瀬戸内の“ナゾの人口5人の島”「小佐木島」には何がある?〈新幹線駅から約30分、船は1日3~4本…〉
文春オンライン / 2024年6月24日 6時0分
![瀬戸内の“ナゾの人口5人の島”「小佐木島」には何がある?〈新幹線駅から約30分、船は1日3~4本…〉](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/bunshun/bunshun_71538_0-small.jpg)
瀬戸内の“ナゾの人口5人の島”「小佐木島」には何がある?©鼠入昌史
〈 トンネルだらけの山陽新幹線「のぞみ」“ナゾの通過駅”「三原」には何がある? 〉から続く
瀬戸内海には、たくさんの島がある。世界遺産の神社があったりウサギが暮らしていたり、大石先生と十二人の子どもたちがいたり。大小あわせて約700もの島があるというから、島の個性もさまざまだ。もちろん、無人島だってたくさんある。
そして、無人島とまでは行かなくても、住んでいる人が減ってしまって無人島寸前、観光地としてもさしたる知名度を持たず……というような名もなき小さな島もまた、たくさんあるに違いない。
そんな島のひとつが、三原という広島県東部の町の沖合に浮かんでいるという。その名も「小佐木島」。聞けば、小佐木島の人口はいまのところたったの5人。そのうち4人が90代以上だというから、文字通りの限界集落といっていい。いったいこの島は、どんな島なのだろうか。
“ナゾの瀬戸内の島”「小佐木島」には何がある?
小佐木島に……というか、小佐木島に限らず島に向かう手段はだいたいにおいて船である。
同じような限界集落でも、本州の山の中ならば道路さえ通っていればなんとでもなる。が、島の場合は本土から直接橋が架かっていない限りは、定期航路が生命線になる。だから、たった5人しか住んでいない小佐木島にも毎日船がやってくる。
小佐木島に向かう船は、新幹線の三原駅からほど近い三原港から出ている。船に乗ったらものの15分ほどで小佐木島に着く。
こう書くと、ずいぶんと便利じゃないかと思うかもしれない。確かに、三原港と三原駅は歩いても5分ほどだから、小佐木島から新幹線まで30分もかからない、ということになる。それだけ取りあげれば、とてつもなく便利だ。これほど便利な島は、瀬戸内海700の島々の中でも小佐木島くらいではないかと思う。
意外と“近い”?「しかし、問題は船の便数だ」
しかし、問題は船の便数だ。これがまた、山間部を走るローカル線並みに少ない。
三原発が1日に4便、逆に小佐木島から帰ってくる便が1日に3便。それも三原~小佐木島間だけの便ではなく、近年観光地として知られるようになった瀬戸田までの航路の途中に立ち寄るだけだ。もしも夕方の最終便を逃したら、次の日の朝まで小佐木島に取り残されてしまう……などと考えると、離島の旅も空恐ろしくなってくる。
ともあれ、気を取り直して船に乗り、ほんとうに15分しないうちに小佐木島の小さな波止場に着いた。その波止場、ちょっとした待合の小屋があるだけで、他にはまったくといっていいほど何もない。
「1周徒歩30分もない島」にはスーパーもコンビニも自動販売機もなく…
波止場のすぐ先には民家が集まっている小集落がある。この集落の中を歩いても、ものの5分でひとまわり。さらに、島の外周をぐるりと取り囲む道を歩いたところで、これまた30分もあれば波止場まで戻ってきてしまう。
つまり、小佐木島はとても小さくて、そしてまったく何もない。面積を調べてみたら0.5平方キロメートルほどに過ぎない。スーパーもなければコンビニもないし、自動販売機すらない。
あるものといったら、外周道路のど真ん中にこんもりと蓄えられた野生動物の糞くらい。そりゃあもう、これほどの島なのだから、野生動物だっているだろう。糞の主はタヌキかイノシシか。さすがに瀬戸内海にクマはいないだろうから、その点はちょっぴり安心である。
こんな何もない小佐木島。けれど、小集落の中にはちゃんと整備された畑があるし、携帯電話の電波も届く。住んでいる人がいるのだから当たり前だが、インフラはきちんと整っている。
とてつもなく不便そうに思えても、船に乗ったら三原の市街地にすぐに着くのだから、渋滞&満員電車まみれの大都市近郊と比べても実はけっこう便利な場所なのかもしれない。
歩いているとやたらキレイな建物が。これは…
そんな島の中で、違和感を感じるくらいキレイにリノベーションされた建物がいくつか建っている。そのひとつが、「宿NAVELの学校」という宿泊施設だ。
北海道に拠点を置く建築家・鈴木敏司さんが古民家をリノベーション、2018年から宿泊施設として運営しているのだとか。鈴木さん、どうして小佐木島でこんなことをしているのだろうか。
「実は子どもの頃に三原に住んでいまして、海水浴で小佐木島によく行っていたんです。本土側の海はどうしても汚くて、海水浴となったら小佐木島。歳をとって、これからは世のため人のためになることをしたいなと思っていたときに、その思い出がよみがえってきた。
訪れてみると、これがまあ良かったんです。島の人が温かくて、すぐに心を開いてくれて、『こっちに来いよ』って言ってくれた。それで、本当に来ちゃったんです。たくさん声をかけても、本当に来たのは私くらいだったみたいですけど(笑)」(鈴木さん)
そうして古民家をリノベして、「宿NAVELの学校」の運営をはじめた。ちなみに、この島に就航しているのは人が乗るだけの高速船で、リノベのための資材を運ぶことはできない。
