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「みんなカルティエの200万円ぐらいの時計してるのよ、って」漫画家・桜沢エリカが語る90年代と、“大きな影響を受けた人物”

文春オンライン / 2024年6月28日 11時0分

「みんなカルティエの200万円ぐらいの時計してるのよ、って」漫画家・桜沢エリカが語る90年代と、“大きな影響を受けた人物”

桜沢エリカさん ©嘉茂雅之(Iris)

 冷戦が終結するが、イラクはクウェートに侵攻。景気に陰りが見え始めた1990年。その年末に中尊寺ゆつこが「オヤジギャル」で流行語大賞を受賞し、岡崎京子の『東京ガールズブラボー』連載がスタート。翌年には桜沢エリカの出世作となった『メイキン・ハッピィ』の連載が始まった。

 先の3人に、エロを耽美で包み込んだ作風の原律子が加わり、デニムを穿いた4人がマガジンハウスの広告を飾ったのを覚えている読者もいるに違いない。

 バブル期を経て、公にされてこなかった女性の本音を軽やかに描いた彼女たちにスポットがあたった90年代とはどういう時代だったのか? 当事者である桜沢エリカさんのインタビューを、 『週刊文春WOMAN 2024夏号』 より一部を抜粋し掲載します。

◆ ◆ ◆

新進気鋭の漫画家4人が並ぶ、マガジンハウスの広告

――90年代の女性漫画家というと、マガジンハウスの広告に出ていた4方(桜沢エリカ、岡崎京子、中尊寺ゆつこ、原律子)が印象的です。お日様の下で本音や性を語り始めた新しい時代の女性たち、というイメージがあって。

桜沢 あの広告は、4人ともマガジンハウスから単行本が出るのでまとめて売ろう、ということだったんじゃないかなと思います。私は男性週刊誌の『平凡パンチ』で連載させてもらっていましたし、「女性が本音で語る」という趣旨の男性誌の取材もたくさん受けていたので、そのイメージが大きいんじゃないでしょうか。

――そもそも、デビューが男性誌でしたよね。

桜沢 はい。アリス出版などが出していた、いわゆる自販機本といわれたエロ雑誌でした。

 高校生の時にアリス出版の編集部に遊びに行ったことをきっかけに、「なんかカット描ける?」と訊かれて女子高生のイラストや告白手記などを描いていたのがはじまりです。当時は自販機本を出していた出版社同士、横のつながりがあって、その縁で『土曜漫画』を出していた土曜出版社などからお声がけいただいて。

――そこから広がっていったんですね。当時の自販機本やエロ漫画誌から、いろんな才能が花開きました。岡崎さんのデビュー誌『漫画ブリッコ』も、全面リニューアルする前はエロ劇画誌だったとか。

桜沢 そうですね。京子ちゃんの絵は以前から見ていて、「すごい子がいるな」と思っていたから、土曜出版社で紹介してもらった時は嬉しかったです。

なぜ本音を描く女性漫画家が次々に登場したのか

――お二人の出会いは、18歳、19歳の頃ですよね。その後、原さんや中尊寺さんとの出会いがあって。同時期にメディアで本音や性を表現する女性が出てきた背景には何があったんでしょう?

桜沢 その頃の少女漫画誌は、好きな人と両思いになるのがゴールで、その先を描く方があまりいなかったんです。その上のレディース誌になると嫁姑みたいな話が多くて。

 そうじゃなくて、両思いになった人とその先どうやって展開していくかに興味があったし、それが描きたかった。読者からも需要があって、ヤング・レディース誌が各社から立ち上がって……という流れがあって。それで、ちょうど同じ時期に、本音漫画を描く同年代の女の子たちがぱらり、と出たんでしょうね。

――91年というと、宮沢りえさんのヘアヌード写真集『Santa Fe』のインパクトは大きかったです。女性が性に主体的になってもいいんだ、という雰囲気ができたというか。

桜沢 『Santa Fe』は私も買いました。あの当時、脱ぐというと斜陽な感じだったし、一番売れている時に脱ぐ女の子はいなかったから。

「東京出身」という共通点

――今はネットで瞬時に情報が行き渡るので、情報が均質化されていますが、90年代の東京は地方より文化が進んでいた印象です。自販機本の編集部にふらっと遊びに行けるのは東京ですし、19、20歳ぐらいで大人の社会に飛び込んでいけるマインドも東京な気がします。

桜沢 それはあるかもしれませんね。私も京子ちゃんも原さんも東京出身。中尊寺は神奈川だけど。

――桜沢さんの漫画に登場するファッションからも、「東京」を感じていました。

桜沢 漫画にはとにかくその時好きなものを描いていたけど、ヤング・レディース誌なら「これを描けば読者に分かってもらえるな」というのもありました。「主人公がシャネルを持っているマンガを初めて見ました」というお手紙を読者の方からいただいたり。

