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「大丈夫、外に出すから」無責任な男性の“身軽さ”が生む女性の“不自由さ”

文春オンライン / 2024年6月20日 17時0分

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 既婚者であることを隠してマッチングアプリで女性と出会う、避妊をしない、妊娠させた相手から逃げる……。

「逃げるA」はそんな無責任な男・安藤と、彼と関わる女性たちを描いた群像劇である。読んでいて思わず「これほど身勝手な男性がいるだろうか」と憤りを覚えたが、すぐに彼が「どこにでもいる存在」であることに気が付いた。

 フィクションとは思えないほど、あまりにもリアルで身近な社会問題に切り込んだ本作は、多くの人にとって当事者性を帯びている漫画ではないか。

▼▼▼

 安藤の描かれ方は、日本社会のメタファーのように思える。女性の社会進出や「新しい価値観」を口にし、理解があるように振舞うが、根底にあるのは女性蔑視的・家父長制主義であり、女をまるで所有物のように扱ったり都合よく消費したりする。

 作品内でたびたび触れられる「性教育の不足」もまた、日本が抱えている社会問題への重要な指摘である。日本の性教育が「妊娠の過程を取り扱わない」とする学習指導要領に則したものであり続ける以上、避妊や中絶について授業で詳しく教えることはできず、望まない妊娠を減らすことはできないだろう。

「俺、コンドームダメなんだよね」

 安藤は一見して紳士的で穏やかで、女性にとって魅力的に映る存在である。しかし性行為の際には「俺、コンドームダメなんだよね」「大丈夫、外に出すから」と、妊娠や性病のリスクに晒される女性のことなど考えず、身勝手な射精をくりかえす。

 安藤のこの「女にしか見せない一面」からもわかる通り、彼にとっては女性の人権よりも、己の快楽の方が圧倒的に優先順位が高いのだ。セックスは必ずしも射精しなくてはならないものではない。女性の体に配慮するのであれば、コンドームをしなくて良い理由など何ひとつないはずなのだから。

 この作品は責任逃れをする「男性の身軽さ」と、それに対照的な「女性の不自由さ」を繊細に描いていると思う。無責任な射精のあと、逃げた男性の人生は何も変わらないが、逃げられた女性と生まれてくる子どもの人生は大きく変わる。恐ろしいのは、逃げた男性にはお咎めが一切ないことだ。女性や子どもが困窮した生活を送っていても、彼らは誰からも罰せられることはない。なんて理不尽な世界だ、と思う。

「安藤」は至るところに無数に存在する。だからこそ、私たちはこの漫画を読んで「リアルだ」と感じ、彼に怒りを覚えるのである。それは私たちが抱えているこの理不尽な社会への怒りそのものであり、人々の感情に強く訴えかける本作は、もはやこの上ない「問題提起作」とも言える。

(吉川 ばんび/文春コミック)

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