「原作にはありません、と言われましたけど(笑)」 “武神”吉川晃司がアクションシーンに入れた「得意技」<体重15キロ増>
文春オンライン / 2024年7月12日 20時0分
![「原作にはありません、と言われましたけど(笑)」 “武神”吉川晃司がアクションシーンに入れた「得意技」<体重15キロ増>](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/bunshun/bunshun_71640_0-small.jpg)
趙国の総大将・龐煖(吉川晃司) ©原泰久/集英社 ©2024映画「キングダム」製作委員会
中国の春秋戦国時代を舞台に、天下の大将軍を目指す少年の生き様を描く大人気マンガ『キングダム』。シリーズ第4弾となる映画『キングダム 大将軍の帰還』が公開中だ。
前作『キングダム 運命の炎』で、趙国の総大将・龐煖(ほうけん)としてサプライズ出演した吉川晃司さん(58)。今作では秦国随一の大将軍・王騎(おうき、演:大沢たかお)とついに対峙する。因縁の対決をどう演じたのか。(全2回の1回目/ 続き を読む)
◆◆◆
龐煖役オファーに「なるほど、そうだなと頷けました(笑)」
──原作の『キングダム』は累計1億部を超える人気作です。どんな印象をお持ちでしたか?
吉川晃司(以下、吉川) 以前から中国古代史が好きで、とりわけ春秋戦国時代に強い関心を持っていたので、その時代を舞台にしたマンガが日本で高い人気を誇っていることに、大きな喜びを感じていました。
有名な『三国志』には、魏・呉・蜀の史実として3世紀にまとめられた『三国志』と、明(みん)代に一般の人にも読みやすく物語としてまとめられた『三国志演義』の2種類があります。『三国志演義』がまとめているものには、春秋戦国時代のエピソードも多いのですが、国も君主も多くてややこしい。マンガや映画で話題になるのは嬉しいです。
──龐煖役のオファーを受けて、どう感じましたか?
吉川 改めて原作と脚本を読んでみると、龐煖は王騎らほかの将軍たちと違う次元にいるんですよね。良くも悪くも、僕自身が「個」であることを意識してきた人間なので、すごく腑に落ちやすいというか、役に入りやすいと思いました。
うちの事務所に『キングダム』にめちゃくちゃ詳しいスタッフがいるんですけど、正式にオファーをいただく前に「もし出るんだったら龐煖役しかありませんよ」と力説していたんですよ。なるほど、そうだなと頷けました(笑)。
「これ、ホントに俺が一人で振り回せるのか?」
──『キングダム』といえば、アクションの見せ場が多い作品としても知られています。カラダの大きな龐煖のアクションは大変だったのでは。
吉川 こういうことを言うとまた敵を増やすかもしれませんが(笑)、アクションに関してはちょっとした自負がありますので、不安はありませんでした。もちろん求められるカラダの状態に仕上げる自信もありましたし、トレーニングや肉体改造もしました。
難しいと思ったのは心理的な大きさをどう表現するか、ということです。原作では、龐煖は身長5メートルくらいの大男に描かれていますが、あれは主人公・信(しん)の心象風景だと僕は思っています。実写映画でそれをどう表現するか、そこは悩みました。
あとは、龐煖が使う巨大な矛(ほこ)。あまりに大きくて、撮影現場で初めて見た時は、「これ、ホントに俺が一人で振り回せるのか?」と、目を疑いました。
大きすぎて振り回せる場所がないので、山中にある自分の仕事場に持っていって、周囲を気にせず振り回して練習していました。
「本気の迫力って、目に出ちゃうんですよ」
──CG加工などでは対応できなかったのでしょうか?
