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《若者の聴力低下が大問題》イヤホン難聴になったスマホ世代が晒される「深刻な認知症リスク」

文春オンライン / 2024年7月6日 6時0分

《若者の聴力低下が大問題》イヤホン難聴になったスマホ世代が晒される「深刻な認知症リスク」

若年層の聴力が悪化している(写真はイメージ) ©aflo

日常的に目にするようになった、人々が耳にイヤホンをつけて歩く姿。しかし、ここには難聴、および認知症につながる大きなリスクが含まれているという。慶應義塾大学名誉教授の小川郁氏が解説する。(取材・構成 神保順紀)

◆◆◆

高音部(4000ヘルツ)の聴力低下

 歳を取ったら、耳が遠くなるのは当たり前――。

 難聴といえば、そんな高齢者の悩みというイメージがあると思いますが、いま若者世代の聴力低下も問題になっています。

 近年、若い世代を中心に、街中でイヤホンをしている人が本当に多くなりました。スマートフォンが普及し、2010年代半ばにワイヤレスのイヤホンが登場してからは、特にその傾向が強くなったようです。電車の中でも、みんなイヤホンをして、音楽、ラジオだけでなく、動画やゲームを楽しむために、常に大きな音を聞いている状態です。

 こうした状況が背景にあるのでしょう。現在の40代以下の若年層において、高音部(4000ヘルツ)の聴力が20年前の同世代に比べ徐々に悪くなっていることがわかりました。

 国立病院機構東京医療センターと私が所属する慶應義塾大学医学部の共同研究で、2000年から2020年までに行われた約7万件の聴力検査結果を解析。10代から90代までの1万人以上の聴力変化をデータベース化しました。そこから判明したのが、若者世代の聴力低下だったのです。世界3大医学誌である『ランセット』電子版にも掲載されました。

 以前から世界保健機関(WHO)が、「10億人超の若者が携帯音楽プレイヤーなどの使用で、難聴リスクに晒されている」と報告しているように、イヤホンなどの使い過ぎによる影響が、若い世代から出始めていると考えられます。

 これは、現在の高齢化社会を考えた時、とても大きな問題です。というのも、これは単純に「耳の聞こえ方」の問題だけでは済まないからです。いま難聴は、認知症になる一番のリスクと考えられています。

 10代、20代から最先端のイヤホンで耳に刺激を受けてきた世代が高齢化し、難聴になる確率が高まると、その世代の認知症リスクも比例して高まる……そんな社会的課題が表面化してきているのです。

 今回は、難聴と認知症の関係、加齢やイヤホンによる難聴のメカニズムと対応策について解説していきます。

なぜ難聴だと認知症になるか

 そもそも、「難聴がある人は認知症になるリスクが高い」という事実に関心が集まったのは、2017年に『ランセット』誌に掲載された論文によってでした。

 ランセット国際委員会はエビデンス(科学的根拠)レベルの高い複数の研究結果を統合・分析する「メタ解析」を行いました。その結果、認知症発症の要因のうち、人の介入が可能なものは約40%を占めていました。

 具体的には、社会的孤立、うつ病、非教育、喫煙、高血圧や糖尿病といった生活習慣病など12の要因が挙がる中、一番の危険因子とされたのが「難聴」でした。難聴がある人は、ない人に比べて1.94倍も認知症発症リスクが高かったのです。

 別の研究になりますが、難聴を放置した場合の認知症発症リスクも報告されています。難聴がない人に比べ、軽度難聴でも発症リスクが2倍、中等度難聴で3倍、高度難聴だと5倍もリスクが高まります。また、中年期の難聴を放置しておくと認知機能が7歳ほど年上の人と同レベルになっているという結果も出ています。

 なぜ、難聴が認知症発症の原因になるのか、そのメカニズムはまだ完全に解明されていませんが、いくつかの有力な仮説があります。

 中でも最も説得力があると考えられるのが、難聴を放置しておくと社会的孤立が進んでしまうことです。

 難聴になると、相手の会話が聞き取りにくくなり、内容を理解できなかったことを誤魔化すために、ニコニコしてやり過ごそうとします。難聴が「微笑みの障害」と呼ばれる所以ですが、これが続くことで相手に不信感を持たれたり、避けられるようになって孤立してしまうのです。

 孤立すると、まず人と会う機会が減っていきます。当然会話する機会が減るので、コミュニケーションの総量が減っていく。これが脳の活動自体を減らすことになる。

 我々は会話をする時、相手の言葉を頭の中で理解して、答えを頭の中で作っていく。その際、相手の言葉から様々な感情、「嬉しい」とか「悲しい」といった情動の反応が生まれるわけです。そうしたコミュニケーションがあればあるほど、大脳辺縁系を中心とした認知機能に関わる脳の活動が活発になります。

 ところが耳が聞こえにくくなると、その機会が減ってしまう。高次の脳機能を使う機会が減ることで、認知機能がだんだんと落ちていってしまうのです。

 難聴とは関係なく、そもそも社会的接触が「乏しい人」は、「十分な人」に比べて認知症発症数が約8倍になるという報告もあります。難聴は、その傾向を加速させるリスクがあるのです。

本記事の全文は「文藝春秋 電子版」に掲載されています(「 耳の老化 イヤホン難聴は認知症への道 」)。全文記事では、具体的なメカニズムから、難聴を避けるテクニックまで、詳細に解説されています。

(小川 郁/文藝春秋 2024年7月号)

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