韓国も日本も真実に基づかない運動に騙されてきた――韓国の歴史学者が実証研究で明らかにした「慰安婦問題」の真実
文春オンライン / 2024年6月19日 6時0分
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「日本軍慰安婦問題」は、長年、日韓の間で大きな問題とされてきた。この問題をめぐって、しばしば激しい反日運動が起きたことも記憶に新しい。しかし、韓国の歴史学者、知識人の間で、植民地時代の朝鮮について、実証的な研究を行い、それまでの反日的な歴史観は間違いだったことを論証する人々が現れた。
それが一冊にまとまったのが李栄薫編『反日種族主義』である。そのメンバーの一人である著者の朱益鍾氏は、反日運動の核のひとつであった慰安婦問題を取り上げ、膨大な資料に基づき、「慰安婦問題」の事実を明らかにした。その最終結論ともいえる『 反日種族主義「慰安婦問題」最終結論 』(文藝春秋)より、プロローグを一部抜粋して紹介する。(全2回の1回目/ 2回目 に続く)
「反日集会」の参加者が激減
二〇一九年の光復節【編集部注:8月15日。1945年のその日、日本の統治から脱した、として韓国では祝日に定められている】前日である八月一四日水曜日、ソウル市の温度計は摂氏三五度まで上がっていた。その日の正午、ソウル市鍾路(チョンノ)区にある日本大使館の前で開かれた第一四〇〇回水曜集会【編集部注:慰安婦問題に対する日本政府の公式謝罪及び金銭的・法的賠償を要求して開かれている集会。1992年1月8日から毎週水曜、日本大使館前で行われている】の現場はさらに暑かった。
二万人を超える参加者たち(集会主催側の推計)が四車線の道路を埋め尽くし、「日本政府は、日本軍慰安婦が国家の政策として行われた戦争犯罪であることを認めろ」「日本政府は被害者たちに謝罪しろ」と熱っぽくスローガンを叫んだ。その一カ月余り前から、いわゆる徴用賠償判決をめぐる日韓の衝突が起きていた。大統領民情首席秘書官職から退いたばかりの曺国(チョグク)法務部長官候補は、日本に対抗し竹槍を持てと煽動し、「行きません、買いません」という日本への旅行の忌避や日本商品の不買運動が広がり、商店の棚から日本のビールが姿を消すなどの、まさに反日の暴風が韓国中に吹き荒れていた。
それから三年七カ月経った二〇二三年三月一五日の水曜集会には、二〇人余りの参加者が本来の集会場所から離れた所に集まった。一方、彼らを批判する反日銅像撤廃及び慰安婦法廃止を目指す運動家たちの集会には、それより遥かに多い九〇人余りが集まった。反水曜集会が水曜集会を圧倒したのである。その間、いったい何が起きていたのか。
実証研究がベストセラーに
二〇一九年夏、韓国の幾人かの知識人たちが『反日種族主義』という本を出し反日の暴風に立ち向かった。編著者の李栄薫(イヨンフン)教授は生涯をかけた経済史研究を通し、朝鮮後期の資本主義萌芽論や日本による植民地収奪論などの韓国史学界の虚構の歴史認識を打ち壊した。さらに朝鮮王朝がなぜ衰亡したのか、植民地化とともにどのように近代文明が導入されたのか、独立後の大韓民国の驚くべき発展がなぜ成し遂げられたのか等を徹底して事実に基づき究明した。彼は後に続く学者たちとともに、当代の韓国人たちの間に広がっていた反日種族主義を打破しようとした。
筆者も執筆に加わったその本は、韓国人が植民地時代に対して持っている歴史認識というものは作り出された話、すなわち虚構(フィクション)であることを痛烈な筆致で暴露した。今日多くの韓国人たちは、帝国主義下にあった日本が、旧韓末【編集部注:大韓帝国末期】の混乱期に朝鮮の領土だった竹島(韓国名は独島(トクト))を奪い取り、土地調査事業の過程で朝鮮人を虐殺し、土地を奪い、米を収奪し、朝鮮人数百万人を労働力として強制動員し、かつてアフリカで行われた奴隷狩りさながらに朝鮮の少女たちを銃剣で脅して連行し、日本軍の性奴隷にしたと信じている。この本は、このような韓国人の近現代史認識は根拠のない作り話であり、この嘘の話を鵜呑みにしている韓国人たちが日韓関係、更には米韓関係を破綻させているのが現在の大韓民国の危機の根源であると喝破した。
