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一緒に帰国したベナン人夫が「日本は寂しい国だ」と…アフリカで第二夫人になった日本人女性が感じたカルチャーギャップとは?

文春オンライン / 2024年6月23日 11時0分

一緒に帰国したベナン人夫が「日本は寂しい国だ」と…アフリカで第二夫人になった日本人女性が感じたカルチャーギャップとは?

左から陽子さん、長男、夫のボナさん、次男

〈 一夫多妻制に「これって不倫やん」と…嫉妬していた日本人女性が、第一夫人に言われた意外な言葉〈西アフリカ最貧国ベナン〉 〉から続く

 西アフリカの最貧国とされ、NBA選手・八村塁氏の父の故郷としても知られるベナン共和国。そのベナンで、現地人男性の第二夫人となったのが、看護師のエケ陽子さんだ。 

 青年海外協力隊ではじめて訪れたベナンで現在の夫・ボナさんと出会い、日本で結婚・出産をした後、昨年、家族でベナンに移住。そんな陽子さんに、その暮らしぶりやカルチャーについて聞いた。(全3回の2回目/ 続きを読む )

◆◆◆

ブードゥー教の呪術「グリグリ」をかけられて

――陽子さんが暮らすベナン共和国の地方都市では、呪術が根付いているそうですね。

エケ陽子さん(以下、陽子) 私が暮らす農村部ではブードゥー教を信仰している人が多いんですけど、その一環で、呪術師が「グリグリ」というおまじないをかけることがよくあるんです。

――「グリグリ」とは、具体的にどんなおまじないなんでしょうか。

陽子 良いおまじないもかけられるんですけど、他者に対して呪いをかけることもできるのが「グリグリ」で。たとえば、「あの人の仕事が成功しないようにグリグリをかけてくれ」といったかたちで呪術師にお酒とか豚、ヤギなんかのお供え物を持っていって、グリグリをかけるんです。

――前回、「外国人=お金持ち」と捉えられることが多いというお話がありましたが、嫉妬から、陽子さんたちもグリグリをかけられたことがある?

陽子 あります。良いことよりも、他者への嫉妬から呪いをかける人がやっぱり多いみたいで。人が成功するのを喜べないところはあるかもしれません。

 例えば、ボナが以前働いていたアトリエにあった蓋つきのバケツの中に、フレッシュな血がパッと付いていたことがあって。「ずっと置きっぱなしだったバケツの中に突然なんで血?」と思ったんですけど、結局それは、「誰かがボナに対してグリグリをかけたんだ」と説明されて。

玄関の前に動けなくなった鳥が置かれていた

――「これはグリグリの仕業だ」と、現地の方はわかるんですね。

陽子 そうみたいです。経済的首都のコトヌーに行ったときに泊まったホテルでも、入った途端、まだ腰をかけてもいないベッドにフレッシュな血が付いていたことがありました。

 日本から引っ越してきた後も、家の玄関の前に動けなくなった鳥が置かれていたことがあって。そうしたらボナが、「ああ、これはグリグリかけているな」と言いだして。どういうことかと思ったら、誰かがボナにグリグリをかけたらしいんですけど、ボナはブードゥーの力が強いらしくて、それゆえにグリグリをかけた相手の方が負けてしまって、身代わりになった鳥が動けなくなって終わった、ということだったらしいです。

 なんか本当に不思議なんですけど、グリグリはあるのかな、みたいな感じですね。

――陽子さんやお子さんが「グリグリ」にかかったことは?

陽子 自分は普通に過ごせているので、グリグリにかけられていたかどうかは分からないです。ただ、呪いに使われてしまうから、切った髪の毛をその辺に捨てないようにとか、フルネームは明かさないようにという注意は受けています。

――陽子さんやお子さんのブードゥー教との関わりは?

