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「どんな育ちをしたって、100歳になればひとりぼっちですよ」佐藤愛子が“わがままに生きる”理由【草笛光子で映画化】

文春オンライン / 2024年6月25日 6時0分

「どんな育ちをしたって、100歳になればひとりぼっちですよ」佐藤愛子が“わがままに生きる”理由【草笛光子で映画化】

佐藤愛子さん ©︎文藝春秋

 このごろね、もうだいぶぼけてましてね、前のインタビューで何をしゃべったか忘れてしまっているんです。何か評判がよかったというお手紙をいただいたけど、何をしゃべったか本人は忘れてしまってるの。

 佐藤愛子さんのインタビュー「佐藤愛子ぼけていく私。――100歳の作家が至った境地」が週刊文春WOMAN2024春号に掲載された。「半分ぼけかけている」と言いながら、ユーモラスに分析的に己を語る佐藤さんに、幅広い世代から反響があった。そのことを伝えるファックスを送った担当者に編集長も加わり、「日々の暮らしをもっとうかがいたい」と再訪した。お話の一部を 『週刊文春WOMAN2024夏号』 より一部編集の上、紹介する。

「わがままですから。長生きの秘訣と言われても、それがすべてですよ」

 日々の暮らしといっても、もう間もなく棺桶に入る、そういう日々ですから。お話しするっていっても、同じことばっかりでしょう。

 100歳の話を聞くとなったら、「会話は交わしているけれど、この人はどこまでわかっているだろう?」と思いながら聞いているでしょ。答える方もね、ちゃんとした答えになっているかどうかわからず、自分の思うままに当てずっぽうでしゃべっているんです。その当てずっぽうが好評だったとしたら、そんじょそこらにはないものだったということですよね。だけどそれは、ほめられることでもなんでもないですよ。

 好評の一番のポイントは、カラッと明るく“説教成分”がないこと。そう伝えた。「このように生きよ」と“知恵”が多めになりがちな長寿者インタビューと対照的だからだ。

 ああ、なんか教え諭すという感じですか。でもそれは、(長寿者が)こういう形で出る場合、慣れてない方は何かを教えなくてはいけないと思うからじゃないでしょうか。私はそういうことを言う資格がないんですよ。私のようにすると、ろくなことがない。それなら言えるんです。

 わがままですから。長生きの秘訣と言われても、それがすべてですよ。人にどう思われるかなどと考えているとだめですね。だから(前回の記事は)縛られて生きてきてうんざりしている人たちには、爽快で気持ちよく読めた。それだけのことですよね。

 わがままは私の性分ですから。それと育ち方ね。うちは親もわがままで、わがままが悪いものじゃないというふうに育っている。だからこんなのができちゃったわけね。育った家庭が不良の集まりでしたから。

 佐藤さんの父は、作家の佐藤紅緑。母は女優だったシナ。兄は作詞家のサトウハチロー。佐藤さんは佐藤家3代を小説『血脈』に著し、2000年に菊池寛賞を受賞した。

 昔なら、『女大学』がありました。そういうものを守らなきゃいけないという家庭に育った人は、やっぱりちゃんとしたお方ですよ。ただ私はお友達にはなれない(笑)。

 私みたいなのは世間狭く生きなきゃならないですよ。会合とか集まりとか出たことがない。退屈なんです、常識ってやつが。でも今は戦争に負けて時代が変わって、古い戒めが力を失って。女の人は生きよくなりましたね。
 

私の子どもに生まれてきた運命だからしょうがない

 時代が変わったといえば、介護制度もそうだろう。今どきの「会合とか集まり」には、デイサービスやショートステイなどなども。

 うちの者は私に、そういうところに行ってほしいんです。家にいられるとうるさいから。でも、それはもう、全然だめですね。

 わがままが通らないから嫌なのでなく、私なんかがそういうところへ行ったら向こうが迷惑なんです。諦めて(わがままを)我慢してくれるから、気の毒だし迷惑だろうと思うわけです。そういうことを理解する力は持っている。だから家で頑張っているから、うちの者が迷惑している。それはもう、私の子どもに生まれてきた運命だからしょうがない。

