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「本当に自殺する」「ちょちょちょダメ!」テレビ東京「警察密着24時」が“過剰な演出”に走ってしまった深刻なワケ

文春オンライン / 2024年6月28日 17時0分

「本当に自殺する」「ちょちょちょダメ!」テレビ東京「警察密着24時」が“過剰な演出”に走ってしまった深刻なワケ

テレビ東京「激録・警察密着24時!!」より

〈 「局と警察が一緒に」テレビ東京「警察密着24時」不祥事で終了、BPO審理入り…専門家は「悪質な『やらせ』と考えるべき」 〉から続く

 テレビ東京は、昨年3月28日に放送した「激録・警察密着24時!!」で過剰な演出や不適切な内容があったとして石川一郎社長らの役員報酬の一部返上などを発表。今年5月28日に謝罪番組が放送され、5月30日には石川社長が定例記者会見で謝罪し、今後、警察密着番組を放送しないと発表した。

 さらに6月18日付でこの番組について、BPO(放送倫理・番組向上機構)の審理入りが決まった。番組で取り上げられた会社役員らが、番組の放送時点で逮捕された4人のうち3人が不起訴処分になっているにもかかわらず、その事実に言及せず、さらに過度なナレーションやテロップを付けて放送するなど、4人の名誉を著しく傷つけたなどとして申立てを行ったという。

 テレビ東京の説明に対しては、警察という公権力とテレビという報道機関が共謀した「やらせ」ではないかという強い批判が上がった。テレビ報道を研究する上智大学の水島宏明教授によれば、この番組を悪質な「やらせ」だと考えるべきだという。何が問題だったのか、あらためて検討する。(全2回の2回目/ 前編 から読む)

◆ ◆ ◆

「再現」というより、悪質な「やらせ」

 想像してみてほしい。本人がやった行為をその本人が演じて「再現」というテロップがつけられる。誰が見ても不自然な映像になってしまう。バレないで済むのであればテロップをつけない状態で放送し、リアルな場面として撮影した、という形にした方が番組上は説得力が出てくる。しかし、これは視聴者を欺く行為になってしまう。

 当の警察官に自分が実際にやったことをもう一度やってもらう、というのでは、「再現」というよりもテレビの世界で「やらせ」と呼ばれているものに近くなる。

「やらせ」という言葉は何がそれに相当するのかは非常にあいまいで微妙な概念だ。何も演出していない「ありのままの状態」を見せるのがリアルなドキュメンタリーというイメージがあるが、実際の撮影ではグレーなケースが頻繁に起きる。

 登場人物が歩いて現場にやってくる場面という肝心な映像をカメラマンが撮り逃がしてしまった場合などに、カメラマンが大声を出して「すみません。もう一度、歩いて向こうから登場してください」などと要請してその人が現場に登場する場面をまた撮影するなどというケースは頻繁にある。

 この場合は実際にその人がその建物に入っていった「事実」には変わりないのでテレビ撮影の現場の方便として大目に見られている。

 番組を制作する側が何からの「作為」をした場合、それがすべて「やらせ」=「アウト」ということになるとテレビ番組の制作は相当に息苦しいものになってしまう。

 つまり、結果的に本当に起きたことといえる場合にはギリギリセーフと判断される。他方で制作者側の関与によって行為者が本来はやらなかった行為をさせてしまうケースは「ウソ」になるので、「ねつ造」とされて「アウト」のケースになる。

「実際にはない事実を作り上げてしまう」(事実のねつ造)とか「事実をゆがめてしまう」(事実のわい曲)があれば、「アウト」となって許されないことは明確だ。

逮捕された幹部4人中3人は不起訴に

 では、今回の警察官同士の会話や捜査本部内の打ち合わせの場面についてはどうか。

 結果的に警察官同士でそうした会話が行われた可能性が高く、その再現といえるケースではある。つまりあくまで警察の側から見た「事実」である。警察のような公権力がもし判断を間違えた場合、捜査員同士の会話を放送してしまうと、無実の人に「犯罪者」というレッテルを貼ってしまうなど重大な人権侵害が起きる可能性がある。

 テレビカメラの前で警察官が一つの会社を犯罪集団と考えて内偵し摘発。その会社の幹部4人を逮捕した。だが、結果的にこの会社関係者のうち4人中3人は検察も立件できないと判断して不起訴にしたケースだった。

 今回、報道機関であるテレビ局は警察側の言葉を100%信じるべきではなく警察との関係で「是々非々」の姿勢で臨むべきだったのだ。

 番組では、愛知県警のこうした犯罪のスペシャリストという石川完孝警部が蟹江警察署に乗り込んできて、捜査本部で現場の陣頭指揮を執っている様子が描かれている。

 押収品を取り出して「アウトだ!」などと呟いていたりする。

 圧巻のシーンは捜査本部を指揮する捜査会議の場面だ。石川警部が疑わしい輸入販売会社の幹部たち4人の顔写真を一つずつホワイトボードに貼りつけて説明する。

「まず会社代表が、総責任者という位置づけになります。(代表の下の2人について説明した後で)最後が今回の主犯……。(会社の)代表の旦那。こいつを調べていくと今回の知財の知識を豊富に持っとって、過去にそういった取り扱いもある人物。こいつの指示でデザインして、こいつが中国へ発注をかける。この4名を逮捕する方向で進めます」