そのため、鈴木さんは6回も船をチャーターしたのだとか。集落の真ん中に「宿NAVELの学校」、さらに少し離れたところにはサウナも設けた。かつてみかん畑だった場所に生い茂る竹を燃料にした、低温のサウナだ。
「子どもでも入ってもらえると思うんですよね。目の前には瀬戸内海が広がっていて、ほんとうに最高ですよ。サウナを出たらそのまま海にザブン……とは、私の立場では言えませんが(笑)。ここで何もしない時間を過ごす。その価値は、計り知れないものがあると思いますよ」(鈴木さん)
そして、この「宿NAVELの学校」を核とした交流の取り組みもはじまっている。たとえば、5月のとある週末。広島市内の新築マンションの購入予定ファミリーが島を訪れ、鈴木さんのガイドで散策したり、竹の伐採をしたり。そしてサウナや食事も楽しんだ。ごく小さな規模のイベントながら、島の人々との交流もできたようだ。
「ローカルの課題は、突き詰めればどこも一緒」避けられない人口減少の中でカギは…
こうした取り組みの仕掛け人のひとりが、JR西日本の内藤真也さん。「地域共創ゼネラリスト」の肩書きを持ち、瀬戸田の活性化にも一役買うなど、JR西日本の鉄道沿線以外にも範囲を広げて地域に入り込んだ活性化に力を注いでいる。
「ローカルの課題というのは、突き詰めればどこも一緒なんです。人が減って、賑わいが減って、どうにもならなくなってしまう。ただ、小佐木島もそうですが、人口を増やすことは現実的ではないところも多い。だから、住民を増やすというよりは、関係人口を増やしていくことができれば」(内藤さん)
実際、JR西日本は三原市・竹原市・尾道市と関係人口増加に向けた協定を締結している。人口の減少が避けられない中で、少しでも地域の賑わいを維持し、活気をもたらすためには、他の地域との間での人の動きが欠かせない。「住もうとは思わなくても、少しでも興味関心を持ってくれる人が増えれば意味がある」(内藤さん)という。
そこで、マンションデベロッパーであるグループ会社のJR西日本プロパティーズや三原市、また三原市の観光事業を担う株式会社空・道・港などとともに、小佐木島での交流イベントを実施したのだ。昨年には広島県北部の山間地、庄原市内でも同様のイベントを企画し、成功を収めている。コンセプトは、「第2のふるさとづくり」。
「都市部に住んでいると、どうしても有名な観光地に行くばかりになってしまうんですよね。でも、日本のほとんどはそうじゃないところ。だからこそ、何のことはない民家の宿に泊まって地元の農家さんのお手伝いをするとか、そういう体験には価値がある。子どもたちにとっても良い学びになると思います。
そして、地元の人たちと交流を深めてもらう。最終的には、ぼくらが仲立ちしないで直接連絡を取り合って遊びに行ける関係になってくれたら、理想だなと思っています」(内藤さん)
人口5人の島の「100人以上暮らしていた時代」
もちろん、こうした取り組みは、受け入れ側も歓迎している。わずか5人しか住民のいない小佐木島。そんなところに、“第2のふるさと”を求めてやってくる人がいる。それだけでも、島の人々にとってはうれしいできごとに違いない。そして、小佐木島のある三原市も積極的な姿勢だ。
「この島の場合は、まず鈴木さんが宿NAVELの学校を運営してくれていることが大きい。何もなければ、受け皿がないので交流イベントもできないですから。
それに、もともとこの島には100人以上が暮らしていて、造船やみかんの栽培で活気が溢れていた時代があった。そうして刻んできた歴史や文化をこのままなくすのではなく、受け継いで育てていくことは地域全体のためにも大切なことだと考えています」(三原市経営企画部・清水逸司さん)
かつて、小佐木島の小高い山にはみかん畑が広がり、海沿いにはたくさんの人が働く大きな造船所があったという。主に木造船を作る造船所で、他にも小さな漁船の造船所もいくつか営まれていた。
戦前には100人以上、昭和40年代にも70人ほどが暮らしていた。その頃の痕跡は、いまでも島のあちこちで見ることができる。鈴木さんが子どもの頃に遊んだ海水浴場は、いまもまったく人の手が入らない“天然の海水浴場”のまま残されている。
「そうした島に来て、良いなと思ってまた来てくれて。そういう人がひとりでもふたりでも増えていく。そうして関係人口が増えていく。人の動きが生まれれば、きっとそこで新しい何かが生まれることもある。
人口の減少は避けられない中で、こういう地道な取り組みがローカルを守っていくことになる。すぐには答えはでなくても、5年後、10年後には必ず変わってくると信じています」(内藤さん)
“海の向こう”との関係で浮かび上がる「瀬戸内の島」
小佐木島の波止場に立って、海を見る。向こう側には小佐木島の数倍はある佐木島が浮かぶ。小佐木島の子どもたちは、船で佐木島の小学校に通っていたという。そして、中学・高校と進学すると本土の学校へ。毎日船で通うのが大変だとなれば、少しずつ島から去ってしまい、住民が減っていった。
観光客が大挙してやってくるような島ではない。何があるのか、と問われれば、何もない。でも、そこに価値がある。こうした島が紡いできた歴史と文化を守り、つないでゆく。すぐに結果は出なくても、地道な一歩を刻んでいくことが大切なのだろう。少なくとも、小佐木島にはそれだけの魅力がある。遠く、都会に暮らす人たちが「瀬戸内の島」と言われてイメージするままの小さな島である。
(鼠入 昌史)
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