「田舎の地元民」と「移住者」はなぜ対立するのか…互いの不信感を招く“小さなズレ”の正体
文春オンライン / 2024年7月2日 11時0分
なぜ「田舎」は“燃える”のか? 写真はイメージ ©getty
ときには誹謗中傷や脅迫にまで過激化することも…。近年とかく炎上しがちな「田舎」に住む地元民と移住者のコミュニケーション。同じ地域に住む人間同士でなぜ争うのか? 両者を隔てる問題の原因を、徳島大学大学院教授の田口太郎氏の新刊『 「地域おこし協力隊」は何をおこしているのか? 移住の理想と現実 』(星海社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/ 後編 を読む)
◆◆◆
田舎VS都市
振り返ると、2023年は「田舎」そして「地域おこし協力隊」炎上の年となってしまったと言えるかもしれません。
年初には福井県池田町の広報誌で移住者へ向けた提言として出された「池田暮らしの七か条」の内容に「上から目線」などと各所から批判が集まりました。七か条には「都会風を吹かさないよう心がけてください」「品定めされることは自然です」といった文言が並び、テレビ番組などでも多く取り上げられたので覚えている方も多いかもしれません。
ほどなくして、今度は動画共有サイトに投稿された1本の動画が話題に。田舎への移住者による「【移住失敗】色々ありすぎて引っ越すことになりました#31」と題された動画は再生回数が600万回を超え、田舎に関心のある層を超えて広く一般に広がりました。福井県池田町と同じように「閉鎖的な田舎」「古い価値観の田舎」といった批判が各所であがり、大きな話題となったのです。
この騒動が落ち着いたか、といったタイミングで、今度は移住者が経営するカフェが突然に立ち退きを要求された経緯がSNSで大きく拡散。この件では誹謗中傷を超えて、誘拐予告や爆破予告が届き、警察沙汰にまでなってしまいました。
これまでも田舎の閉鎖性については言及されてきましたが、SNSという高速で拡散されるツールの普及によって、これまでこうした話題にあまり関心を持っていなかった人びとまで広まったことで、一部の過激な行動を取る人たちにまで伝わり、その後の誹謗中傷、脅迫などにつながったと言えるでしょう。
「2023年は『炎上の年』となってしまった」と言いましたが、私は2023年に限って多くトラブルが発生したとは思っていません。2023年にこれまでもあったようなトラブルが特に広く拡散されたという理解が現実的なところではないでしょうか。
私は研究のため多くの町や村に足を運び、実態を見てきました。過去にも地域住民と移住者のトラブルはあったものの、当事者には発信するすべがなく、泣き寝入りせざるを得なかったことも多くありました。
また、SNSなどでの拡散は被害者による加害者の告発の形態を取りがちですが、一方の側からのみの発信であるため、その是非の判断は難しいものです。農村社会に都市部から人が入るということは、異なった生活背景を持つ人びとが出会う機会となり、双方にとって小さくない変化をもたらします。
このようなトラブルも「田舎VS都市」として捉えられがちですが、そもそも「田舎」とはどういう地域なのか、という定義もはっきりしない中で、人口減少が進む農山村を「田舎」として一括りにまとめてしまい、地域それぞれの事情には関心が払われない中で「田舎とはこういうところ」という前提で拡散されているように感じます。こうした事態の数々は、まさに「炎上」でした。
日本だけで移住者の問題が起きている、と認識していらっしゃる方もいるかもしれません。そんな読者の方々に観ていただきたい映画があります。2022年に第35回東京国際映画祭のグランプリを受賞し、2023年に日本でも公開されたスペイン人監督による映画、邦題『理想郷』。作品のテーマは移住者と地域住民の軋轢であり、実際にスペインで起こった事件をもとにした映画です。
私は映画のパンフレット用に原稿を依頼されて映画を観てみたのですが、日本でも大いに起こりうる事象を、迫力をもって伝える名作であると感じました。作品では、外からある地域にやってきた移住者と地域にいる人びとのちょっとした行き違いが大きくなり、凄惨な事件へと発展していきます。ここでも日本の炎上トラブルと同じく、永く地域に暮らす人びとの感覚と、理想を求めてやってきた移住者の感覚のズレがそもそもの引き金となっています。
移住者の問題は世界中どこででも起こりうることが、この映画を観るとおわかりいただけると思います。軋轢はときに、炎上以上の厄災をもたらすことさえあるのです。
なぜ移住者と地域住民は揉めるのか?
こうした移住者と地域住民のズレの原点は、移住者はさまざまな選択肢の中からその地を“選択”しているのに対して、地元の住民は地域を“選択できずに”住んでいるところにあります。前者はポジティブな印象を持っているのに対して、後者は選択する機会がなく比較対象も少ないためどうしてもネガティブな印象を持ちがちです。ここに小さなズレの発端があるのです。
ポジティブに地域を見ている側は地域の資源に可能性を見出し、それを利用することで豊かになっていくのに対して、ネガティブに見ている側はそれ故に活路を見出しにくい。それぞれが自身の地域への評価を強く自認し、互いの地域に対する感覚の違いを理解していないために不信感へとつながってしまいます。お互いにわかったつもりでいるものの相互理解が不足している、ということから生まれる軋轢が、世界中で起きているのです。
日本だから、特定の地域だから、問題が起きるのだという見方で問題を捉えてしまうと、事態を改善することは難しくなります。移住者と地域住民のあいだには問題が起きる可能性があるのだと認識した上で、どう取り組むのかが大切です。
〈 「さまざまな軋轢を“おこして”しまったことも事実です」地域おこし協力隊がトラブルを多発してしまう真因 〉へ続く
(田口 太郎/Webオリジナル(外部転載))
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