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「人生には救いがある」“借金総額50万のパチンコ好き”が一括返済できた「夢のある理由」

文春オンライン / 2024年7月5日 17時0分

「人生には救いがある」“借金総額50万のパチンコ好き”が一括返済できた「夢のある理由」

借金をしてしまうほどの生粋のパチンコ好きはなぜ一括返済できたのか…? 写真はイメージ ©getty

〈 「1つは努力して完済、2つ目は破産、そして3つ目は…」“借金で首が回らなくなった人”の末路 〉から続く

「今まで悪かったね。都合ついたんで、まとめて払いに行くよ。明日行くんで、明日までの利息含めた支払い総額、教えてもらえる?」――パチンコがやめられず数十万の借金を抱えてしまった、新井さん。ところが、そんな彼からいきなり「一括返済」の提案が。返済が何度も遅れるほどルーズだった人間に何が? 消費者金融業界で20年間働き続けた、加原井末路氏の新刊『 消費者金融ずるずる日記 』(三五館シンシャ)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/ 前編 を読む)

◆◆◆

貸付金49万8000円の新井さん

 毎日が、延滞客の管理と督促。こうした日々をすごしているとふと思うことがある。

「この債務者たちは、永遠に借りては返してを繰り返す人生を送っていくのだろうか? そして、私も来年の今ごろも、再来年、5年後、10年後も、今日と同じことをしているのだろうか?」

 そんな気の迷いはすぐに日常の業務の中にかき消されていく。

 朝8時半、出社するとすぐにパソコンの端末を叩き、長期延滞者をリストアップする。本日、私が架電するのは2カ月オーバーの延滞者リストだ。このクラスになると5件に1件電話に出ればよいほうだ。ダメ元でスピーカーにして架電する。

「は~い。もしも~し」

 延滞者らしからぬ軽快な口調。このレベルの延滞者たちはたいていどんよりした口調のため、思わず違う人にかけ間違えたのかと、ナンバーディスプレイをリストと照合して確認する。「貸付金49万8000円、新井さん」、やはり間違いない。新井さんは、1~2カ月遅れの常連。電話をしても平気でパチンコ屋の音がバックに聞こえる状況で、「今、確変中だからかけ直す」と言ったきりなしのつぶてだったり、「支払いに行ったけど遅い時間でATMが閉まってた」などと子どもじみたウソを平気でつく人だ。

「『は~い』じゃないよ。支払いどうなってるの? 2カ月も溜めておいて、連絡もなしじゃ、一括返済の請求を出すよ」

 脅し文句で一発かますと、新井さんはあっさり「いいよ~」と言う。

 可哀想に、借金取りに追い詰められて、とうとう頭でもおかしくなったのか。

 そんなことを思っていると、「今まで悪かったね。都合ついたんで、まとめて払いに行くよ。明日行くんで、明日までの利息含めた支払い総額、教えてもらえる?」

 私は慌てて電卓を叩く。

 新井さんの貸付残高は元金が49万8000円。年利29.2%だから49万8000円×29.2%として、年で14万5416円。これを日割りで計算すると14万5416円÷365日で1日当たり398円の利息。前回返済日から60日経っているので、本日までの利息は398円×60日=2万3880円。元金49万8000円+利息2万3880円=52万1880円。

「52万1880円です」と敬語でお伝えし、受話器を置いた。

 あのパチンコ狂いの新井さんが一括返済? それを隣で聞いていた竹原さんも紙パックのマミーをぐびりと飲んで、「あのオヤジが一括返済? どこかの会社でまとめたんじゃねえのか?」。周囲もざわつきだす。

 新井さんのパチンコ好きは支店内でも有名。駅前にあるパチンコ店の常連で、開店前に並んでいる姿を、駅から通勤してくる同僚に何度も目撃されている。パチンコ好きは本人も公言しており、増額の審査で来店したときも、女性社員に「昨日も8万やられちまったけど、明日は7のつく日の新台入れ替えだから負ける理由がない。だからその前に10万増額したい」と堂々としたものだ。