この本に対し、反日種族主義に染まった学界と言論界に従事する者たちが悪意に満ちたとげとげしい非難を浴びせかけてきたが、一方で本に共感する人々も多かった。この本は学術教養書としては異例の一一万部以上の超ベストセラーとなった。
慰安婦運動内部で次々不正が発覚
二〇二〇年五月には、慰安婦運動を牛耳(ぎゅうじ)ってきた正義記憶連帯(以下「正義連」とする)の前理事長・尹美香(ユンミヒャン)による後援金横領疑惑が暴露された。驚くべきことに暴露したのは、尹美香と手を結び慰安婦運動の顔ともなっていた元慰安婦の李容洙(イヨンス)だった。彼女は、尹美香が元慰安婦たちを利用して集めた国民からの寄付金を私的に流用し、更には私欲にかられて国会議員にまでなったと批判した。このことはすぐにソウル市と政府から支援金を貰っている慰安婦運動組織・正義連と、その前身である韓国挺身隊問題対策協議会(以下「挺対協」とする)の会計不正及び寄付金橫領疑惑へと広がった。
警察による捜査が進んでいた六月、この横領疑惑の内幕を知る麻浦(マポ)区にある慰安婦センター「平和のわが家」の管理所長が謎の自殺を遂げた。文在寅(ムンジェイン)政府の検察はその年の九月、尹美香を業務上横領、詐欺などの疑いで起訴した。しかし、文在寅が任命した金命洙(キムミョンス)大法院長【編集部注:日本でいえば最高裁判所長官】のもとにある地裁は二年半にもわたるモタモタ裁判の末、二〇二三年二月、一七〇〇万ウォンの横領のみを事実として認め、一五〇〇万ウォンの罰金刑を宣告した。尹美香はこの判決で免罪符を得たかのように意気揚々としていたが、九月の二審判決では懲役一年六カ月、執行猶予三年を言い渡された。(略)
慰安婦運動家らが主張し、その間、大多数の韓国人が信じてきた慰安婦の物語は、果たして本当なのかという懐疑が広がり始めた。朝鮮人少女は本当に日本の官憲に強制連行されたのか、彼女たちは本当に慰安所で報酬も貰えず日本軍に集団強姦され、日本の軍人と業者に暴行拷問されたのか、そして本当についには日本軍が敗走する戦場に捨てられ虐殺されたのか、と。
事実と食い違う証言
実のところ、慰安婦運動に関わる韓日の慰安婦問題研究者たちの行ってきた研究自体が、その運動の真実性に疑問を抱かせるものだったのである。一九九〇年一一月の挺対協の結成、一九九一年八月の元慰安婦・金学順(キムハクスン)の最初の証言、一九九二年一月の水曜集会の開始から今に至る三〇年余りの間、慰安婦関係の資料が数多く発掘され、それらを分析した研究が多数出された。そして、その大多数の研究者は、結論として一様に「慰安婦は強制連行された性奴隷だった」と主張してきたが、彼らが資料の分析を通して実際に示した事実はその主張とは食い違っていた。
強制連行、強制動員の客観的証拠はなかった。日本の軍人や官憲に強制連行されたことが客観的資料により明らかにされた慰安婦は一人もいなかった。性奴隷であったことは事実として立証されておらず、「私たちがなぜ性奴隷なのか」と反発する元慰安婦もいた。慰安婦運動家たちができるのは、「被害者がまさか噓をつくわけがない」「被害者の涙が証拠だ」と元慰安婦たちの証言の肩をもつことだけなのである。
〈 日本軍による強制連行、虐待、暴行を語った元慰安婦の証言。しかし、それらの証言をあらためて検証すると――? 〉へ続く
(朱 益鍾/ノンフィクション出版)
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