陽子 強制されるものでもないので、私や子どもはブードゥーには入ってないです。ブードゥーは何かを祭るというよりも、自分たちの体の中にもうあるものみたいな感じで、土着宗教なんですよね。たまにキリスト教とブードゥー教のどちらも入っている人もいますし、ベナンは宗教的には自由な気がします。

 ただ、下の子はブードゥーのセレモニーみたいなのが怖いみたいで、あまり参加したがりませんね。ただ踊ったり太鼓を叩いたりするようなものなんですけども。

8年暮らし「日本は寂しい国だ」と言った夫

――陽子さんは日本で出産をされた後、昨年、ベナンに家族とともに戻ってこられたそうですが、その経緯を教えてください。

陽子 ベナンにいてもボナの稼ぎではお金が足りないとなって、まず日本を拠点に生活して、落ち着いたらベナンに戻ろうという計画で、ボナと一緒に日本に帰ったんです。

 その間に結婚・出産もして、結局8年も日本に住んでしまって、子どもも4歳と2歳になっていたこともあり、ベナンに戻ることにしたんです。

――ボナさんの日本の感想は?

陽子 ずっと言っていたのは、「日本は寂しい国だ」ということです。というのも、前も話しましたけど、ベナン人って基本的に家の外にいるんですね。だから、道を歩いていたら必ず誰かに会うし、子どもも1家族につき5~6人はいるから子どもの数も多くて、平均寿命が短いこともあり、若い世代が多くて活気に溢れているんです。

 だけど、日本はあんなに家も密集してて人もいっぱいいるはずなのに、仕事が終わって帰ったら家の周りで出歩いている人はほとんどいない。「なんで人がこんなにいないんだ。静かすぎる」と驚いていました。

――そう言われてみるとたしかに……。

陽子 あと、ベナン人ってアポなしで急に家に遊びに来るんですね。でも、日本だと前々から予定を組むじゃないですか。それについても、「日本はなんてめんどくさいんだ」とよく言ってました。「なんで前々から決める必要があるんだ」って。

――自分の好きな時に行ったらいいじゃないか、と。

陽子 そうです。「家をきれいにしたり、お客さんを迎える準備もあるやんか」と言っても、「普段の生活を見せるのに何が困るんだ」となってしまう。まさに文化の違いですね。

「あかん」と結婚を反対した父…

――ボナさんとの結婚にあたり、陽子さんのご家族の反応はいかがでしたか。

陽子 最初、父にボナの話をしたら、「あかん。アフリカ人なんか働かんとふらふら生きてるような人間やろ」みたいな感じで、差別発言を連発されて傷つきました。でも、ボナと会って彼の人柄に触れたらすっかり仲良くなって、今では「ボナちゃんボナちゃん」と言って、子どものようにかわいがっています。

 実際、日本にいたときも派遣に登録して仕事をしていましたが、最後の3年はボナ本人の頑張りがあり正社員となって働いていました。

――ベナンはフランス語圏ということですが、ご家庭での言語は?

陽子 日本語、現地語のアジャ語、フランス語が飛び交ってます。ベナンは40くらいの民族が暮らしていて、ボナはフランス語に加えて4つか5つの現地語を喋れるんです。なので、耳がいいのか、読み書きはさっぱりなんですが、日本語はかなり上手にしゃべります。関西弁ですけど(笑)。

 逆に私は、アジャ語は挨拶程度しかできないので、子どもの方が上手ですね。

最初はずっと「日本に帰りたい」と泣いていた長男

――お子さんは、日本とベナンのルーツを持っていることを理解している?