 われわれ業者の本音を言えば、金利分だけ払い続けてもらうのが望ましい。一括返済されては、貸付残高がなくなる=利息収入も消えるからである。それでも払わないよりはマシ。

 翌日、店頭で待っていると、新井さん本人が奥さんとともに来店。入ってきたときの様子も、以前、延滞中のカウンセリングで店頭に呼びつけたときとは雲泥の差だ。あのときは姿勢を低くしたまま小走りで席に着き、ハンカチで汗を拭きながらこちらの目も見ずに縮こまり、「はい、はい、すいません」の連呼だったのが、今日はゆったり堂々としたものである。

 デックU支店では、お客が席に着くとドリンクメニューを差し出し、飲み物を提供するのだが、延滞客の場合、そんなものをゆっくり見て選ぶ余裕はない。ところが、今日の新井さんは違う。ドリンクメニューを眺めながら、「ど~れ、今日は寒いから温かいものをいただこうかなぁ」とホットコーヒーを注文。

 そして、53万円をカウンターに置き、「数えてみて」と差し出す。お金を数え、お釣りを渡し、完済処理を済ませた私が尋ねる。

「新井さん、契約どうしますか。解約にしますか、それともまたいつでも使えるように完済処理だけして契約はそのままにしておきますか?」

「もう使うことはないと思うけど、解約しちゃうとキミらの成績にも響くだろうから、そのままでいいよ」

「ありがとうございます」

 私は初めて新井さんに頭を下げることとなった。

いきなり借金返済できた理由

 完済の場合はお客にその理由を聞くことになっている。

「今回の完済というのは、当社で何か不都合がございましたか?」

「不都合どころじゃないよ。追い込まれて散々な目に遭ったからな。まぁ、それは冗談だけど」

 実際のところ本音だろうが、そんなことを言いながらも目は笑っている。人はお金に余裕ができると心にも余裕が出てくるのだ。今回の完済が、他社で一本化したからかどうかは確認しておきたいところでもあった。

「今回のお金、会社からのボーナスとかですか?」

 書類を整理しながら、サラッと聞いてみると、

「いや、みにろとで……」

 新井さんがそう言うやいなや、隣にいる奥さんがさえぎった。

「お父さん! 何言ってるの!」

 新井さんも口を滑らせたと思ったのか、「いや、これから他社へも返しに行かなくちゃいけないからね。それじゃ、お世話さまだったね」などと早々に話を切り上げて、出て行った。

「みにろとで」……新井さんが口にした暗号のような言葉を反芻する。みにろと、ミニろと、ミニロト……きっとミニロトだ。

 ミニロトなら私もたまにやるが、2等だとせいぜい十数万円程度のはず。それなら多重債務者である新井さんがすべての貸付を完済できるはずがない。となれば当たったのは1等の1000万円超ということになる。

「ふだんの行ないなんか関係ねえな」

 新井さんの話を同僚にすると、店内が大騒ぎになった。

「高額当選者なんて身近で初めて聞いたな」「でも本当に当たるもんなんだな」「ふだんの行ないなんか関係ねえな。あんなパチンカスの欲望まみれの人間が当たっちゃうんだからさ」

 たしかに私もそう思う。因果応報という言葉があるが、今回の件はどう見ても「因」と「果」のバランスがおかしすぎる。やむをえない事情でお金を借り、生活費を切り詰めて仕事を掛け持ちしながら必死に返済している人もいれば、朝から晩までパチンコに明け暮れ、延滞しても知らんぷりだった新井さんがミニロトで救われるという結末。

 ただ、新井さんは私の前で「ミニロトが当たった」などと口を滑らせてしまう憎めないキャラクターでもある。神さまはそういう正直さに味方したのか。

 でも、新井さんは泡銭をすぐ使い切るだろう。そして、契約は残したままなので、デックのカードはいつでも使える。1~2年、いや半年もすれば、カードからお金を引き出している可能性は大きい。新井さんはきっとここへ戻ってくる。

(加原井 末路/Webオリジナル(外部転載))

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