「1つは努力して完済、2つ目は破産、そして3つ目は…」“借金で首が回らなくなった人”の末路
文春オンライン / 2024年7月5日 17時0分
![「1つは努力して完済、2つ目は破産、そして3つ目は…」“借金で首が回らなくなった人”の末路](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/bunshun/bunshun_71790_0-small.jpg)
借金で首が回らなくなった人に残された「最後の選択肢」とは…。写真はイメージ ©getty
〈 「スマホ料金の遅延」は絶対NG…【ローンで審査落ちする人・しない人】のたった1つの違い 〉から続く
「借金で首が回らなくなった人の結末には、大きく分けて3つある。1つ目はなんとか努力して完済する人、2つ目が弁護士や特定調停を頼って債務整理や破産申立てをする人、そして…」。首が回らなくなった人の末路を、消費者金融業界で20年間働き続けた、加原井末路氏の新刊『 消費者金融ずるずる日記 』(三五館シンシャ)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/ 後編 を読む)
◆◆◆
借金で首が回らなくなった人の「3つの結末」
借金で首が回らなくなった人の結末には、大きく分けて3つある。
1つ目はなんとか努力して完済する人、2つ目が弁護士や特定調停を頼って債務整理や破産申立てをする人、そして3つ目が逃げる人である。
この日、私は午後から7件の集金業務が入っているハードスケジュール。
1軒目、お宅に到着すると雑草ボウボウで、絵に描いたような債務者の家。インターホンを鳴らすも反応なし。玄関横が居間になっているようでそこを覗き込むと、誰かがコタツで横になっている。
「こんにちはー!」と声を張り上げるも、起きる様子がない。窓ガラスを叩くも反応なし。きっとほかの部屋に逃げ遅れたらしく、居間で「寝たふり作戦」のようだ。さすが熟練滞納者、われわれが部屋に上がり込むことまでしないのをよくわかって平然としている。そのとおりで、こうなると私はもうお手上げ。督促状をサッシ窓の隙間に入れて帰るしかない。
ツイていない日というのはあるもので、この日はこのあとも立て続けに不在。
日が暮れたのに1件も回収できぬまま、いよいよ最後の1軒となった。1日かけて回収ゼロでは、支店長に何を言われるかわからない。支店長の顔がちらつき、気が重くなる。
最後の訪問先・小久保さんの借金総額は他社を含めて300万円超。まず減っていくことはないと考えられるラインだ。デックに対しては元金50万円の借入れがそのまま残り、2カ月以上延滞しているのにくわえて、まったく連絡もつかない。正確に言えば、連絡がつかないのではなく、自宅の電話も携帯も料金未納で止められているため、連絡の取りようがないのだ。こういうお客は日中の訪問より、仕事から帰ってくる時間帯のほうが会える確率は上がる。私は日もとっぷりと暮れたころ、小久保さん宅前へとクルマを走らせた。
クルマから降り、まずは家全体を見渡す。敷地に入り、インターホンを押してみるが応答はない。というより人の気配が感じられない。郵便受けと一体型の玄関ポストには光熱費やその他の督促状と思われる請求書、チラシがギュウギュウ詰めに押し込まれている。
「こんばんは~!」と何度か大声で呼びかけるも応答もない。
「まさか、一家心中とかしてんじゃないだろうな」と良からぬ想像も頭をよぎる。
なんとなくドアノブに手をかけてみるとカチャッと音を立てて、ドアが開いた。
不吉な予感と怖いもの見たさで、私は「お邪魔します」と言いながら、家の中に足を踏み入れた。玄関に立つと、その家にはもうしばらく人が住んでいないことが空気感で伝わってくる。
私はやってはいけないことと承知しながらも、何かに導かれるように靴を脱いで、家の中に足を踏み入れた。リビングにはソファーやテレビが置かれたままになっていて、脱ぎ捨てられた衣類やゴミ、食器が放置されている。
あたりはすっかり暗くなり、電気も止められているため、はっきりとはわからないが、家族写真と思われるものが机に置かれている。手に取ってみると、写真には小学生くらいの女の子が写っている。
学芸会だろうか、体育館のような場所でお姫さまのコスチュームを着て、ニコニコとこちらにピースサインをしている。ちょうどうちの子どもたちと同じくらいの年齢だ。最初は怖いもの見たさで高揚していた私も、ここに暮らした一家の人生の悲しみに触れ、気分が沈んでいく。
さらに対面式キッチンにあるダイニングテーブルの椅子には、おそらく写真に写っている女の子のものであろうランドセルも置かれたままだ。この家には生活感が残っているが、生活の温度は感じられない。明らかに「夜逃げ」である。
小久保さんにも、この家を買ったとき、子どもが産まれたとき、家族ですごしたとき……たくさんの良い思い出もあっただろう。それがちょっとしたつまずきで、すべて失われる。
家具や家電だけでなく、ランドセルまで置いて逃げたときの心持ちはどんなものだったろう。そのとき女の子は何を思っただろう。逃げた先でどんな生活を送っているのだろう。写真の女の子に、娘と息子の顔が重なる。
夜逃げした人間の借金はどうなる?
人の「負の感情」がしみ込んだ場にたたずみ、虚しさとメランコリックな感情で私は耳鳴りと軽いめまいに襲われた。
壁に掛かっているカレンダーはこの家庭がいなくなったであろう1カ月前のまま……重苦しい感情がトグロを巻くこの家にこれ以上居続けるのに限界を感じ、私はその場をあとにした。
夜逃げや行方不明のお客は社内では「スキップ」と呼ばれ、本社に報告することになる。本社では法務課の管轄となり、住民票などをもとに居場所を継続調査するのだ。最終的に回収の見通しが立たない場合は、破産同様に「貸し倒れ」として処理される。
〈 「人生には救いがある」“借金総額50万のパチンコ好き”が一括返済できた「夢のある理由」 〉へ続く
(加原井 末路/Webオリジナル(外部転載))
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