陽子 私と子どもが外に出ると、外国人という意味の「ヨボ」って言葉を必ず周りの人から投げかけられるんですけど、子どもは、「ママ、言われてるよ」という感じで、自分たちじゃなく、あくまで私だけが言われていると思っているみたいです。だから、本人らは「僕たちはベナンの人と同じ」くらいの意識なのかなと。

「パパの方が真っ黒で、ママは白いね」とか、「自分はちょっと黒いけどそんなに真っ黒じゃない」とかってたまに言ったりしますけど、それを気にしている感じでもなく。

――お子さんは、ベナンの暮らしにすぐ馴染みましたか。

陽子 下の子はすぐ慣れたんですけど、当時4歳だった上の子は、最初ずっと「日本に帰りたい」と泣いていました。Switchの電池が切れたらタブレットに切り替えてYouTube。で、タブレットの充電がなくなったらまたSwitch、みたいな生活を1ヶ月以上してたんですけど、使い過ぎたのか、タブレットが壊れたんですよね。

 でも、実際に使えなくなったらそれほど執着もなく、外で遊ぶ時間が増えるうちに現地語も覚えてきて、という感じで、馴染むまで3ヶ月はかかったと思います。

よくも悪くも、たくましいベナンの子どもたち

――ベナンの子育てはどんな感じですか。

陽子 こっちは基本的に子どもは野放しなので、外に行ったら暗くなるまで遊んでいます。地域で子育てするのも当たり前なので、上の子や他の親が見ててくれる。その意味では、のびのびと生活できていいなと思います。

 ただ、親がそうするからか、子ども同士でのケンカも激しいのはちょっとなぁ、というのはありますね。

――親が子どもを叩いたり?

陽子 めっちゃ叩かれてますね。低収入の家庭が多いので、子どもたちは小さいときから親を支えるために家事・育児もこなしますし、仕事も手伝います。教育を受けられない子どもも多いですし、子どもの人権が蔑ろになっている面もあると思います。

 よくも悪くも子どもたちがたくましいこともあって、悪知恵も働きますね。

――悪知恵とはどんなものですか?

陽子 少し前の話なんですけど、子どもたちが家のサッカーボールをよく借りに来てたんです。「うちの子と一緒にやってね」と言って渡してたんですけど、うちの子はまだ5歳と3歳なので、大きい子と一緒に遊ぶと全然ついていけなくて、ボールだけ置いて帰ってきちゃったりして。それで、ボールを置き去りにしたまま1日返ってこないとか、ボロボロに壊したボールを家の前に置きっぱなしにされたりとか、そんなんがありまして。

 謝ってくれたらいいんですけど、それもなく、誰が壊したかも分からんものを返されたまま、また「ボール貸して」と普通に来るから、「いやいやいや」となったり。だけど、ボナが出てきて、「お前らこれ壊したやろ! もう絶対貸さんからな!」と言うとパッタリ来なくなって。

――陽子さんが言っても効かないけど、ボナさんが出てくると行動を変えるんですね。

陽子 家に男性がいないとわかると、「お金くれ」って言って来る子も結構いて。みんなフランス語が通じないのでいろいろ説明してもボーッとして聞いているだけですけど、「お金ちょうだい」のときだけは、メッチャうまくフランス語で言ってくるんです(笑)。そんなんとか、多々あります。

 でも、いろいろあっても、子どもの世界はそれなりに楽しいのかなとも思ってて。上の子も、去年まではずっと「日本がいい」と言っていたけど、最近は、「ベナンの方が毎日友だちと外でいっぱい遊べていい」と話しています。

生命力が魅力のベナンの人々

――改めて、陽子さんが考えるベナンの魅力を教えてください。

陽子 ベナン人は生きる力が強いというか、日本では感じない、「この人たちはどっこい生きてる!」という生命力を感じるんです。

 日本での自分は、ただ日々をこなしていただけだったなと改めて思って。子育てや家事で余裕がなかったというのもあるんですけど、こなしているだけでも生活が成り立ってしまって、生きている実感なんて感じたこともなかったというか。

 でも、こっちだと女性の元気さは大きいし、子どもの目もキラキラしてて。ずる賢いし逃げ足もメッチャ速いですけど、躍動感がすごいなぁと思うんです。

〈 女性が浮気をしたら“呪い”で殺害…西アフリカの最貧国ベナンで国際結婚した日本人女性が明かす、子どもを残し失踪した第一夫人のその後 〉へ続く

(小泉 なつみ)

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