――作中に、実際にストリートで流行っているスニーカーを履いた女の子が登場するのも、新鮮でした。『シーツの隙間』とか。

桜沢 あの頃は渋カジブームで、そこにスニーカーが組み込まれていたんですよね。それこそエアマックスとか。私も当時はニューバランスの1300とか履いてた。

 他にも、渋谷にいる男の子がみんなフェンディのマフラーを巻いていた時期があって、「これを描いておけば一発で今の高校生に見える」と思うものは描いていたかもしれません。

――当時、渋谷にいる男の子がみんなフェンディのマフラーをしていることを知っていらっしゃるのが、That’s東京って感じです。

桜沢 でも、東京といっても板橋区の出身だし、私が高校生の頃は原宿の竹下通りも途中までしか行けなかったんですよ。

――その先に怖いお店でもあったんですか?

桜沢 そういう訳じゃないんですけど、当時は果てしなく長い気がしていました。今行くと、すごく短い距離ですけどね。

――桜沢さんはその頃からクラブに出入りされているもんだと思っていました。

桜沢 全然です。「ピテカントロプス・エレクトス」は噂しか聞いたことなくて、「ツバキハウス」も最後の方にポツッと行ったぐらい。自販機本の編集部は行けても、ピテカンには行けなかった(笑)。

桜沢作品の影の立役者?

――桜沢さんが描く男の子たちも魅力的でした。モデルは当時ご自身の周りにいた子たちですか?

桜沢 たしかに、タレントの卵やモデルの子がいっぱいいたような気がしますね。

――漫画業界の人達より、そういった業界の人の方がウマが合ったとか?

桜沢 話が合うのは漫画業界ですね。ただ、漫画家さんと会うと、どうしても漫画の話だけになっちゃって、何となくそれが辛くて。最初は『宝島』とか『ガロ』とか漫画周りにいたんですけど、クラブに行くようになってからは、漫画以外の話が出来る京子ちゃんや中尊寺と遊んでたかも。

「みんなカルティエの200万円ぐらいの時計してるのよ」

――そのメンバーで集まった時も、お互いの作品の話はせずですか?

桜沢 「あれ、面白かった」程度は言い合ったかもしれないけど、あまり漫画の話はしなかったですね。ただ、一緒に遊んでいて、その時の会話や情景がお互いの作品に出てくるということはありました。

――桜沢さんが以前、一番好きだとおっしゃっていた岡崎さんの作品「ハワイ・アラスカ」も、恋人同士のたわいもない会話がベースの短いお話です。

桜沢 やっぱりそれが京子ちゃんらしい1本かなって。

――今振り返ると、桜沢さんのキャラクターは設定も新しくて。『メイキン・ハッピィ』は大金を手にしてニューヨークで起業するOLが主人公で、『エスケープ』はAV女優が主人公でした。

桜沢 いろんな職業の女の子を描こうと思っていた気がします。『エスケープ』は、80年代に黒木香さんが出てきて、90年代に飯島愛さんが脚光を浴びたことで、「アリかな」と思ったんだと思う。

『メイキン・ハッピィ』が起業モノだってことは、今言われて初めて気づきました。あの作品を描こうと思ったのは、当時、中尊寺とニューヨークで合流して遊んだのが大きかったかもしれません。

 その頃の中尊寺は、ニューヨークの日本人社交界の華である人物と仲良くなるために、果敢にアタックしていて。「みんなカルティエの200万円ぐらいの時計してるのよ。それくらいのしないとだめなのよ」とか、「迷ったら、ダイヤは大きいのを買いな」とか言って。

――まさに『メイキン・ハッピィ』の世界ですね。

桜沢 一方で、私がバーキンばっかり買ってた時期に、「エリカちゃん、お金はもうちょっと有意義に使った方がいいよ。そのバーキン1個諦めれば、ニューヨークで個展ができるでしょ? そしたらそれがキャリアになるんだよ」って。私は「でも、バーキンが欲しいんだもん」と思ってましたけど。

――お金を持った女の子がどんどん自己投資していく、という世界観も『メイキン・ハッピィ』っぽいです。

桜沢 やっぱり、中尊寺から学んだことは大きいですね。

※90年代の働き方や、当時の社会にあった“根拠なき自信”、岡崎京子さんや中尊寺ゆつこさんなど同世代の漫画家の作業場の風景などについて語った全文は、『 週刊文春WOMAN2024夏号 』でお読みください。

Erica Sakurazawa
1963年生まれ。マリー・ローランサンとココ・シャネル、ともに1883年生まれの才能豊かな二人を中心に、華やかなパリの20年代を描く 『パリ 1921―蠍座の女と獅子座の女』 が家庭画報.comで連載スタート。

(山脇 麻生/週刊文春WOMAN 2024夏号)

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