「今日を限りに辞めてちょうだい」ロッテのカリスマ創業者が、社長に突然“クビ宣告”…大企業で起こった“お家騒動”の一部始終
文春オンライン / 2024年7月4日 6時0分
![「今日を限りに辞めてちょうだい」ロッテのカリスマ創業者が、社長に突然“クビ宣告”…大企業で起こった“お家騒動”の一部始終](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/bunshun/bunshun_71758_0-small.jpg)
写真はイメージです ©mapo/イメージマート
〈 「宏之をクビにしろ」ロッテの“カリスマ創業者”が、後継者の息子をいきなり追放…日本有数の大企業で“内紛”が勃発したワケ 〉から続く
日本が誇る大企業を築き上げた「創業社長」には、どこか共通するカリスマ性がある。しかし、創業社長のカリスマ性が大きければ大きいほど、その去り際、そして去ったあとには、経営権を巡って内紛が起きる。
日本と韓国にまたがる異形の財閥、ロッテグループも“お家騒動”を経験した企業のひとつだ。創業者の重光武雄は、長男・宏之に事業承継を行う予定だったが、失敗。二男の昭夫が、創業者の父と兄を放逐してロッテグループの経営権を奪取した。
ロッテグループでは、経営権を巡ってどんな内紛が起きていたのか。ここでは、高橋篤史氏の著書 『亀裂 創業家の悲劇』 (講談社)より一部を抜粋して紹介する。(全2回の2回目/ 1回目から続く )
◆◆◆
宏之解任の不当性を受け入れた武雄
昭夫側は副会長職から解任しさえすれば宏之がそのまま引き下がると考えたのかもしれない。しかし、そうはならなかった。その後、宏之は巻き返しのため武雄との面会の場を模索した。それが実現したのは解任劇から半年近くが経った翌2015年5月頃である。やがて武雄は解任の不当性を訴える宏之を受け入れていった。
7月3日、武雄はロッテホテル34階に佃孝之(つくだたかゆき。2009年7月、武雄の後任でロッテグループの社長に就任)と小林正元(こばやしまさもと、昭夫の腹心の部下でロッテグループの取締役)を呼び出した。武雄の実弟で日本において会社を営む重光宣浩(のぶひろ)、ロッテショッピングなど韓国ロッテ各社の役員に取り立てられていた長女の辛英子も同席した。そして、宏之もその場にいた。この日のやりとりは録音データに残されている。
「これ、どういうこと? これ?」
冒頭から武雄は佃を難じ始めた。宏之解任後、佃は日本ロッテ主要各社の社長を数多く兼務しており、それを問題視したのだ。
すると、そこにすかさず割って入ったのは小林だった。
「違います! 会長さん、お待ちください。お待ちください!」
「お前は何だ?」と武雄が訊くと、なおも小林は大きな声を上げた。
「彼、何ですか? 彼は誰ですか?」
小林は目の前の宏之を挑発するかのようになぜかそう叫んだ。
「出て行け!」
武雄と宏之からそう続けざまに言われても小林は「なぜでしょうか?」などと言って食い下がった。同じようなやりとりが何度か繰り返され、ようやく小林は退室していった。
「社長が耄碌しているから何をやってもいいと思ったんだろ」
武雄「いままでね、僕はあなたのことを信用しておった」
佃「私も会長を尊敬しています」
武雄「こういうふうにやっているのを見るとね、とんでもないと思った」
佃「しかし、会長、それは」
武雄「言い訳するなというんだ! なぜこんなことをやるんだ!」
佃「これは、誰もおらないから、まず私がやるようにというご指示でございました」
武雄「社長(=武雄のこと)が耄碌(もうろく)しているから何をやってもいいと思ったんだろ」
佃「そんなこと私はゆめゆめありません。もし会長がそんなふうに思ったのなら」
武雄「もういいそれ。言い訳はいいから。ただ僕はあなたと喧嘩したくないの。だから今日を限りに辞めてちょうだい」
佃「わかりました。はい。わかりました。残念でございますが」
車椅子に座るもののグループ総帥の威厳をなお失ってはいない武雄を前に、佃はただただ気圧(けお)された。途中で入室した昭夫は言葉少なにその様子を見守るばかりだった。
宏之解任劇の背後で蠢いていた人物
佃は最後、「承知しました。長い間お世話になりました。ありがとうございました」と一礼し、そそくさと部屋を後にするほかなかった。
張り詰めた空気が和らぐと、長女・英子が父・武雄に韓国語で耳打ちした。
「お父さん、李仁源(イ・インウォン)という人、知ってるでしょ、よく報告しにくるじゃないですか、あの人が元凶です。あの人が全部やっています。あの人も追い出さないと」
「前にお父さんが李仁源を解任しようとしたじゃないですか」
「(それを)昭夫が李仁源に教えた。それで、あれから、李仁源が昭夫にくっついて、いまのことを企んでいます」
英子は宏之解任劇の背後で韓国ロッテの副会長、李仁源が蠢(うごめ)いていることを感じ取っていたようだ。先に述べた韓国側による権力奪取説である。
「変な考え持ったら、お前もすぐに辞めさせるから」
佃に解任を言い渡した翌日、武雄は小林の解職を求める書面にもサインしている。そしてさらに4日後の7月8日、自室に昭夫を呼び出した。ここでも宏之が同席していた。
武雄「座れ!」
昭夫「はい」
武雄「バカ野郎!」
この日、武雄が問い質そうとしたのは中国事業における多額の損失だった。昭夫の主導により韓国ロッテは中国で百貨店やスーパーの大量出店を進めていたが、赤字続きで決してうまくはいっていなかった。損失の総額は数年間で1000億円以上に上っていた。
武雄の叱責に昭夫は少しの抵抗を見せたが、最後は平身低頭といった態度だ。やがて話題は佃のことになった。解任を言い渡したものの、佃はまだ辞めておらず、この日は関西方面の得意先回りで出張中とのことだった。小林もまだ辞めていなかった。
「これ、辞めさせたのか?」
そう武雄が問い詰めると、昭夫は佃と小林の辞表を自分が預かっていると答えた。父親は息子に対し諭すようにこう続けた。
武雄「とにかくね、昭夫、いいかい。お父さん言うけど、お前も変な考え持ったら、お前もすぐに辞めさせるからな」
昭夫「はい、ええ」
武雄「お前はロッテを全部――、そういう才能を持っていない。分かっているから」
昭夫「分かっています。ええ」
同じようなやりとりが繰り返され、武雄はこう念を押している。
武雄「お前、俺が言ったこと覚えとけよ。お前、また裏でやったら、すぐにお前ほっぽり出すからな」
昭夫「わかりました」
偉大な父を前に息子は絶対服従の態度に終始した。しかし、この直後から昭夫の心の奥底では大きな変化が生じることとなる。それまで昭夫はことあるごとに宏之解任は父・武雄の命によるものだったと強調していた。が、そんな儒教的慣例に根ざした理屈など投げ捨て、宏之との関係を強める武雄を排除する方向に舵を切ったのである。
(高橋 篤史/Webオリジナル(外部転載))
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