 まるで刑事ドラマの1シーン。それを現職の警察官が事後に演じていたということになる。

 このシーンで顔を出しているのは愛知県警本部の生活経済課の石川警部だけ。彼が指示している他の捜査員は顔にボカシがかかっていて誰なのかわからない映像だ。番組では被疑者グループを「4人組」呼び、テロップでは「『鬼滅の刃』偽グッズでボロ儲け!1年に及ぶ“執念の捜査”完全密着!」として石川警部らの「執念の捜査」を警察の側から描いている。

 疑惑の会社に強制捜査に入って押収した大量の書類やパソコンなどを捜査員たちが検証する場面も「再現」されていた。

 繰り返しになるが、結果的に逮捕した4人のうち、3人について検察も不起訴処分にしているので、警察の事実確認が不十分なことは明らかだ。

「警察24時」ものの何が視聴者を惹きつけるのか?

 ところで、こうした「警察24時」ものの何が視聴者を惹きつけるのだろうか。様々な犯罪や被疑者たちを取り締まる警察官などが登場するが、筆者の印象では一番の見どころは「被疑者らの人間くささ」である。強制捜査に踏み込まれたり、逮捕されそうになったりした時に被疑者が抵抗する。暴れる。容疑を否認するなどそれらの行為が人間ドラマとして人間くさいのである。番組では視聴者の期待に応えようとそうした様子の映像を強調して、かなり長い時間をかけて伝える傾向がある。

 問題となった「激録・警察密着24時!!」では、「『鬼滅の刃』偽グッズ」の摘発シーンで朝方、2組の夫婦の自宅に強制捜査に入ると被疑者はトイレに籠城したり、「本当に自殺する」と言ったりして、「ちょちょちょダメ!」と捜査員を慌てさせ、テロップではそのコメントが強調されている。「逆ギレ」や「今度は泣き落とし」といった刺激的なナレーションが多用され、実に“人間くさい”様子が紹介された。人間は追い込まれるとこういう反応をするのか、と人間観察としては興味深い。

 ところがそうした抵抗の様子の撮影が許されるのも、この人たちがあくまで被疑者であり、逮捕された容疑者であり、その後も起訴されている被告人である、という前提でのことだろう。結果的に「不起訴」になった人が相手であれば、こうした場面を放送するのは、まったく無実の人を「犯罪者」として報道する、人権侵害行為ではないか。当人の承諾なしには放送することはできないはずだ。

 つまり番組の一番「面白い場面」が、その後の「不起訴」という出来事で放送ができないものになっていたはずなのだ。それなのにテレビ東京は放送してしまった。

「情報バラエティー」だから許されるわけではない

 テレビ東京の石川社長らの記者会見では、この番組が報道番組ではなく「情報バラエティー」だということを強調している。ただ、警察という公権力について事件事故などの捜査に密着する取材をする以上、権力の暴走を記録してしまう可能性はたえずある。

 今回のテレビ東京のような警察密着番組の取材過程でテレビと警察権力との関係が議論されたのは、2013年にTBSが警察権力の暴走を撮影していたケースがある。鹿児島市内で警察官が男性会社員を取り押さえた末に圧死させてしまった事件で、警察は放送前の映像をTBSから押収していたのにTBSはその事実を公表せず、警察密着番組ではその映像を放送していない。

 2018年になって、死亡した男性の遺族が県を相手に損害賠償を求めた裁判でもその映像を使うことができなかったため、大きな問題になった。テレビが警察側と癒着して一体化した関係で制作されることが多いこうした「警察24時」ものの番組のあり方はどうあるべきなのか。民放連やBPO(放送倫理・番組向上機構)でも基準を示すべきだ。テレビ東京が今回、やめることにしたから解決するというわけではない。他の民放局も含めて、この際、「警察24時」もの全体をどうするか見直すべきだろう。

 本来、報道機関は公権力の行き過ぎをチェックし、捜査権の濫用に目を光らせて市民の人権を守っていくべき立場のはずだ。

報道機関としての経営責任は?

 結果として公権力との関係でテレビが間違えてしまった場合は、経営トップの責任が問われるのも当然だ。

 2008年、日本テレビの「真相報道バンキシャ!」で岐阜県庁の職員による“裏金づくり”が行われているという匿名の建設会社役員の証言を「スクープ」として放送した。ところがこの建設会社役員が2か月後に別の事件で逮捕され、面会した日本テレビの社員に対して一連の証言がすべて虚偽であったことを認めた。日本テレビは岐阜県に対して公式に謝罪し、当時の社長が辞任した。

 今回、テレビ東京の石川一郎社長の役員報酬30%を2か月間返上というのは報道機関のトップとしてあまりに軽い責任の取り方ではないか。

 もちろん事例は違うとはいえ、辞任した日本テレビの当時の社長は読売新聞で長く記者を務めた人物だった。テレビ東京の石川社長も日経新聞で長く記者を務めた人物。ともに公権力と報道機関のあるべき関係を十分に理解し、指導する立場であることに異論はない。

「8時45分、通常逮捕します!」という捜査員の声とともに4人が揃って逮捕されて車で連行される映像で「激録・警察密着24時!!」は終わった。しかし、これは「間違い」の放送だったのである。審理に入ると公表した、BPOの放送人権委員会はどのような判断を下すだろうか。

(水島 宏明)

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