけど、まだ公共の電気は通っていなくて。電柱は立ったのであともう少しと聞いていたものの、半年経った今もまだ電気がきていません。なので、電気を引いている家からラインを分けてもらっているのと、ソーラーパネルで賄っているような感じです。
水は、家の前の長屋に水を貯めるタンクがあるので、そこから引けています。この前、コトヌーのお友だちの家に行ったら洗濯機がありましたが、うちはまだないので、全部手洗いです。
――手洗いでの洗濯、かなり大変ではないですか。
陽子 家族4人分の洗濯物の手洗いってめちゃくちゃ重労働で。毎日、午前中の2時間は洗濯にかかりっきりになってますね。
海外への憧れを封印、看護師をしながらモヤモヤを抱えて
――日本にいる間は看護師をされていたそうですが、なぜベナンに行くことになったのでしょうか。
陽子 小さい時から引っ込み思案だったのですが、海外ドラマの影響もあり、海外に対しては強い憧れがありまして。
社会人になって看護師として働き出してからは海外への思いを封印していたんですけど、医療センターの小児病棟で働く中で、「私は一生このまま看護師として同じ場所で生きていくのかな?」と、モヤモヤを抱えるようになって。
――お仕事でモヤモヤするようなことが多かった?
陽子 たぶん、生死に関わる現場にいたことが大きかったと思います。やりたいことは早めにやっておかないとという気持ちが募って、国内外へ放浪をはじめて。
まず、カナダのトロントやオーストラリアに留学した後、お金を貯めるためにまた日本に戻り、喜界島で7ヶ月間、看護師として働きました。そこで、島から一歩も出ないまま亡くなっていく人に会ったりしたことで、ああ、どこにいても幸せっていうのは自分次第なんだと実感したことが、自分の中で大きかったですね。
その後、2013年に青年海外協力隊員としてベナン共和国に赴任しました。
「赴任地:ベナン共和国」に「え? どこそれ?」
――ベナンへの赴任を希望されていたのでしょうか。
陽子 遡ると、中学生のとき、アフリカで活躍する日本の看護師の方のドキュメンタリーを見て衝撃を受けて。誰かが現場に行くことで助かる命があるんだと、そこから看護師を目指したんです。なので、アフリカにもずっと行ってみたかったんですが、なかなかハードルが高くて叶えられずにいました。
そうして一念発起して青年海外協力隊に応募したわけですが、希望地自体はケニアだったんです。
――希望地ではなかったベナンに派遣されたと。
陽子 アフリカといえばケニアというイメージだったし、英語圏やしなと、それくらいしか考えていなかったんですけど、蓋を開けたら、「赴任地:ベナン共和国」とあって。そのときはじめてベナンという名前も聞いたものですから、「え? どこそれ?」でした(笑)。
――ベナンがアフリカにある国だということも、その時に知ったんですね。
陽子 そうです。調べてみたらアフリカやったので「もうこれは運命だ、行くしかないやろ!」と興奮しました(笑)。でも、ベナンはもともとフランス領だったので、フランス語圏なんですよね。だから慌ててフランス語の勉強もはじめました。
――はじめてアフリカの地・ベナンに降り立った時、どんな気持ちになりましたか。
陽子 着いたのは夜の10時頃だったので周りは何にも見えなかったんですけど、外に出た瞬間、モワッとした湿気を含んだ暑さを感じて、「ああ、これがアフリカなのか」と、感動しました。まあ、すぐに「暑い~」ってなるんですけど(笑)。
一夫多妻制のベナン「僕の妻と子どもです」と家族を紹介されて
――後に陽子さんが第二夫人となるベナン人のお相手、ボナさんとの出会いは?
陽子 コトヌーで語学研修を1ヶ月した後、任地のドボ=トタに来て3日目で会いました。いろいろ見て回ろうと散策してる途中、彼がやっている小さなアトリエの前で挨拶を交わしたのが最初です。
そこからボナに村を案内してもらって、すぐ、「僕の妻と子どもです」と、家族も紹介されて。ボナには第一夫人との間に2人、子どもがいました。
――そこからどのようにして交際に発展したのでしょうか。
陽子 私自身、赴任したばかりで生活もままならない状況だったので、ガスボンベのつなぎ方やWi-Fiの設定とか、生活に必要なことを何でもかんでもボナに全部聞いて、頼りにしていたんです。そういったときに、いつも彼は同じように優しかったので、いい人だな、と思ったのはありますね。
「お願いだからボナと仲直りしてください」と言いに来た第一夫人
――すでにボナさんの家族を紹介されていたということですが、抵抗もあった?
