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〈“いつもの薬”なら診察不要なのに〉「リフィル処方箋」はなぜ日本で広まらないのか?《普及率は0.1%以下》

文春オンライン / 2024年7月14日 6時0分

〈“いつもの薬”なら診察不要なのに〉「リフィル処方箋」はなぜ日本で広まらないのか?《普及率は0.1%以下》

(写真はイメージ) ©hika_chan/イメージマート

2022年4月に導入が開始された「リフィル処方箋」。しかし、患者側から見たメリットの高さに比して、存在は幅広く認知されているようには思えない。日本の社会や経済問題について研究を重ねてきた有志のグループ「憂国グループ2040」は、その理由を考察する。

◆◆◆

リフィルってなんだ?

 改めて読者の方々に問いたい。リフィル処方箋という言葉を聞いたことがあるか。聞いたことがあるとして、その意味を本当に理解しているか。

 実は、この質問は、既に昨年、厚労省が発している。令和5年度の調査で、我々と同じ50代は、「制度の内容まで知っていた」という人が32.4%、「名称だけ知っていた」が19.7%となっている。合わせると50%を超える。しかし我々は、この結果には懐疑的だ。

 既述のとおり、我々は半分以上が名前すら知らなかった。制度の内容まで知っていたと言えるのは、本稿執筆のきっかけを作った1人だけだ。もし本当に半数以上の人がリフィルの意義を知っているなら、医者にかかる機会も増える中高年世代が、現状に満足しているはずがない。実際には、誰もこの便利な方法を認識していないのだ。では、もったいぶらず、話を進めよう。

 我々がリフィルに最適だと考えている事例を二つ挙げる。まず、今や国民病とも言える花粉症だ。我々のメンバーも約8割が、この春、花粉症の薬を服用していた。ドラッグストアでも一般薬なら買えるが、ほとんどのメンバーが医療機関を受診した。しかし医療機関では、「昨年と同じ花粉症の薬をもらいにきた」と伝えただけ。だいたいの医師も、「はい、じゃあ出しておきますね」と言うだけで、それ以上のやりとりはない。まさに典型的な“3分診療”だ。医師に相談する必要なんてあるのだろうか。

 もう一つの事例は、50代の中高年世代に“あるある”の痛風だ。痛風発作は尿酸値が高い人に起こる。したがって、尿酸値が上がらないように心がけるか、尿酸値を下げる薬を飲み続ける必要がある。この薬はドラッグストアでは買えないため、医療機関に行かなければならない。その時の医師とのやりとりは花粉症の時と全く同じだ。「はい、じゃあいつものを出しておきますね」。

 二つの具体例を出したが、他にもこういう受診のケースは多い。忙しい勤労世代にとっては、時間がもったいない。花粉症のように、毎年同じ時期に、同じ原因で、同じ症状が出るのであれば、患者自身の判断で同じ薬を服用すれば事足りる。命にかかわることもないし、改めて薬のことが知りたければ薬局で話を聞けば十分だ。医師の判断を聞くまでもない。

 現時点では、こうしたケースで薬をもらう選択肢は医療機関にかかる以外にない。少なくとも、我々はそう思い込んでいた。

 しかし、本当は他に選択肢があるのだ。それがリフィルである。医師の診断を受けずとも、一定期間、使うことのできる処方箋のことだ。米国では、薬局で薬のボトルをいっぱいに戻す(リ・フィル)ことからそう呼ぶそうだ。そして日本でも、同じことができる制度が存在している。だからこそ岸田首相の指示は、その“普及策”を考えろ、だったのだ。

普及すれば誰が困るか

 では、なぜ日本ではこの制度が普及していないのか。その答えは、リフィルが普及し、花粉症や慢性疾患の患者がリフィルを使って、薬局で簡単に薬が買える状態になった場合、誰が困るかを考えれば分かる。

 これらの患者が、通常訪れるのは近くの診療所(クリニック)だ。もしリフィルが普及すれば、薬をもらいにくるだけの患者は減ることになる。その結果、診療所の医師にとっては、もっと時間をかけるべき重症の患者に集中できるというメリットもある。一方でデメリットも大きい。こうした手間のかからない楽な患者が減ることによって収入が減ってしまう。経営問題になるのだ。

 我々は、このデメリットが診療所にとって大きく、医師が普及を拒んでいるのではないかと推測している。だから、医療機関でリフィルを推奨されることがないのではないか。現実にリフィルを拒む運動をしている医療団体もある。そもそも、医療機関がリフィルを使わなくとも法的な問題はないのだ。

 しかし、もしこの推測が正しく、それゆえにリフィルが普及しないのであれば、診療所の収入(既得権)を守っているにすぎない。患者の目線で見れば、本末転倒だ。

 厚労省は、先のアンケート調査と同じタイミングで、リフィルの普及率を公表している。なんと、2022年に制度がスタートして以降の約半年ごとの処方箋全体に占める割合は、順に0.04%、0.05%、0.05%だ。我々メンバーでリフィルを使った者が誰もいないのも当然だ。そんな制度、現時点では存在していないのと同じである。

 もう一つ別の実例を出そう。新型コロナが蔓延する前のことだが、グループの一人が経験した話だ。

 彼には当時、小学校低学年だった2人の子供がいる。ある冬のこと、彼自身が高熱を発し、妻の運転で近所のクリニックに行った。職場でインフルエンザが流行っていたので確信はあったが、案の定、インフルエンザとの診断を受けた。薬局に寄り、タミフルをもらって帰った。ちなみに薬局は家から徒歩圏内にある。

 帰宅後、家族と隔離して寝込んだのだが、翌日には妻と子供2人が同時に発症した。家族4人がかなりの高熱だ。彼自身も、まだ車を運転できる状態ではない。前日に行ったクリニックに電話をし、「往診は可能か」と聞いたが、「やっていない」。「みんなインフルエンザだと思う。薬だけでももらえないか」、「診察しないと薬を出すわけにはいかない」、「何とか自分だけ行くから家族分の薬をもらえないか」、「それは、無理」。

 こうした押し問答が続き、結局、らちが明かず、インフルエンザに違いないという確信の下、その日は寝て過ごすことにした。妻はやむを得ず、彼のタミフルを飲んだ。子供に飲ませるのは心配だったので、氷枕や熱さまシートで様子を見ながら不安な1日を過ごした。

 そして翌日、熱が下がって運転もできるようになったので、子供を病院に連れて行った。自分が行ったクリニックには腹が立ったので、別の病院を受診。ちなみに、その病院には別の疾患で来ている高齢の患者も多く、インフルエンザをうつしてしまわないか心配だった。

※本記事の全文は「文藝春秋 電子版」に掲載されています(「 開業医の既得権を打破せよ 」)。

(憂国グループ2040/文藝春秋 2024年7月号)

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