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《性被害裁判 異例の逆転勝訴》わいせつ男性教諭の“嘘”を暴いた「クラスメートの新証言」 性被害から20年

文春オンライン / 2024年6月26日 6時0分

《性被害裁判 異例の逆転勝訴》わいせつ男性教諭の“嘘”を暴いた「クラスメートの新証言」 性被害から20年

石丸さん ©文藝春秋

小学生時代、担任だった男性教諭から性暴力を受け、後遺症に悩まされていた石丸素介さん(40)。この男性教諭を相手に勝つ見込みの少ない裁判を戦っていた。だが、彼が勇気を振り絞って訴えた「実名・顔出しの告発記事」がきっかけとなり、新たな証人が現れた。性暴力の実情を長年取材するジャーナリストの秋山千佳氏の徹底取材。

◆◆◆

「十中八九負けます」

 2024年3月26日。

 東京高等裁判所で、ある裁判の二審(控訴審)判決が言い渡された。

 控訴人は石丸素介、40歳。

 小学校4~6年生の間、男性担任教師から陰部を触られたり全裸にされたりする性被害を受け続け、重い後遺障害を抱えている。2004年に今の主治医の初診で初めて被害事実を打ち明け、2020年に裁判所へ訴えた。

「十中八九負けます」

 と弁護士に言われた時には、こう返した。

「慰謝料よりも、相手が事実を認めて謝ってくれればそれでいいんです」

 だが、元担任が性加害を全面否認し、調停は不成立に終わり、一審は証拠不十分で敗訴。

 諦めかけたが、弁護士や母親に支えられて控訴した。

 さらに法廷の外でも、実名告発に踏み切った( 当連載第1回参照 )。

 二審の判決当日、石丸は自宅で弁護士の電話を受けた。

 緊張した石丸の耳に、勝訴という言葉が飛び込んできた。現実感を持てないまま電話を終え、追って弁護士から送られてきたメールを開くと、判決文の主文が目に入った。

「被控訴人は、控訴人に対し、2002万円及びこれに対する平成16年9月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え」

 慰謝料と利息を合わせ、約4000万円の支払いが命じられていた。

 30年ほど前の性被害の事実と、後遺症の損害賠償を認めるという、画期的な判決だった。

 ようやく石丸の胸に、安堵と感謝の念がじわじわと湧いてきた。

 石丸は今、「声を上げて本当によかった」と語る。

「実名告発したことで、卒業後に縁が切れていた小学校時代の友人たちと繋がることができて、裁判で証言してもらえることになって……。彼らにはすごく感謝しています」

 彼らの証言は、元担任が主張してきた数々の“嘘”を暴く結果となった。

 それどころか、石丸を含め、少なくとも4人のクラスメートが性被害に遭っていたことが明らかになったのだ。

証言台に立った2人の男性

「宣誓、良心に従って真実を述べ、何事も隠さず、また何事も付け加えないことを誓います」

 2023年10月5日。東京高裁の法廷で、証言台の前に男性2人が立ち、声を合わせた。

 柳和樹と、鈴木大樹。いずれも石丸の小学校時代の級友だ。

 被告席に座る元担任・奥田達也(仮名)は、椅子に肘をもたせかけ、教え子たちには目を向けようともしない。傍聴席では、石丸の母・厚子が1人、証言台をまっすぐ見つめている。石丸本人は、一審の本人尋問で奥田とやりとりして以降、裁判所へ足を運ぶことはおろか外出もままならない病状が続いていた。

 石丸の代理人弁護士・今西順一が立ち上がると、まずは柳の証人尋問が始まった。

 柳は、石丸のこの事件をいつ知ったかと今西に問われ、「今西弁護士からいただいたお手紙で知りました」と答えた。そして「今西弁護士とお話しした後、当時のクラスメートであったAくんと鈴木くんに連絡をいたしました」と続けた。

 Aさんとはどんな話をしましたか、という問いを受け、柳は核心に迫りだした。

“究極の腹筋”という名目で両足を……

「私はその時まで忘れていたのですが、奥田先生がAくんと当時のクラスメートのBくんを連れてキャンプに行った際、翌朝キャンプ場でBくんが泣いていたそうです。AくんがBくんにどうしたのと聞いた時には理由を言わず、帰りの電車の中で『ちんちんを触られたから泣いていた』と告白したと。当時そういう話があったな、という話をしました」