陽子 そこはずっと葛藤がありました。ベナンでは一夫多妻制は普通のことでも、私からしたら、「これって不倫やん」という思いが消えなくて。自分は奥さんや子どもに会うのも気が引けるけど、ボナは全然気にしないし、ずっと私だけモヤモヤしている感じで。
そんなとき、ボナと大ゲンカして「もう別れる!」となったことがあるんですけど、その後、第一夫人が私の家に1人でやって来て、「お願いだからボナと仲直りしてください。ボナはいい人です」みたいなことをわざわざ言いに来たんです。
――ボナさんでなく、第一夫人が引き止めに来るのは驚きですね。
陽子 第一夫人は小さいときに隣のナイジェリアに出稼ぎに行ったことがあるそうで、英語が少しできるので、拙い英語で伝えてくれて。
私の存在って、第一夫人にとっては複雑なものがあると思っていましたが、かといって嫉妬だけでもないのかな、という気もして。第一夫人への感情もちょっと変わりましたね。
この国のスタイルを受け入れていくことで気持ちを落ち着かせ
――陽子さん自身は、第一夫人に対して嫉妬の気持ちがあった?
陽子 ありました。ただ、ベナン人の男性は一箇所に定住するのが良くないことだと言われていて、妻のいる家だけでなく、彼女の家とか、いろんなところを転々として暮らす人は普通にいてます。
私がいくらボナを独り占めしたくても、ベナン人の男性には通用しないことなんだと、この国のスタイルを受け入れていくことで気持ちを落ち着かせていったような感じです。
――ベナンでは一夫多妻制が普通ということですが、男性一人につき妻の人数は平均何人くらいなのでしょうか。
陽子 実は、ポリガミと呼ばれる一夫多妻制は、すでにベナンの法律で禁止されているんです。そんな中で、農村部ではいまだに風習として色濃く残っていて、私の周りだと、最も多い人で8️人、妻がいる人もいます。
何人妻を持てるかは男性の財力にかかっているので、それがステータスとしても機能しているようです。
――では、ボナさんが今後、もっと妻を持つこともあり得る?
陽子 ボナは、第二夫人まで、とお父さんと約束をしたそうなので、それはないかなと思います。そもそも彼自身は、妻は1人で良かったらしいんですけど、お父さんからダメと言われたらしく。さっきも話した、ステータスとかそういうことかもしれません。
2家族でひと月5万円あれば十分な暮らし
――男性の財力で家庭を支えているということでしたが、第一夫人の家庭と陽子さんの家庭のお金の割り振りはどのようにして行っているのでしょう。
陽子 お互いの家で何にいくらかかるか全部計算して、それを元にお金を分けています。第一夫人は子どもが4人いますけど、井戸から水を汲んでいるから水道代は要らないし、電気代も、電化製品がないのでほとんどかかりません。食費も、自分たちで作った農作物で賄うものが大半ということもあり、パソコンやら何やら使っている私の家の方が高くついています。それでも、2家族でひと月5万円あれば十分、ここでは生活できますね。
あと、立場的には第一夫人がもっとも上になるようで、権限が強いと聞きましたが、私の場合は外国人ということで例外らしく、第一夫人の方も対等に接してくれるし、私の子どものこともすごくかわいがってくれますね。
ベナン人にとって「外国人=お金持ち」
――ベナンで日本人と結婚する人は少ないのでは?
陽子 都市のコトヌーだとヨーロッパの人が住んでいるエリアがあったり、大使館や企業があるので外国人はぼちぼちいるんですけど、私のいる地方だと、外国人を見たことない人ばかりです。
なので、やっぱり珍しいからめちゃくちゃ見られますし、こっちで外国人のことを「ヨボ」と言うんですけど、独特の歌もあって、「ヨボヨボヨボヨボ」、どこに行ってもずっと歌われてます。
――歓迎ムードという感じなんでしょうか。
陽子 「わぁ、外国人!」の表現が、さっきの「ヨボの歌」って感じですかね。あと、ベナン人にとって「外国人=お金持ち」なので、外国人と結婚したボナはステータスが高いというか。それもあって、あることないこと噂されることも多いです。
「ボナは外国人といつも外食をしてて、ヨボが全部お金も払っている」とか、「第一夫人の家族をほったらかしにして家族にお金を入れていないらしい」とか。そんなこと全然ないんですけどね。
――嫉妬も混じっている?
陽子 そうだと思いますね。外国人というだけで、「じゃあ、あなたの家はお金持ちね」という感じで話してきたりとか、「お金に困ってないんだろ」みたいに言われたり。
あと、この辺は「グリグリ」という呪いみたいなものが残っていて、私たちにグリグリをかけてくる人がいるのか、不思議なことがよく起きるんです。
〈 一緒に帰国したベナン人夫が「日本は寂しい国だ」と…アフリカで第二夫人になった日本人女性が感じたカルチャーギャップとは? 〉へ続く
(小泉 なつみ)
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