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ベストセラー作家も興奮のあまり気づけば朝4時!? 「人狼ゲーム」収録現場が舞台になった新作ミステリーが面白すぎた

文春オンライン / 2024年6月29日 11時0分

ベストセラー作家も興奮のあまり気づけば朝4時!? 「人狼ゲーム」収録現場が舞台になった新作ミステリーが面白すぎた

※さんざん人狼ゲームをごり押ししましたが、実は『なんで死体がスタジオに!?』は人狼のルールを知らなくても全く問題なく読めます。

 突然ですが、私は人狼ゲームが大好きです。

 その存在を初めて知ったのは高校生の時。登校中、仲の良かった友人から「嘘つきを簡単に見つける方法って何かあるかな?」と真顔で訊かれ、大いに困惑したのが始まりです。「そりゃ状況によりますがな。何、あなた詐欺にでもあいそうになってるん……?」とガチで心配してしまったのですが、彼女は慌てて、現在自分は人狼というゲームにはまっているのだと説明し、そのルールも教えてくれたのでした。

 曰く、時間制限がある中、複数人でトークしながら嘘つきを見つけるテーブルゲームであること。最初にランダムに村人と人狼の役職が割り振られ、村人役になった人は「自分は村人です!」と言い張る人狼を見つけ出さなければならないこと。人狼は人狼だと気付かれないように振舞い、村人を陥れるために全力をそそぐこと――。

 ぶっちゃけ、口頭で説明されただけではよく分からなかったのですが、「友達とプレイしたらその後の人間関係に支障をきたしそうなゲームだな……」とは思いました。後に、愛好家から「友情崩壊ゲーム」などと呼ばれていることを知りましたが、さもありなん以外に言いようがありません。

 そして幸いなことに、私はそういう騙し合い系のゲームが大好きなのでした。

 ルールを知り、「自分もやってみたい!」と思いましたが、人数が必要なため中々機会には恵まれなかった上、数少ないプレイを通じて分かったのは、私はアホほどに人狼ゲームが弱いという悲しい事実でした……。

 当時、物足りなさを埋めるために名勝負の記録を読み漁ったりもしましたが、最も人狼不足を補ってくれたのは、実は人狼を扱ったテレビ番組でした。

 単純化したルールではありましたが、タレントさん達が必死で嘘をついたり言い逃れをしようとしたり的外れな推論で他人を責め立てたり責め立てられたりうっかり嘘をつくのに失敗して自爆しても平然と振舞わなければならなくなったりしている時の様子をつぶさに見られるのが、本当に面白かったのです!

 引っ越ししてテレビを買い替えるまでの間、録画した番組を何度も繰り返し見たものでした。

 思い返せば、人狼が一般的な認知を爆発的に広げていた時期のことです。

 動画サイトでもあれこれ趣向を凝らした動画がアップされていましたが、それでも私がテレビ番組の人狼が一番「面白い!」と感じたのは、それぞれの演者の反応やゲームの流れが、非常に分かりやすく編集されていたからかもしれません。

 などということを、森バジルさんの新作『 なんで死体がスタジオに!? 』を拝読しながら、しみじみと思い出しました。

 舞台は、絶対に失敗するわけにはいかない生放送特番、「ゴシップ人狼」の収録現場。本番直前、現場において出演予定だった俳優の遺体が発見される。しかも「放送を止めたら収録現場を爆発させる」という犯人からの脅迫状付き! 「誰が嘘のゴシップを言っているかを推理する」というコンセプトだったはずの番組は、しかし同時に「犯人は誰か」の推理も進めなければならなくなる。果たして犯人は誰なのか、そしてその目的は――?

 作中、この番組を見ているお茶の間の視聴者が、先が気になって見るのを止められなくなるシーンがあるのですが、読んでいる間、私も全く同じ気持ちになってしまいました。

 人狼下手だけれども人狼好きな人間として大いに意気込みまして、ささやかな違和感に目をこらしながら、「ああじゃないか」「これはもしや?」などとさんざん穿った推理をしながら読んだのですが、これは本当に楽しい読書体験でした。

 作者の森バジルさんは、去年の松本清張賞の受賞者で、私は選考委員を代表して贈呈式で講評をさせて頂いたというご縁があります。よく「選考委員は親になったような気持ちで自分が世に送り出した新人賞受賞者を見る」という話を聞くのですが、私も例に漏れず、「森さんの新作はどうなっているかな」と、どこか心配するような気持ちがありました。

 正直なところ、あらすじを聞いた時は「大丈夫かな」と不安になってしまいました。

 過去の自分の失敗を思い出すに、こういった尖った設定は空中戦の後、あえなく爆散、という事態になりかねないからです。

 でも、決してそうはなりませんでした。

 読み終わった後に「我が事」として残るメッセージを受け取った感もあり、実に構成の美しい、地に足のついたエンタメだったと感動しました!

 寝る前に軽く読もうかな、と思って手に取ったのに、気付けば一気に読み終わり、興奮のままこれを書いているのも朝の四時ですよ。今思えば、親のような心配なんて思い上がりも甚だしいですね。作家の顔なんか忘れて、ネタバレもなく、ただ話の先が気になって夢中で一冊読み終える体験をさせてもらったのですから、私は本当に幸せな読者です。

 人狼がお好きで、「自分は絶対に騙されないぞ」と自信のある方、同好の士としてお願いしますが、是非読んで感想を教えて欲しいです! 

 人狼は知らないなぁという方、はまるかどうかはあなた次第ですが、それでも「興味なかったのにドはまりしちゃった!」という方は絶対いると思うので、人狼も『なんで死体がスタジオに!?』も是非アタックしてみて下さい!

※森バジルさんの新刊『 なんで死体がスタジオに!? 』の発売日は2024年6月26日です


阿部智里(あべ・ちさと) 1991年群馬県生まれ。2012年早稲田大学文化構想学部在学中、史上最年少の20歳で松本清張賞を受賞。17年早稲田大学大学院文学研究科修士課程修了。デビュー作から続く著書「八咫烏シリーズ」は累計130万部を越える大ベストセラーに。松崎夏未氏が『烏に単は似合わない』をWEB&アプリ「コミックDAYS」(講談社)ほかで漫画連載。19年『発現』(NHK出版)刊行。「八咫烏シリーズ」最新刊『追憶の烏』発売中。

【公式Twitter】  https://twitter.com/yatagarasu_abc

(阿部 智里/本の話)

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