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「ショートカットは絶対にフェミだ」髪型で激しいバッシングを受けた女子金メダリストの“その後” 韓国でショート女性が攻撃される「いびつな理由」とは

文春オンライン / 2024年6月29日 10時50分

「ショートカットは絶対にフェミだ」髪型で激しいバッシングを受けた女子金メダリストの“その後” 韓国でショート女性が攻撃される「いびつな理由」とは

今もショートカットを貫くアン・サン選手 ©GettyImages

 パリオリンピックまでいよいよ1カ月を切った。韓国でもオリンピック報道は増えてきたが、日本人の知り合いから「そういえばアーチェリーのアン・サン選手はまだショートカットですか?」と聞かれて驚いた。

 アン選手(23歳)は、東京オリンピックで団体、混成、個人で金メダルを獲得し、オリンピック史上初の三冠に輝いた韓国アーチェリーのスター選手だ。韓国では「アン・サンフィーバー」が起きたが、彼女のヘアスタイルがショートカットだったことをきっかけに「フェミニストに違いない」「金メダルを剥奪すべき」という誹謗中傷を受けるなどの騒動に発展。日本を含めて世界的な話題になった。

 発端はインスタグラムだった。男女混成で金メダルを獲得した後にアン選手のインスタグラムには激励や賞賛のメッセージが殺到したが、その中に、「どうして髪の毛を(短く)切るのですか?」という書き込みがあった。アン選手はこれに「ラクだからです」と返信。取り立ててなんということはないやりとりだが、これが始まりだった。

 韓国のZ世代男性が多いコミュニティサイトでこのやりとりが話題になり、アン選手がショートカットで女子大に通っていたことから、「ショートカットで女子大は絶対にフェミ(フェミニスト)だ」とバッシングが始まったのだ。アン選手が「過去にSNSで男性を嫌悪する言葉を使っていた」という罵倒も多く見られた。

 アン選手がそれらの反応を黙殺すると、今度は大韓アーチェリー協会のサイトにターゲットを変え「(男性を嫌悪するフェミニストからは)金メダルを剥奪すべき」と抗議するメッセージまで送り始めた。これは韓国内にとどまらず、海外からも「ジェンダーブリィング(性にもとづく虐め)」と注目を集めた。

「結婚しない、化粧しない、太っている、下着をつけない女性は…」

 当時、韓国紙の女性記者の1人は、炎上の背景をこう説明していた。

「結婚しない、化粧しない、太っている、下着をつけない(ノーブラ)というような女性は、韓国ではフェミニスト認定をされて攻撃されることがあります。ショートカットを批判する人々の言い分は、女性らしくない、女性らしく見えない振る舞いをするということは男性を嫌悪しているに違いない、という論法なのです」

 韓国のジェンダー対立は1990年代から激化の一途をたどっている。

 韓国では今も男性に「兵役」が義務づけられているが、過去には公務員試験などにおいて男性が有利になる「軍服務加算点制」が存在した。しかしそれが「女性や障害者の権利を侵害する」として違憲になり、90年代後半になくなった。兵役だけが残ったことで男性の不満が高まり、女性バッシングに走る人も増えていった。

 そして2016年5月にソウル市内江南駅付近の男女共用トイレで、20代の女性が女性だというだけで面識もない30代男性から殺される事件が起きると、次は私かもしれないという恐怖心と怒りが女性たちの間に広がり、ジェンダー対立はさらに深まっていった。

 2018年には韓国でもMeToo運動がはじまり、それに続いて「脱コルセット運動」が起きた。これは社会が求める「女性らしさ」を拒否するもので、「飾らない権利」が主張された。ショートカットの女性が活動する姿が有名になったことで、韓国ではショートカット=フェミニストというイメージが広まった。

 そうした対立の積み重ねが、2021年の東京オリンピックでアン・サン選手に襲いかかったことになる。

「ショートカットにして変ないいがかりをつけられるのがイヤ」

 アン・サン選手ヘのSNSでの虐めから3年が経ち、最近はK-POPアイドルにもショートカットはちらほら登場している。それでも韓国の女性で圧倒的に多いのはロングヘアで、メディアに登場するキャスターも胸元まで届くロングヘアが主流だ。

 20代の女性に話を聞くと「長いほうがアレンジしやすくてラク」や「ショートカットが似合わないから」というコメントのほかに「ショートカットにして変ないいがかりをつけられるのもイヤですから」という人もいた。

 今年の5月には、入隊して間もない兵士が過酷な「軍紀訓練」(懲罰的意味合いの訓練)を受けて亡くなるという痛ましい事件が起きた。その教官だった女性中隊長がショートカットだったことから、韓国では再びショートカットへの嫌悪感が再燃しつつある。

 さて、東京オリンピックで3つの金メダルを取ったアン選手は、パリオリンピックへも期待を集めていたが、まさかの予選落ち。髪型は現在もショートカットを貫いている。ちなみにパリ大会に出場する女子アーチェリーの代表選手の中にはショートカットはいない。

 韓国はオリンピックのアーチェリー女子団体競技を9連覇している超強豪国で、「パリで目標とする5個の金メダルのうち、アーチェリーにかける期待は大きい」と韓国のスポーツ紙記者は話す。そして、ため息交じりにこう続けた。

「というのも韓国は今大会はバレー、サッカー、バスケットボールなどのチーム競技が軒並み予選で敗退し、出場するのは女子ハンドボールのみ。選手団は東京オリンピックでは354人だったのが、今回は140人あまりです。これはモントリオールオリンピック(1976年)以来48年ぶりの最小規模で、アーチェリーにはなんとしても金メダルを取ってほしいです」

(菅野 朋子)

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