吉川 CGでもうまくフォローしていただきました。でも、本気の迫力って、目に出ちゃうんですよ。小手先で演じた芝居だと、どんなにアクションが上手でも、内側からの迫力が感じられない。本気で龐煖になりきるためには、実際の重みや大きさも、どうしても必要なんです。まあ、それにしてもデカすぎたけどね(笑)。
龐煖の矛は、刃先が巨大な三日月形になっているので、振り回すとうちわみたいに風の抵抗が起こります。それをいかに少なくするかが速く振り回せる秘訣なんですが、これがなかなか難しくて…。
龐煖役のため、というか、この武器を振り回すために、腕も鍛えて相当太くしましたが、全然足りませんでした。
「信たちとの戦い」と「王騎との一騎打ち」の差別化
──龐煖のアクションでのこだわりも教えてください。
吉川 前半の主人公・信(演:山﨑賢人)率いる飛信隊と戦うシーンと、後半の王騎との一騎打ちのシーンでは、アクションの見せ方を変えました。
圧倒的に体格差のある信との戦いでは、大きく動かないほうが、逆に「大きさ」を感じさせることができますが、体格が互角の王騎との一騎打ちでは、お互いに持てる力を存分に発揮しながら大きく戦うことで、力の大きさを魅せることができます。ここは徹底的にこだわりました。
あとは、僕は足技が得意なので、足を使ったアクションや、飛んできてぐるっと回るアクションや一回転する動きを入れたいと言ってやらせてもらいました。「原作にはありません」と言われましたけど(笑)。
──今作ではアクションシーンの迫力もさることながら、それぞれのキャラクターの人間ドラマもていねいに描かれています。
吉川 そこが映画『キングダム』シリーズの人気の秘訣なんだと思います。アクションシーンは今作に欠かせない重要なものですが、中心にあるのは天下の大将軍になるという夢を抱く戦災孤児・信と、信をとりまく人々の心模様です。
人々の感情の機微を描くことなくアクションシーンだけを描いていたら、アクション技術の博覧会みたいになって、あっという間に観客に飽きられてしまうでしょうからね。
王騎と対峙するため15キロ増量した肉体改造
──王騎役を演じた大沢たかおさんも、『キングダム』のために、体重をかなり増やし、カラダ改造をされていました。キャストのみなさんの役作りへの情熱も感じます。
吉川 甲冑を身に纏い、馬上で存在感を出さないといけない王騎は、ボディービルダーのように見せる筋肉をつけなくてはいけません。大沢くんは体重を90キロに増やして王騎役に挑んでいました。
一方、龐煖は頭陀袋みたいな素材を身に纏っているので、カラダが隠せます。だからそこまで筋肉をつける必要はありませんでしたが、王騎と対峙するからには、同じくらいまで体重を増やさないといけないだろうと、86キロまで増やしました。
『キングダム』の前は、ドラマの撮影に合わせて71キロをキープしていましたから、そこから15キロ増やし、撮影後はコンサートツアーが始まるのでまた戻し…と、僕もかなり大変でした。
──肉体を改造して挑んだ吉川さんの龐煖からは、強さや偉大さにもまして深い悲しみを感じました。
吉川 そう思って見ていただけるのは嬉しいです。
龐煖は、いわゆる「将軍」と呼ばれる武者たちとは違い、戦をくだらないものだと考えています。それは、達観ではなく、悲しみからくるものだと僕は思っていて。だからそれを出せるように、声を落として低いトーンでぼそぼそ話すようにしました。
──なぜ龐煖はそんなに悲しいのでしょう?
吉川 生きようという強い希望が感じられないからではないでしょうか。
命をかけて秦国を守ろうとする王騎のように、己の命をかけるべきものが持てず、ただ王騎を討つことのみが目的になっている。そんな龐煖は、まるで死に場所を探しているかのようで、それが永遠に続く悲しみの源泉ではないかと解釈しました。
そんな龐煖の深い孤独や悲しみを追求するために、撮影中は大沢くんはもちろん、主役の(山﨑)賢人くんや羌瘣(きょうかい)を演じた(清野)菜名ちゃんとも少し距離を置いていました。
日本のエンターテインメントの勇気と希望
──今作では、ついに王騎と龐煖の決戦が観られるということで、物語がかつてないほど盛り上がっているのも事実です。今作への思いをお聞かせください。
吉川 映画『キングダム』シリーズは、日本のエンターテインメントってまだ捨てたものじゃないよね、という勇気と希望を与えてくれる、スケール感と立体感のある作品です。
こういう壮大なスケール感の映画を観ると、自分の悩みもちっぽけなものに感じて、前向きな気持ちになれると思います。僕も大きなスクリーンで観たいので、劇場へ足を運びたいと思っています。
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『キングダム 大将軍の帰還』
監督:佐藤信介/脚本:黒岩勉、原泰久/出演:山﨑賢人、吉沢亮、橋本環奈、清野菜名、吉川晃司、小栗旬、大沢たかお/2024年/日本/146分/配給:東宝、ソニー・ピクチャーズエンタテインメント/公開中
〈 「歌い手としては、声が出なくなったら引き時かなと思いますね」大病を乗り越え、挑み続ける吉川晃司(58)の“見得の切り方” <来年還暦> 〉へ続く
(相澤 洋美/週刊文春CINEMA オンライン オリジナル)
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