孤独と折り合うことはできないから、踏ん張って受け止めている

 佐藤さんは、娘の響子さん夫妻と孫の桃子さんとの二世帯住宅で暮らす。2階に3人が住み、1階が佐藤さん。怖いとか寂しいとかはないですか、と尋ねてみた。

 怖いってことはないです、泥棒の方が怖がりますから(笑)。怖いことはないけど、非常に孤独ですよね。夜より昼間ね、誰ともしゃべらないでしょ。お手伝いさんはいるけれど、あちらはあちらで働いていますしね。2階の娘や孫とはそんなにしゃべることもないし、向こうもそれほど2階から降りてきません。

 100歳の孤独というのは、育ち方には関係ありません。どんな育ちをしたって、100歳になればひとりぼっちですよ。受け入れるしかないですね。だって、「あなた、そんな生活してたら寂しいから、少し協調性を持ってやりなさいよ」と言われても、できないものはしょうがないですから。

 孤独と折り合うということはできません。できないから、踏ん張って受け止めている。耳が聞こえないのを怒ったってしょうがないでしょ。だから聞こえるフリをして生きるという。その程度の苦労は、してるんですよ。

 書く力がある時は、孤独などどうでもよかったんです。ところが書くことができなくなってきたの。書いても、読み返すと気に入らないしね。原稿用紙は机の上で真っ白なまま。仕事ができれば1人は最高のことなんですけど、できないから。そうすると、することがない。だから早く死にたいなと、思います。

『九十歳。何がめでたい』が映画化、主演は草笛光子さん

 17年に年間ベストセラー1位になったエッセイ『九十歳。何がめでたい』が映画になり、6月に全国公開される。佐藤さん役を演じるのは、草笛光子さん。

 あんなものを映画にしたって、面白くもなんともないですよ。草笛さんとは何十年も前に、一度対談しました。その時が初対面でしたが、ここまでしゃべっていいのかなというくらい、別れた芥川也寸志さんの悪口の連発でした(笑)。私より10歳下ですよ。

 今回出ていただくので、また1回だけ会いました。一昨年、帯状疱疹で寝たきりみたいになって、足が弱りましたが、その前でしたので出かけていって一緒に食事をしたんです。足が弱って寂しくなりました。来ていただく以外、ないですから。

 映画の予告動画を見ると、現実の佐藤さん宅にそっくりな光景が映る。庭を眺めるゆったりした椅子も、アンティーク調の電話も……。

 松竹の人がここに来て、いろいろ写真を撮っていましたから。この椅子はできあいのものですから、いくらでも売っているんじゃないですかね。電話は下北沢を散歩してた時に見かけて、面白いから買ったのね。

生まれた時からずっと犬と一緒だった

 予告動画の最後に柴犬が映る。佐藤さんのエッセイの常連、ハナのイメージぴったりだ。そう言うと、「ハナ?」と明るい表情に。予告動画をスマホで見てもらった。

 あら、なかなかいいわ、草笛さん。わざとらしくなくてね。ハナは庭にいて、ずっとこっちを見てました。私は生まれた時からずっと犬と一緒だったので、いない方が珍しいんです。ハナが死んでからはいなくて。

 話していると、最後に柴犬が「わん」。

 あら、かわいい。どこの犬だろう。きっと犬屋さんで借りたんですよね。もらってこようかしら。名犬ね、きっと。

●生年が同じだった司馬遼太郎さんや、中山あい子さん、川上宗薫さん、遠藤周作さんとの思い出、五木寛之さんに呆れられたという北海道の別荘での“臨戦態勢”のエピソード、娘の杉山響子さんと孫の杉山桃子さんが対談する「作家の佐藤愛子と生身の佐藤愛子」など、全文は 『週刊文春WOMAN2024夏号』 でお読みいただけます。

聞き手・文 矢部万紀子 写真・文藝春秋

さとうあいこ/1923年大阪府生まれ。甲南高等女学校卒業。1969年『戦いすんで日が暮れて』で第61回直木賞、2000年、65歳から執筆を始めた佐藤家3代を描く『血脈』の完成により第48回菊池寛賞受賞。2017年旭日小綬章を受章。

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映画『九十歳。何がめでたい』 

 90歳の草笛光子が、エッセイが反響を呼んだ90歳当時の佐藤を演じた。全国公開中

Ⓒ2024映画「九十歳。何がめでたい」製作委員会 Ⓒ佐藤愛子/小学館 配給:松竹

(矢部 万紀子/週刊文春WOMAN 2024夏号)

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