「なぜ警察は事件化しなかったのか?」真冬なのに“上半身は裸”…富士の樹海で見つかった「若いヤンチャ男性の死体」に残された謎
文春オンライン / 2024年6月22日 17時0分
なぜ上半身だけ裸…ヤンチャそうに見える若い男性に何があったのか? 写真はイメージ ©getty
「彼は殺されているように見える。つまり他殺死体だ」――富士の樹海で、真冬なのに上半身は裸で見つかった、若い男性の死体。いったい彼に何があったのか? そしてなぜいまだ事件化していないのか? ライターの村田らむ氏の新刊『 樹海怪談 潜入ライターが体験した青木ヶ原樹海の恐ろしい話 』(彩図社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/ 後編 を読む)
◆◆◆
「死体探しが趣味のKさん」からきたLINE
ある日、ファミリーレストランで食事をしているとKさんからLINEで写真が何枚か送られてきた。食事の手を止めて携帯を見ると、死体の写真だった。慣れっこなので、食事の手を止めずに見る。
Kさんはどんな死体を見つけても平気なのだが、今回は珍しく少し焦っているようだった。
「探し始めてすぐに見つけたんだけど、ちょっと怖いからすぐに現場を離れました」
Kさんは死体を見つけたあとはしばらくその場に滞在して飯を食ったりする人なので、珍しいこともあるものだと思った。
あらためて送られてきた写真を見てみる。その死体は、たしかに一目で分かるほど異様だった。
死んでいるのはまだ若い男だ。
木に首を吊っている。
20代……ひょっとしたら10代かもしれない。
すでに表情を失っているが、黒髪の短髪でヤンチャそうな顔つきをしている。
つまりまだ表情が分かるほど。死体はほとんど腐っていない。
倒れた樹と首をタオルで結び、ブラリとぶら下がっている。足は地面から浮いている。
まず一番に目につく異様な点は、男性の上半身が裸である点だ。
死んだのは真冬なのに裸。そもそも夏場だって樹海に裸で行く人はいないだろうが、真冬に裸になる人はいないだろう。
そして彼のまわりに服はどこにも見当たらなかった。下半身はジーンズをはいているが、靴は片方が脱げて下に落ちており、もう片方は見当たらなかった。首を吊るのに、わざわざ靴を脱いだのか?
身体にはいくつもの赤い痣ができていた。拷問をした痕のようにも見えるし、縄で縛った痕のようにも見える。手は赤黒く変色していたが、これはうっ血したためのようだった。
そして、足が空中に浮いているのもおかしかった。踏み台があるなら分かるが、踏み台はどこにもない。写真を拡大してみてわかったのだが、首を括っているタオルの上には、自転車の荷台を縛るロープが巻かれていた。自分で自分の首をタオルで巻いたとして、その上からさらにロープを巻くのはとても難しいだろう。そもそもタオルが喉にかかっていない。窒息もしていないし、頸動脈も絞まっていないのだ。
長々と書いてきたが、彼は殺されているように見える。
つまり他殺死体だ。
『やらかしてしまった若者を拉致。縛って樹海に連れてきて絞殺。自殺に見せかけるため、樹に無理やり縛りつけ、そのまま放置して帰った』
こう仮説したら、死体の不自然な点は一つもなくなる。
「これ……って殺されてる? しかも結構雑に殺している感じ?」
僕はファミレスで独り言を言った。
Kさんは1人で樹海を散策していて、旧遊歩道沿いで遺体を見つけた。だがその遺体がどう見ても殺されていたので、
「ひょっとしたら殺害した人がすぐ近くにいるかもしれない」と思い現場を離れたのだ。
後ほどKさんから再びLINEが来る。
「落ち着いて写真を見てみたら、死にたてというわけではなかったようです。過去に出会った死体と比較してみると、おそらく死後1か月くらい経っていると思います。夏場だったら2か月で骨になってしまうところですが、冬場だと遺体はあまり変化しません。地面から足が浮いていたのも昆虫に食べられなかった一因かもしれません」と淡々と解説してくれた。
深まる謎
数週間後、Kさんと樹海に入った。
その遺体があった場所は、富岳風穴と精進湖の中間点だった。観光ルートではないし、自殺する場所としてもあまり選ばれないエリア。つまり今回の死体は、樹海の中ではマイナーなルートで発見されたのだ。
ほっておいたら見つからない場所ではあるが、ただ今回の死体は道のすぐ近くにあった。
「旧登山道か旧生活道路ですね。目立つ道路じゃないけど、辿って歩く人がいたら嫌でも見つけてしまいますね。僕が見つけた直後にどかっと雪が降って、遊歩道に入りづらい状態になっていました。それにもし警察が見つけていたら、さすがに他殺として処理されていると思うんですよね。そうしたら多分、報道されるはず。まだ報道されていないということは見つかっていない可能性が高いです」
Kさんと僕は、まだ少し雪が残る道を歩いて死体があった場所に進んだ。
「この先です、あ……残念、なくなってますね。あそこにあったんですけどね……」
Kさんは指をさす。死体があったという場所は本当に旧道からすぐの場所にあった。少し高台にある。もし歩いてきたら、絶対に目に入るだろう
おそらく誰かが見つけて通報したのだろう。
Kさんはとても残念そうな顔をしている。
「まあ分かりやすい場所でしたからね。そのうち誰かに見つかるとは思ってました。生きた状態で連れてきたのか、死んだ状態で連れてきたのかは分からないですけど、どのみち樹海の奥の方までは連れていけなかったんでしょうね」
樹海は1人でも歩くのが大変な場所だ。
嫌がる人を連れて歩くのも、死体を背負って歩くのもしんどい。だから道沿いに歩いてきて、森に入ったすぐの場所で吊るした……。
だから雪がなくなって、死体は発見され、警察に通報された。
ただ、そうなると一つ疑問が残る。
警察があの死体を見つけたとして、なぜ事件化していないのだろうか?
〈 「犯人は現在も日本のどこかで、普通に暮らしている」富士の樹海で見つかった若い男性の死体…専門家に聞いてわかった「自殺ではなく“他殺の理由”」 〉へ続く
(村田 らむ/Webオリジナル(外部転載))
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