33歳で排卵障害が発覚、医者から「子どもは欲しいですか?」と言われ…“子どもを産まない人生”を選んだ私が、診断後に抱えた“葛藤”
文春オンライン / 2024年6月21日 11時0分
![33歳で排卵障害が発覚、医者から「子どもは欲しいですか?」と言われ…“子どもを産まない人生”を選んだ私が、診断後に抱えた“葛藤”](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/bunshun/bunshun_71533_0-small.jpg)
写真はイメージです ©maruco/イメージマート
〈 「あの子、彼氏とやったらしい」女子高では性経験が“ステータス”だったが…“産まない選択”をした私が、大学で性行為に恐怖を感じたワケ 〉から続く
自分の意志で「産まない人生」を生きている、フリーライターの若林理央さん。しかし、周囲からは「なんで産まないの?」「産んだらかわいいって思えるよ」「産んで一人前」などと言われ、傷つくこともあるという。なぜ彼女は、子どもを産まない選択をしたのか。周囲の反応に対して、どのような葛藤を抱えているのか。
ここでは、若林さんの著書 『母にはなれないかもしれない 産まない女のシスターフッド』 (旬報社)より一部を抜粋。33歳で病気が発覚した彼女に生まれた“迷い”とは――。(全2回の2回目/ 1回目 から続く)
◆◆◆
「産む」「産まない」で初めて迷った出来事
二度目の結婚をする直前の、33歳の時だった。「産む」「産まない」に関わることで、私に初めて迷いが生まれた。
「産むために努力する」か「産まない人生をこのまま歩む」を突きつけられ、今までの人生で一度だけ、「産む人生」を歩もうかと考える出来事が起きたのだ。
きっかけはニュージーランド旅行中に腎盂腎炎(じんうじんえん)という腎臓の病気で緊急入院をしたことだった。
容態が落ち着いて退院の許可を得た私は、日本に帰国したあとも1か月ほど入院施設のある病院に通い続けていた。腎盂腎炎は泌尿器科で治療する病気で、泌尿器科外来の隣には婦人科外来があった。
腎盂腎炎が全快に近づいた頃、内科に通されてCT検査を受けた私は、「卵巣に腫瘍のようなものがある」と言われて真っ青になった。
腫瘍って何だろうか。がんだったらどうしよう。
内科医は深刻な様子ではなかったが、病院に通っているうちに不安な要素はすべて消してしまいたい。
婦人科で受けたPCOSという診断
泌尿器科での最後の診察があった日、私は婦人科に行った。その病院の婦人科外来は週に2日だけ開いていて、外部からきた男性と女性の医師が1日ずつ担当していた。
問診票の項目に「最終月経はいつでしたか」という項目があった。
私は初潮を迎えた13歳からずっと生理不順である。海外旅行中に緊急入院をして、なかなか帰国できなかった大変さに気をとられ、しばらく生理がきていないことをうっかり忘れていた。「3か月ほど前」と問診票に書き込む。生理不順はいつものことなのに、これも「腫瘍のようなもの」に関係があるのだろうか。
男性の婦人科医による内診で、腫瘍はないと言われる。
つまりがんではない。ほっとした私に、婦人科医はモニターで写真を見せた。片方の卵巣だと示された写真を見ると、黒くて丸いものが身を寄せ合うようにして映っていた。
「これは小嚢胞というものです。PCOS……多嚢胞卵巣症候群(たのうほうらんそうしょうこうぐん)という病気ですが、その可能性がありますね。生理もしばらくきていないようですし血液検査をしましょう」
PCOS……はっとした。20代半ばで、婦人科医に「今のところはまだ大丈夫」と言われた病気ではないか。
エコー写真を見ると小嚢胞があの時より増えているような気もする。私の場合、もともと子どもをほしいと考えたことがなかったので、その後の経過については無関心だった。
PCOSが命に関わる病気ではないと説明を受け血液検査をして、一週間後にまた婦人科に行くことになった。
女性の婦人科医に「子どもがほしいですか?」と聞かれて
血液検査の結果が出るまでは楽観的だった。翌週、「もう腎盂腎炎も完治したし腫瘍はないみたいだし」と婦人科に行くのを面倒くさいとまで思っていた。
検査した日とは曜日が異なっていたので、女性の婦人科医が私の診断結果を告げた。
「排卵障害ですね」
PCOSのことだろうか。
でもこれ以上特に聞く必要もないと感じた。この時点でも、まだ出産に関することについて無関心だったのだ。
医師が私に質問をした。
「子どもがほしいですか?」
即答する。
「ほしくないです」
はっきりと言い切ったので、彼女は少し驚いたようだったが、すぐに私の目を見た。
「それならこのまま様子を見ましょう。3か月生理がきていないので排卵を誘発するために薬を出します。副作用が出る体質なら注射を打ちます。子どもを望んでいなくても、生理がこないと将来的に骨が弱くなるなどのリスクがありますから。生理がきてもこなくてもまた受診してください」
ただ、と医師が付け加える。
「子どもがほしい場合は、ここではない、不妊治療専門の外来にすぐに行ってください」
そう言ったのが女性ではなく男性の医師であったなら、私はその言葉も受け流していたかもしれない。