 泊りがけのキャンプは奥田による私的な旅行で、柳はこの話を中学時代に初めてAから聞いた。今のような性の知識がなく、教師の笑い話のひとつとして語られたものだった。

 奥田は表情を変えずに聞いている。柳が「AくんやBくんが他の誰かに話したかは聞いていない」と述べた時だけ、手元の付箋にメモを取った。

 奥田が全否定してきた体罰についても、柳は丁寧に答えていった。

「背中にビンタをする“もみじ”というのがありました。背中に平手の跡がしっかり赤く残って紅葉のようになるので、奥田先生本人がもみじと呼んでいました」

「僕は頬に思いきりビンタをされたことがあります。クラスメートの男の子は頬を平手かグーで(体が)飛ぶくらい強く殴られていました」

 同じく奥田が否定してきた児童を自宅に招く行為についても、柳は、あったと明言した。

「小学校在学中に何人かと遊びに行ったことがあります。車で行ったと記憶しており、牛肉のステーキと付け合せのもやし炒めの夕飯をごちそうになり、トランプのセブンブリッジをしました」

 そして、石丸と奥田の関係で記憶に残っていることについても具体的に述べた。

「よく可愛がられているなという印象を持っていました。“究極の腹筋”という名前で石丸くんが両足を両脇に抱えられ、腹筋させられるということをやられていました」

「裁判長から色々言われましたので、これくらいに」

 続いて、奥田からの反対尋問に移った。

 他人事のような顔をしていた奥田が、立ち上がってようやく柳を直視した。

「色々私の暴力的なことを言われていますけど、それはさておいて……。代理人から控訴人(石丸)についてどういう人物になっているかは聞かされましたか」

 意図のはっきりしない問いかけに、柳は困惑の色を浮かべて返した。

「ごめんなさい、よくわからないのでもう一度わかりやすくお願いします」

 それに対し奥田は、質問ではなく、石丸の人格や家族関係の批判を滔々と語りだした。

 裁判長が制止する。「大きな声を出さないでください」「控訴人の人格がこの事件にどう関係するんですか。彼に聞くことではないと思います」。

 奥田は「どうして関係ないのか私にはわからない」と開き直る。

本記事の全文は「文藝春秋 電子版」に掲載されています(秋山千佳氏の連載「ルポ男児の性被害」第8回・前編 「《異例の逆転勝訴》性被害から20年、クラスメートの新証言がわいせつ男性教諭の数々の“嘘”を暴いた」 )。

 

■連載 秋山千佳「ルポ男児の性被害」
第1回・前編  「成長はどうなっているかな」小学校担任教師による継続的わいせつ行為《被害男性が実名告発》
第1回・後編  《わいせつ被害者が実名・顔出し告発》小学校教師は否認も、クラスメートが重要証言「明らかな嘘です」
第2回・前編  中学担任教師からの性暴力 被害者実名・顔出し告発《職員室で涙の訴えも全員無視》
第2回・後編  《実名告発第2弾》中学担任教師から性暴力、34年後の勝訴とその後「ジャニー氏報道に自分を重ねる」
第3回・前編  《実名告発》ジャニー喜多川氏から受けた継続的な性暴力「同世代のJr.は“通過儀礼”と…」
第3回・後編  《抑うつ、性依存、自殺願望も》ジャニー喜多川氏による性暴力 トラウマの現実を元Jr.が実名告発
第4回・前編  「なぜ今さら言い出すのか」性被害を訴えた元ジャニーズJr.二本樹顕理さん 誹謗中傷に答える
第4回・後編  「ジャニーさんが合鍵を?」元Jr.二本樹顕理さんを襲った卑劣な“フェイクニュース”
第5回・前編  「性暴力がなければ障害者にならなかった」41歳男性が告発 小学3年の夏休みに近所の公衆トイレで…
第5回・後編  《母は髪がどんどん抜け、妹からは「キモい」と…》性被害後の家族の“拒否反応”の真実 41歳男性が告白
第6回・前編  目の前で弟に性虐待を行う父親 「ほら見ろよ」横で母親は笑っていた《姉が覚悟の実名告発》
第6回・後編  「絶対に外で言うなよ」父親の日常的暴力と性虐待の末に29歳で弟は自殺した《姉が実名告発》
第7回・前編  NHK朝ドラ主演女優・藤田三保子氏が“性虐待の元凶”を実名告発「よく死ななかったと思うほどの地獄」
第7回・後編  「昔、兄にいたずらされたことが」塚原たえさんの叔母、藤田三保子氏が“虐待の連鎖”を実名告発

第8回・前編 「《異例の逆転勝訴》性被害から20年、クラスメートの新証言がわいせつ男性教諭の数々の“嘘”を暴いた」

第8回・後編 「《賠償金約4000万円》法廷でも被害者の人格を攻撃 わいせつ男性教諭に画期的判決が下った“3つの理由”」

(秋山 千佳/文藝春秋 電子版オリジナル)

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