「ダメだ。セックスはナシ。これで満足しろ」夫に拒絶された女性弁護士が「浮気専用出会い系サイト」に手をだした理由
文春オンライン / 2024年6月24日 11時0分
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写真はイメージ ©getty
〈 「お前は完全に病気だ。異常だ!」夫から「セックス狂」と拒絶された“女性弁護士の哀しみ 〉から続く
「ダメだ。セックスはナシ。これで満足しろ」…長年連れそった夫との関係に満足がいかない女性弁護士のヴェラ。離婚はしたくない、でも自身の欲求を抑える真似はしたくない……。そんな彼女が次にとった行動とは? 夫の不倫で離婚した女性心理学者のアンジェラ・アオラ氏による新刊『 不倫の心理学 』(新潮社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/ 前編 を読む)
◆◆◆
セックスしたがらない夫
ヴェラはダークブラウンのソファでノートパソコンを膝に乗せ、背を丸めている。探していたページを見つける。離婚はしない。それは分かっている。夫のマルクスが自分を求めていないことも知っている。できる限りのことを試した。チャーミングに、ロマンチックに、セクシーに、大胆に、優しく、上品で慎重な誘い文句で夫に近づこうとした。これがダメならあれでその気にさせられるかもしれないと。しかし距離を置かれるばかりだった。
ヴェラは夫婦の在り方に長年の関係性以上のものを求めている。一方で夫は今と少しでも違うものに苛立ち、無理な要求や応えられない期待だと解釈する。努力することに疲れてしまった。歳月は流れ、自分が若返ることはない。夫や夫のニーズ、あるいはニーズの欠如に縛られた生き方でいいのだろうか。自分で生き方をコントロールすべきではないのか?
スキンシップをとるかどうか、セックスをするかどうかは夫が決める。セックスを望まない夫が最終的決定権を持っているということだ。セックスを望まない人が強制されるべきでないのは明らかだ。だからもちろんヴェラはそんなことはしない。だが発想の転換を図ってみる。夫は自分に独身生活を強制している。自分にとって重要で、自信にもつながる肉体的な愛情表現がない人生を強制されている。夫が「ダメだ。セックスはナシ。これで満足しろ」と決めている。
少しでも話し合う姿勢があれば状況は違っただろう。そうすれば2人は共通の問題として一緒に対処することになっただろう。
パートナーに性的欲求がない場合、それは理解されるべきで、手を出してはならないという規範があるようだ。理解ある態度を示すこと。消えてしまった性生活を話すのもタブーに近い。ヴェラが話を持ち出すと「またお前は俺を追い詰める」という反応が返ってくる。セックス以外にも互いに歩み寄る方法はいくらでもある。だが夫は他の形も望んでいない。そもそもセックスとスキンシップとは同じものではない、とヴェラは諦めたように言う。長年満たされず、積もり積もった生理的欲求が彼女の内側でフラストレーションとなっている。カップルの一方は満足して幸せ、もう一方は悲しみのどん底。ヴェラにしてみれば半分死んでいるようなものだ。
それでもセックスができ、ことが終わって夫は上機嫌でこんなことを言ったことがある。
「なぜもっと頻繁にやらないんだろう?」
セックスのルーティーンを決めることになり、少々奇妙なことだがいつも決まった曜日の同じ時間に予定された。水曜日の10時。彼女は心の準備をする。カレンダーにはチェックの印が付けられた。しばらくすると違和感を覚え始めた。「欲しかったものは手に入ったか?」というように夫は時々、「満足か?」と尋ねた。非難ではなく、もっとおだやかに純粋な疑問として訊くのだった。
セックスは夫がヴェラのためにする作業のようになり、その度に「今のままで大丈夫」と答えるもののあまりいい気分ではなかった。夫の精力に関わることかもしれないし、もし問題があるなら話し合う必要があると思った。「あんまりセックスをしたくないみたいだけどお医者さんに相談したことはある?」と細心の注意を払いながら丁寧かつ優しく聞いてみた。𠮟責される可能性があることはわかっていたが、解決策を見つけるためには話し合わなければならない。だが夫はただ怒っただけだった。その後、二度とその話を持ち出さなかった。
今晩の拒絶は、これまでの誹謗中傷と同じように扱うにはあまりにもつらいものだった。彼女の悲しみは夫に立ち向かいたいという願望に変わる。「悪いのは私じゃない。あなたのせいよ。私は愛されない人間じゃない。誰からも求められないほど魅力がないわけじゃないのよ」自分と付き合ってくれる人が現実にいることを、自分に証明したくなる。度重なる暴言と共通の問題に対処しようとしない夫の態度に決心する。夫にその気がなくてもその気がある人は他にいるかもしれない。その瞬間、開き直った。
これからも夫とマイホームや子供、車、休暇を分かち合える。家庭はうまくいっている。仕事も順調だ。すべてを覆す必要はない。現実的に考える必要があるが、セックスとスキンシップが欠けている。それを別のところで解決するつもりになったのだ。どうなるかわからないが、探してみよう。
浮気専用出会い系サイト
ヴェラは震える手でクレジットカード番号を入力する。確認メールを受け取れば浮気専用の出会い系サイトへの入会は完了する。会員のプロフィールをスクロールすると「少年」「匿名希望」「リッチマン」「午後の楽しみ」「老紳士」……といったユーザーがいる。プロフィールは無限にあるが、写真を載せている人はほとんどいない。
離婚したばかりの友人は普通の出会い系アプリでオンラインデートを始めたが、そこは正反対で、大多数が自分の写真を載せている。しかし匿名でいられるのは短期間だと気づいた。写真は互いにリクエストし合うのだ。やり取りの中で相手が自分のパートナーの知り合いではないと充分な確信を得られれば、限られた相手に写真を公開するもののようだった。
ヴェラが個人情報を入力する間もなくメッセージが次々と送られてくる。
〈こんにちは、ここで何をお探しですか?〉
〈パートナーとセックスレスになっている人がいたらと思って登録しています〉
〈家庭に不満はないのですが、同じように家庭に満足していて、セックスを求めている人を探しています〉
〈こんな素敵な夜に何をしているの?〉
〈こんばんは、ヴェラ。君と仲良くなりたい〉
数件、返事をする。何通かメッセージのやり取りをしていると寝る時間になった。家族は寝静まっている。長い一日だったが、これは期待できる。ヴェラは期待で胸が高鳴った。
(アンジェラ・アオラ,安達 七佳/Webオリジナル(外部転載))
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