目で見える部分も見えない部分も、子どもを産めるように作られている、同じ身体性を持つ女性の医師にそのように言われたからこそ、私の心は突然大きく揺さぶられた。
「今後の人生で考え方が変わって子どもがほしいと思っても、私は産めないかもしれない。産むためには今から不妊治療を始めないといけない。子どもを産むかどうか選ぶ期間は短くて、産むと決めても産めない可能性もあるということですか?」
婦人科医は「そんな感じですね」と言葉を濁した。どうやら彼女は、私がまだ30代前半であることを心配しているようだった。
しばらくしたら生理がくるという注射を打ち、診察室を出る。大丈夫、大丈夫。
自分に言い聞かせる。
私は子どもを産みたくないと思って生きてきたから、大丈夫。
「産んだほうが良いのではないか」という迷い
それなのに私は矛盾した行動をとった。帰りのバスでケータイを取り出し、自宅付近にある不妊外来を調べ始めたのだ。
何せ東京23区内である。数が多すぎる。
不妊治療で子どもを授かった友人にメールをして、どの不妊外来に通っていたのか聞いてみた。友人は快く教えてくれて「治療をするなら、どこまでお金をかけるか、何歳まで続けるか先に決めたほうがいいよ」とアドバイスもくれた。
彼女からのメールの返信とインターネットの検索履歴を見て、私は自覚せざるをえなかった。
迷っている。産みたいと願っても産めないかもしれないと言われた私は、産んだほうが良いのではないかと迷っている。
心の奥にしまいこんでいた、子どものいない人生で将来的に後悔しないのだろうかという問いが無理やり引き出されるようだった。
夫(当時は彼氏)は私の意志を尊重してくれて、排卵障害のことを告げられてからも、いつもどおりの日常生活を過ごせたのはありがたかった。
「産んでみたらかわいいよ」という呪いの言葉
再び婦人科に行った。前と同じ女性の医師の診察日をあえて選んだ。同じ身体性の人に、この迷いを聞いてもらいたかったのだろう。
「最近、子どもがほしいのかもと思うことがあるんです」
私がそう言った瞬間、医師の表情が明るくなったのを今も忘れられないでいる。それは不妊外来について質問した時、詳しく教えてくれた友だちのやさしさに近いものがあった。
私は思った。
「産む」「産まない」「産みたい」に限らず、未来の自分がどうありたいかは、わからないものだ。たとえば結婚するかしないかも、自分の未来に結びつくものだが、それが自分を幸せにするものなのかどうかを把握するのはむずかしい。未婚の友人も「結婚したいのかしたくないのか自分ではまだわからないんだけど、婚活をしていると言ったら両親が安心する」と話していた。
不妊治療と婚活を並べて語るつもりはないが、私は「もし不妊治療を始めたら、私が相談をした友人や婦人科医のように、たくさんの人が子どもを授かるためにがんばる私を見て喜んでくれるだろう」と考え始めた。
「私は子どもを望んでいる」
ひとこと言えば、みんなが笑顔になる。
また、今まで「子どもを産みたくない」と言った時に投げかけられた「産んでみたらかわいいよ」といった呪いの言葉のことも思い出した。
婦人科医や私の相談にのってくれた友人には感謝している。私が子どもを産むことについて考える機会をくれたから。
だけど呪いの言葉を放った人たちは、「女性にとって幸せな人生」=「子どもを産んで育てること」とひとくくりにしていたのではないだろうか。彼ら、そして彼女たちは自分が価値観の押しつけをしていることにも気づいていない。「私は理央に親切なアドバイスをしている」と誤解している人もいただろう。
「変わってる」私は「普通」が良かった
理不尽ではあるが、私が「子どもを望んでいる」と言いさえすれば呪いの言葉は消えてなくなる。
それに、ずっと望んでいた「普通」の人生を送りたい、つまりマジョリティに分類されたいという夢も、子どもを産めば叶うかもしれない。
親の離婚、小学生時代の場面緘黙、そのせいでいじめに遭ったこと、中学生時代の不登校、高校時代の友だちグループでの閉塞感、ADHDに起因する仕事の向き不向き、元夫と年ほどで離婚したこと。それから、それから……。
「変わってる」のは悪いことではない。ただ私は「普通」が良かった。多数決なら多数のうちに入れるような、そんな人生や学校生活を望んでいた。
私はものごころがついた時から、いつ、どこにいても寂しかった。その寂しさは、そういった自分の「変わってる」部分を認識することで深まったのかもしれないし、関係がないのかもしれない。生まれ持った先天的な寂しさだという可能性もある。精神科医やカウンセラーに相談してもわからないままだ。
寂しさは今もずっと私を苛んでいる。
子どもを産めば、私はもうマイノリティではなくなり、マジョリティとして「普通の人生」を送れるのではないだろうか。産んだ子どもが私を癒して、成長したら老いた私を守ってくれるのではないだろうか。子どもがいる夫婦というカテゴリーにおさまることができたら、寂しさも消失する可能性がある。
(若林 理央/Webオリジナル(外部転載))
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