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16歳で賊を倒し「自分の道が見えた」伊達政宗を支えた男がたどり着いた“ほろ苦い結末”とは

文春オンライン / 2024年6月30日 7時0分

16歳で賊を倒し「自分の道が見えた」伊達政宗を支えた男がたどり着いた“ほろ苦い結末”とは

『控えよ小十郎』(佐藤巖太郎 著)講談社

 NHK大河ドラマの主人公になったこともある、独眼竜こと伊達政宗は、戦国小説の愛読者にとってお馴染みの人物である。その政宗の懐刀であった、片倉小十郎の存在も、今では広く知られている。佐藤巖太郎の3年半ぶりの新作長篇は、政宗を支え続けながら戦国を駆け抜けた、小十郎の秘めたる夢を描いた、重厚な歴史小説だ。

 16歳の小十郎は、伊達領を荒らす賊を倒した。このとき協力してくれた修験者から、奥羽の地から戦をなくすためには、新しい国造りをする必要があるといわれる。そのためには乱れた領地をまとめる、強い存在が求められる。自分の道が見えたと思った小十郎は、姉の喜多を頼った。喜多が保姆(ほぼ)をしている梵天丸(後の政宗)に目通りするためだ。曲折を経て梵天丸に仕えることになった小十郎。やがて傅役(もりやく)となり、忠実な家臣となる。そして家督を継いだ政宗に己の夢を託し、戦国の世を駆け抜けるのだった。

 当時の奥羽は群雄割拠で、伊達家の周囲は敵だらけであった。しかも、領内の国衆も勝手に動いている。また伊達家は門閥の力が強く、因習にとらわれている。身分の低い小十郎が、このような内憂外患の中で、政宗と共に成長していく過程が、前半の読みどころだ。後半になると、豊臣秀吉から徳川家康と天下人が移っていく時代の激流を、乗り切ることになる。

 歴史小説なのだから当然だが、本書は史実を踏まえて進行していく。ただし、エピソードの取捨選択に特色がある。たとえば、政宗の父である輝宗が死ぬことになる騒動だ。この一件で政宗は、実にショッキングな体験をする。しかし作者は作中の時間を飛ばし、間接的に触れるに留めているのだ。政宗の母が彼を毒殺しようとしたといわれる一件も、意外な事実を明らかにしたにもかかわらず、扱いが非常に小さい。このような描き方は意識的なものだろう。なぜなら本書は政宗ではなく、小十郎の物語だからだ。小十郎の視点によって、戦国の歴史を、違う角度から見ることができる。ここに、本書の魅力があるのだ。

 もちろん小十郎の人間像も魅力的。戦場での働きも優れているが、調略などに本領を発揮する。まさに智将として、政宗を支えていくのである。大きな夢に向かって、ひたすら前進した小十郎の生き方に惚れこんでしまうのである。

 だが、ラストのある人物との対話により、小十郎は伊達家と、自分の夢がたどり着いた場所を理解する。物語の結末はほろ苦いが、それが深い味わいになっている。歴史と人物の生み出すドラマを、とことん堪能できるのだ。

 なお、本書の内容の一部は、直木賞の候補になった出世作『 会津執権の栄誉 』と、微妙に重なり合う。作者のファンならば、見逃せないポイントだ。

さとうがんたろう/1962年福島県生まれ。2011年、「夢幻の扉」でオール讀物新人賞受賞。17年『会津執権の栄誉』で本屋が選ぶ時代小説大賞受賞。他の著書に『将軍の子』『伊達女』等。
 

ほそやまさみつ/1963年埼玉県生まれ。文芸評論家、アンソロジスト。書店員を経て、エンタテインメント作品の評論や解説を執筆。

(細谷 正充/週刊文春 2024年7月4日号)

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