岸田首相の政治責任に言及したが「どの口が言う?」と…菅前首相“究極のブーメラン発言”をふりかえる
文春オンライン / 2024年7月2日 6時0分
![岸田首相の政治責任に言及したが「どの口が言う?」と…菅前首相“究極のブーメラン発言”をふりかえる](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/bunshun/bunshun_71781_0-small.jpg)
©文藝春秋
おお、遂に菅さんが立ち上がったぞ!
『菅氏、首相の責任に言及 政治資金問題「総裁選で刷新感を」』(日本経済新聞6月24日)
自民党の菅義偉前首相は6月23日に「文藝春秋電子版」のオンライン番組に出演し、岸田首相の政治責任に言及した。党派閥の政治資金問題への対応がその要因だと強調したのである。
菅氏は昨年も月刊誌「文藝春秋」(2023年2月号)のインタビューで岸田首相批判をしていた。
《皆さんの中には、国民の声が政治に届きにくいと感じている方も多いと思います。》
素晴らしい! しかし一方で「どの口が言う?」とも思う。首相当時にあれだけ説明不足と言われた人が何を言っているのだろう。見えてくるのは「私怨」だ。3年前を振り返ろう。
やっていることは“怨念政治”
2021年8月末。支持率が著しく低下した菅首相は9月に予定される自民党総裁選に出るか注目されていた。菅氏では今後の選挙が戦えないと党内から言われていたからだ。そんな菅氏を尻目に早々に立候補を表明した岸田氏は自分が総裁になったら二階幹事長を再任しないという先制パンチを放った。菅氏はすぐさま岸田案をパクって二階外しを決断。総裁選を先送りして9月中に解散という奇策も選択肢に入れた。しかし万策尽きた菅氏は出馬断念に追い込まれ、岸田氏が総裁となった。
その後の菅氏はちょいちょい岸田批判を展開。昭和から取材をしているベテラン記者に聞くと「前の首相が今の首相を批判するなんて異例すぎる」と当時から呆れていた。令和を発表した菅さんだが、やっていることは昭和自民党の怨念政治そのものだと。たしかに今回の「岸田降ろし」も菅氏の怨念を感じる。
さらに気になるのは菅氏のブーメラン体質である。
「すがっち500」の衝撃
岸田首相の政治資金問題への対応を批判しているが、菅氏にも「カネ」の報道があった。昨年9月の中国新聞のスクープである。2019年の参院選広島選挙区を巡る買収事件で、検察が河井克行元法相の自宅から押収したメモがあった。それが、
「総理2800 すがっち500 幹事長3300 甘利100」
である。河井陣営に対して当時の安倍晋三首相が2800万円、二階俊博自民党幹事長が3300万円、菅義偉官房長官が500万円、甘利明党選挙対策委員長が100万円を現金で提供したとうかがわせる内容だった。注目は「すがっち500」だ。河井氏の“ボス”が菅義偉氏だったのだが裏では「すがっち」と呼ばれていたらしい。
菅氏は否定したが…
中国新聞の「500万円を提供したのか」という直撃に菅氏は「そんなことあるわけがない」と否定。しかし同じメモに出ていた甘利氏は河井氏へ100万円を渡したと認め「他の候補にも一律に持って行っている。(原資は)党からのお金」(中国新聞2月14日)と話した。
ここで重要なのは「裏金」と中国新聞が書いていたことだ。使途公開の義務がなく、事実上の裏金と指摘される自民党の「政策活動費」なのか、もしくは「官房機密費」なのか? 菅氏は当時の官房長官である。岸田首相に裏金問題をすべてかぶせる前にまず自分の説明が先だろう。ちなみに河井氏から「すがっち」と呼ばれていたことはあったのか? という中国新聞の質問には「それは知らない」と答えていた。すがっち、なんか切なかった。
菅氏のブーメラン体質は他にもある。持論の「派閥解消」を盾に派閥の裏金問題を批判しているが、果たして菅氏が無派閥というのは本当なのか?
“無派閥”の実態は?
旧統一教会問題では教団と関係の濃い議員が注目されたが、その名前をみるとある特徴にも気づいた。岸信介以来から教団と濃い関係があるという安倍派の議員が多いのはわかるが、実は「菅氏の子分や近い人たち」も教団との関係が目立つのである。教団の取材を続けてきた鈴木エイト氏の著作『自民党の統一教会汚染』(小学館)では実質「菅グループ」の国会議員は50人を超えると紹介し、菅原一秀、河井克行、山本ともひろのように菅氏と近くて統一教会と関係の深い議員にも注目している。
つまり「無派閥」を名乗る菅氏だが、自分が目をかける人間には派閥のリーダーのように振舞っていた。それが旧統一教会問題であぶり出された。これこそ菅氏の言う「派閥」の弊害そのものではなかったか?
菅氏のブーメラン体質の究極は、野党時代(2009~2012年)のブログだ。次の記事をご覧いただきたい。
『「二人羽織」「お答えを差し控える」「思い出づくり内閣」 菅首相を襲う“ブーメラン発言”』(毎日新聞2020年12月20日)
菅氏のブログを検証すると…
この記事は、毎日新聞の記者と一緒に私が菅氏の過去ブログを検証したものだ。たとえば12年4月の投稿にこうあった。当時、野田政権下の田中直紀防衛相の国会答弁を批判したもの。
〈答弁のたびに後ろに座る官僚の説明を受ける姿を「二人羽織」「千手観音」と揶揄される有様です〉
そのあと首相となった菅氏は国会の予算委員会などで、後方の秘書官が菅首相に助言する様子がたびたび目撃されている。まさにブーメラン。
野党時代はキレキレだった
そして注目すべきはこれ。菅氏は「お答えを差し控える」答弁を批判していたのだ。
〈「法務大臣は個別事案については答えを差し控える、法と根拠に基づいて適切にやっている、この二つだけ覚えておけば良い。この二つだけ言っておけば国会を乗り切れる」という旨の、全く不真面目で国民を冒涜する発言をしました〉
首相となった菅氏が「お答えを差し控える」を連発していたのは記憶に新しい。つまり「全く不真面目で国民を冒涜」していたわけである。それにしても野党時代の菅氏のツッコミはキレキレだった。その指摘は全く正しい。
菅氏は自民党全体への不信を党内政局にすり替えて岸田氏への怨念をぶつけている暇があるなら、まずは野党時代のご自分のブログを読んでみたらどうだろう? よっぽど政治改革につながると思うのです。
(プチ鹿島)
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