仲間は死亡、ただひとり生き残った新人宇宙飛行士は月面から地球へ帰還できるのか<EXO ド・ギョンス出演>
文春オンライン / 2024年7月6日 17時0分
![仲間は死亡、ただひとり生き残った新人宇宙飛行士は月面から地球へ帰還できるのか<EXO ド・ギョンス出演>](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/bunshun/bunshun_71780_0-small.jpg)
月面で孤軍奮闘する姿を、ハリウッド級のVFXで描く。新人宇宙飛行士を演じるド・ギョンス ©2023 CJ ENM Co., Ltd., CJ ENM STUDIOS, BLAAD STUDIOS ALL RIGHTS RESERVED
1969年に人類が月に降り立ってから約半世紀。
JAXAの小型月着陸実証機SLIMが撮影した月面の画像が地球へ送信されたり、NASA主導によるアルテミス計画で日本人宇宙飛行士が月面着陸に参加することが報じられたりと、月探査計画は遠い国の出来事ではなくなってきた。
国際的には航空宇宙開発で遅れをとっている韓国においても、斯様な世相が影響していることを韓国映画『THE MOON』に感じるのである。
SFパニック映画と実録物の要素を融合
宇宙を舞台にした映画は製作費のかさむ大作となる傾向があるため、潤沢な資金を望めるハリウッド映画のお家芸だったという経緯がある。
一方で、中国映画『流転の地球』(19年)のようなSFパニック大作が、近年はハリウッド以外でも製作されるようになってきた。
そういった変化の中で『THE MOON』が秀でているのは、SFパニック映画の要素と『アポロ13』(95年)のような実録物の要素との融合を試みている点にある。
物語の舞台を2029年にしたことで「あるかもしれない」
モキュメンタリー映画的な映像構成で幕が開ける『THE MOON』は、現代の韓国ではなく、近未来の韓国という設定である点が巧妙なのだ。
人工衛星の打ち上げにおいても、韓国は海外の技術に依存しているという厳しい現実があるからだ。アメリカに次ぐ月面着陸成功へ再び挑むという物語の舞台を2029年にすることで、「あるかもしれない」サイエンスフィクションとして成立させているのだ。
それゆえ本作には、月に埋蔵された資源の国際的な争奪戦や太陽風の影響など、現実の問題が盛り込まれている。今年5月には、太陽フレアによる磁気嵐の影響で通信障害の恐れがあると報じられたばかり。
現実と乖離した科学技術ではなく、劇中では現代と地続きの技術によってミッションを完遂させようとしている所以だろう。
それは、この映画がVFXを売りにするだけではない点にも表れている。
兵役後初の長編映画出演となったEXOのド・ギョンスに加えて、『オアシス』(02年)のソル・ギョングや『ユンヒへ』(19年)のキム・ヒエ、意外な役割を担う『デシベル』(22年)のキム・レウォンなどのスター俳優による、科学者たちの葛藤を描いた人間ドラマにもなっているからだ。
『ゼロ・グラビティ』や『オデッセイ』を想起させるシーンも
とはいえ『THE MOON』は、ハリウッドで製作された過去作の影響下にある。
例えば、船外活動の危機は『ゼロ・グラビティ』(13年)、ドッキングのプロセスは『インターステラー』(14年)、隊員が一人残される姿は『オデッセイ』(15年)、月面の表現は『ファースト・マン』(18年)、父親の存在が鍵となる点では『アド・アストラ』(19年)を想起させる。
序盤に流れる「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」
自由なカメラワークによって宇宙船内の無重力を映像で表現することはもはや必須だが、ハリウッドの先例に対する姿勢は、他国に負けまいと奮闘する韓国の国際宇宙開発に対する劇中の姿勢と同期している点も興味深かったりする。
序盤の船外活動中に流れる「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」を不吉と咎めるくだりがあるが、奇遇なことに月面着陸捏造疑惑を描いたハリウッド映画『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』(24年)が今夏公開されるのも一興だ。
『THE MOON』
INTRODUCTION
「神と共に」シリーズを手掛けたキム・ヨンファ監督が完成させた、ハリウッド級のSF大作。月面の有人探査を叶えるべく、宇宙へ旅立った韓国の宇宙飛行士たちを描いている。
重大な危機に瀕しながらも、ミッション達成をたった一人で遂行する新人宇宙飛行士ソヌ役には、アジア全土で絶大な人気を誇るグループ「EXO」のメインボーカル、ド・ギョンスを抜擢。「神と共に」に続きキム・ヨンファ監督作で兵役後初の映画出演を果たした。
STORY
月面の有人探査を叶えるべく、3人のクルーを乗せた韓国の有人ロケット・ウリ号は宇宙へ旅立つ。しかし、不慮の事故により2人のクルーの命が失われる。新人宇宙飛行士ソヌ(ド・ギョンス)だけが生き残り、月面着陸に成功するが、さらに危機的な状況に陥ってしまう。はたしてソヌは無事帰還し、再び地球の大地を踏むことができるのか。
STAFF & CAST
監督:キム・ヨンファ/出演:ソル・ギョング、ド・ギョンス、キム・ヒエ/2023年/韓国/129分/配給:クロックワークス/7月5日公開
(松崎 健夫/週刊文春CINEMA 2024夏号)
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