「このままでは自分が壊れてしまう」デンソーの課長就任→過酷すぎて“うつ病”に…大企業から独立した男性が、退職を決意した“決定的理由”
文春オンライン / 2024年7月2日 6時0分
畔柳茂樹さんが20年勤めた大企業・デンソー ©時事通信社
〈 「いくら眠ろうとしても眠れない」26日間連続勤務で“過労死”寸前…デンソーの課長だった男性が明かす、大企業の管理職の過酷な実態 〉から続く
45歳のとき、20年勤めた大企業・デンソーを早期退職した畔柳茂樹さん。ブルーベリー農園『ブルーベリーファームおかざき』を開業し、売上5000万円達成。今では、ひと夏に1万人が訪れる地域を代表する観光スポットとなっている。
そんな畔柳さんは、なぜ大企業を辞める決意をしたのか。会社員時代、どんな苦悩や葛藤を抱えていたのだろうか。ここでは、畔柳さんの著書『 会社から逃げる勇気 - デンソーと農園経営から得た教訓 - 』(ワニブックス)より一部を抜粋して紹介する。(全2回の2回目/ 1回目から続く )
◆◆◆
うつ病を身近に感じる
事態はますます深刻になった。自分の体に起きた変調は、眠れないことだけにとどまらなかった。自分の不甲斐なさや将来の見通しが立たないことへのやり切れなさを強く感じるようになり、気持ちがどんどん自分の内側に向き始め、「なんてダメな自分なんだ」と自分で自分を責めるようなった。自宅から最寄りの駅まで車で通っていたが、帰宅途中の車中で、自分の中にたまっていたやりきれない想いが一気にあふれ出してきた。
それは車中で奇声を発するという形で現れた。「ウォーーー」「ちくしょう」「このやろう」「自分はダメな人間だ」こんなネガティブで汚い言葉が次から次へと口から出てきて、大きな声で叫んでいた。“家族に心配をかけたくない”という思いもあって、家に帰る途中、誰にも気づかれず迷惑をかけないように、たった1人の車中で奇怪な行動に至ったのだと思う。こうして「眠れない」「奇声を発する」という深刻な事態が日常になっていた。世間で言われているうつ病が他人事ではない、ごく身近に感じられた。
会社内の身上相談室の門を叩く
この自分の体に起きた変調を放置しておいてはいけないと感じ始めていた。まずは社内にある2つの相談室「身上相談室」と「メンタルヘルス相談」の門を叩いてみることにした。これらは会社内にありながらも、相談したことはあくまでシークレット扱いだと聞いたので行ってみた。以前はこのようなところにお世話になるとは夢にも思わなかったが、このときに至っては、少しでも事態が改善すればと、すがるような想いで足を運んだ。
身上相談室は、会社でのメンタル的な相談に限らず、どんな相談にものってくれるところで、たとえば遺産相続や子育ての問題なども対象となる相談室だった。
ここでどんなアドバイスをもらったのか、まったく覚えていない。多分、行く場所を間違えたと思ったのだろう。
もう1つのメンタルヘルス相談は、資格を持った看護師さんがじっくり話を聞いてくれた。ここでは、しばらく休暇、休職したらどうですかと言われ、最低でも1か月、可能なら1年でもいいと、思い切ってしばらくの間、会社から離れてリフレッシュしてみないと事態は改善しないのではないかというアドバイスだった。
しかしながら、私のとらえ方としては、「そう簡単に言われても困る」「責任ある立場なので難しい」というもので、親身になって言ってくれたとは思ったが、寄り添ってくれている感じがしなかった。
やっぱり心療内科に行くしかない。
社内の相談室は期待できないとわかり、次は医療機関の心療内科に行ってみることにした。その医院は、初診の場合のみ、診察時間終了後に30分程度時間をかけて、何に悩んでいて、今の症状がどんなものかを医師に理解してもらって、診断するようなシステムになっていた。そこで下された診断は、次のようなものだった。
「今のような過酷な職場環境なら、誰でもあなたのようになる。だからあなたはうつ病ではないと思う。でも症状を改善するために少し薬を飲んでみますか」というものだった。とりあえず安心はしたのだか、処方された薬は、抗うつ剤。いわゆるうつ病のときに処方される薬だった。
うつ病というものは、何か数値で判断できるものではなく、あくまで医師の主観的な評価に基づいている場合が多く、仕方ないことなのだろう。処方された薬も試しに飲んでみたが、体に合わずにすぐに止めた。
もともと薬嫌いでサプリメントなども含め、日常的に飲んでいるものはないし、病気になってもなるべく自分の治癒力で治すようにしている。抗うつ剤を飲むと、薬が効いている間は、それなりに調子がいいような気がするが、薬が切れると一気に脱力感に襲われ、無気力な状態に陥るようになり、飲んで1週間ほどで止めてしまった。
このままでは自分が壊れる。会社から逃げるにはどうするか
社内の相談室や心療内科の門を叩いたものの、事態は一向に好転しなかった。この頃から、このままこの職場で働き続けることが、将来の自分にどんな事態を招くのだろうと考えるようになった。
今のような危機的なメンタルヘルスの状態が長い期間続くことは、それこそ本格的な心の病を患うことにつながり、このままでは自分が壊れてしまうという、身の危険を感じるようになっていた。
とにかく、一度今の仕事から離れなければ、この危機的な状況を打開することはできないと考えた。さて、今の仕事から逃げるにはどうしたらいいのか、次の焦点はそこに移っていった。
自分を守るために会社を辞めるしかない
今の仕事を離れるとなると、選択肢は3つしかない。
①少なくとも1か月以上の長期的に休職すること。
②上司に願い出てもっと責任の軽い楽な部署に配置換えをしてもらうこと。この場合は、降格、つまり管理職から平社員になってしまうことも十分想定したうえでのことだ。
③会社を退社して転職、ないしは脱サラ起業すること。
前述①は、同じ職場に復帰することを前提にすることを考えるとしばらく休んだところで事態が好転するとはとても思えなかった。だから選択肢から外れた。②は、いわゆる窓際族的な存在になることを意味するので、自分のプライドを捨て去り会社にとことんしがみついていくことを覚悟する必要がある。この選択は、自分にはできなかった。意外に自尊心が高く、自分の価値を自ら下げるようなことは、私にはできなかった。そうなると③の会社を辞めることしか道は残されていないことになる。
退社して転職か脱サラ起業か。転職してまた組織の中で縛られ、気を使いながら働くことはまっぴらごめんだと考えるようになっていた。転職するくらいなら会社に残って、自分の新しい役割を模索していった方は得策だと思った。
ならば残された道は1つしかない。それは、「自分を守るために会社を辞める、退社して独立起業する」というものだ。起業して上手くやっていける自信があったわけではない、選択可能な道は1つしかなかっただけだ。
(畔柳 茂樹/Webオリジナル(外部転載))
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