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「さまざまな軋轢を“おこして”しまったことも事実です」地域おこし協力隊がトラブルを多発してしまう真因

文春オンライン / 2024年7月2日 11時0分

「さまざまな軋轢を“おこして”しまったことも事実です」地域おこし協力隊がトラブルを多発してしまう真因

「地域おこし協力隊」がトラブルメーカーと見なされてしまう理由とは? 写真はイメージ ©getty

〈 「田舎の地元民」と「移住者」はなぜ対立するのか…互いの不信感を招く“小さなズレ”の正体 〉から続く

 田舎における「地域おこし協力隊」の活動への評価は厳しくなりがちで、通常の移住とはまた違う軋轢が生じやすい理由とは? 徳島大学大学院教授の田口太郎氏の新刊『 「地域おこし協力隊」は何をおこしているのか? 移住の理想と現実 』(星海社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/ 前編 を読む)

◆◆◆

「地域おこし協力隊」は公共事業であるがゆえに軋轢が起きやすい

 近年の炎上でたびたび話題になるのが「地域おこし協力隊」である点は、大きな問題だと考えています。 前編 で炎上の事例として挙げた3件のうち、個人が情報発信した2件は地域おこし協力隊が関係しています。

「地域おこし協力隊」とは、都市部の住民が地方に移住し、“地域協力活動”に従事する取り組みで、2009年に始まりました。総務省が主導している制度です。この地域おこし協力隊が各地で活躍する事例が多くなってきたことから、令和5年度で約7000人いる協力隊を、2026年までに1万人に増やすという目標を、現在政府は掲げています。

 都市から地方へ多くの若者が移住し、地域を盛りあげる活動に励むのは素晴らしいことであり、それを国が支援することも素晴らしい、というのが多くの方の印象ではないでしょうか。そして、移住したくともなかなか地方で仕事が得られない中で、「地域おこし」という仕事を国が支援したことは、地方移住に関心を持つ人びとの背中を大いに押しました。これは事実です。

 ただ一方で、地域の側から見ると少し異なった印象を受ける人もいます。というのも、この事業は“国が支援する事業”だからです。つまり公共事業。特別交付税という自治体の一般財源ではない特殊な財源ではあるものの、国民から集められた税金で活動が支えられている公共事業であるため、地域住民からすれば公共的な価値、つまり多少なりとも自分たちにも利益がある活動であるかという視点で見てしまいます。しかし着任した協力隊自身は「移住・定住」に向けた取り組みと考えている面もあり、都市部での仕事ではなかなか得られなかった充実感を得られる“自主的な地域協力活動”と捉えがちです。

 また、各自治体が定めている人件費である報償費(2024年度からこれまでの制度が拡充され、年間320万円、スキルや地理的条件を考慮したうえで、最大420万円まで特別交付税措置の対象)は、都市部の人びとにとっては特段大きな人件費と感じないかもしれませんが、地方の若者からすれば“いい給料”です。にもかかわらず、主たる仕事は地域協力活動、地域おこし活動であり、地域住民からすると、自分たちが普段余った時間を利用して無償でやってきたことに似ているようにも見えてしまう。活動が独りよがりだと捉えられてしまえば、当然反発も生まれます。どうしても「地域おこし協力隊」の活動への評価は厳しくなりがちで、通常の移住とはまた違う軋轢が生じやすいのです。

 こうした微妙な関係の中で、協力隊と地域住民とのコミュニケーションが不足すると、双方のネガティブな印象はますます強くなり、限界に達した移住者側が地域への不満をSNSで広く拡散してしまう、という事態に発展します。

 ではなぜ、地域側からトラブルについて発せられることが少ないのか。常に地域側に過失があるわけではなく、簡単に言えば、発信するスキルを持っているかどうか、または気持ちが追い詰められているかどうか、といった差ではないでしょうか。外から移住し、“地域協力活動”が自らの収入を支えている協力隊は、周辺に親身になって相談に乗ってくれる“味方”が当然少なく、地域側のネガティブな発言を非常に重く受け止めてしまい、気持ちが追い込まれやすい立場でもあるのです。

 一方で「協力隊は公共事業」と先に書きましたが、「公共事業」というのは文字通り公益性を目的とした事業であるため、協力隊の取り組みにも常に公益性とのつながりを説明する必要が生じます。そのため、公益性に対して強く意識することが求められるのですが、協力隊の募集要項や担当職員の認識の中にそれが十分示されているかというと、なかなかそうはなっていない現実があります。だからこそ、着任する協力隊がさほど公益性を重視しなくなってしまう、という悪循環が起きている側面もあるのです。

 もちろん、「地域おこし協力隊」によって、地域が活力を取り戻し“おきる”ことができたケースもたくさんあります。ただそればかりではなく、さまざまな軋轢を“おこして”しまったことも事実です。「地域おこし協力隊」という制度は、これまで何もなかった地域によい面、悪い面を含めてさまざまな変化を“おこして”きたと言えるでしょう。

自治体にとって自由度が高い協力隊の制度

 私はこの制度が始まった当初から総務省を始めとした関係機関と意見交換し、協力隊員向けの研修プログラムの企画や実施などをしています。制度の発足当初から見てきているだけに、協力隊の活躍を頼もしく感じたり、炎上してしまった事例については歯がゆく思ったりしていました。

 ここまで、炎上の実例から問題点を述べてきましたが、地域おこし協力隊は基本的には素晴らしい制度だと私は考えています。というのも、以前から政府による地域施策は“紐付き補助金”と言われ、かなり限定的な使い方しかできませんでした。それぞれの地域が自分たちのやりたいことに補助金を使えるよう、自分たちの取り組みを政府の補助メニュー側に寄せることでなんとか支援を受けてきました。そのため、ただでさえ人員や資源が限られている地域では効率的にものごとを進めることが大切にもかかわらず、資金を得るためには不要な活動までせざるを得ない、というのが実情でした。

 その点、地域おこし協力隊は導入する自治体にとって非常に自由度の高い制度と言えるでしょう。制限といえば、都市地域から過疎地域への移住(住民票の移動)と、任期最大3年であることくらいで、あとの裁量権は導入する自治体に任されています。「地域おこし」の部分である「地域協力活動」の中身についても、それぞれの地域の実態に合わせて決めていい。つまり、それぞれの地域が自分たちに必要な人材を導入する際に制度上の縛りがほとんどないのです。

 地域に根を下ろし、地域のことを真剣に考えている人びとが、それぞれ「どうしたら地域がよくなるか」を考えて使える制度。地域をよりよいものにできる大きな可能性を秘めています。また制度自体もどんどん時代に合わせて変化し続けています。

(田口 太郎/Webオリジナル(外部転載))

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