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「来春のサクラが咲くのを見ることはできない」経済アナリスト・森永卓郎(66)が「余命4ヶ月、ステージ4のがん」を受け入れるまで

文春オンライン / 2024年7月4日 11時0分

「来春のサクラが咲くのを見ることはできない」経済アナリスト・森永卓郎(66)が「余命4ヶ月、ステージ4のがん」を受け入れるまで

余命4ヶ月を通告されて、森永卓郎さんはどう変わったのか…? ©時事通信社

 医師から通告されたのは余命4ヶ月、ステージ4のがん…。66歳で難病と戦うことを余儀なくされた経済アナリストの森永卓郎さん。なぜ病魔の存在に気づけなかったのか? そして余命通告はその後の生き方をどう変えたのか? 新刊『 がん闘病日記 』(三五館シンシャ)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/ 後編 を読む)

◆◆◆

晴天の霹靂

「来春のサクラが咲くのを見ることはできないと思いますよ」

 医師からそう告げられたのは、2023年11月8日のことだった。余命4カ月の通告だった。

 それまで私は、数カ月に一度のペースで、近所の糖尿病専門クリニックに通って、定期検査を受けていた。糖尿病自体は、ライザップで行なった低糖質ダイエットの成果で、7年も前に完治していたのだが、念には念を入れて、検査だけはずっと続けていたのだ。

 その検査で、糖尿病の主治医が「一度、人間ドックを受けたほうがよい」というアドバイスをしてくれた。私の体重が、平時よりも5キロほど減っていたからだ。

 当時、私は仕事が集中していて、全国を飛び回っている状況だったから、体重減は過労が原因なのかなと思っていたのだが、主治医から強く勧められたので、人間ドックを受診することにしたのだ。

 冒頭のセリフは、人間ドックで行なわれたCT検査で撮影した私の体内画像を見ながら、家の近くの病院の医師が発した言葉だった。

 CT(Computed Tomography)検査は、円筒形の装置のなかに体を滑り込ませ、周囲からX線をあて、体の中の吸収率の違いをコンピュータで処理し、体の断面を画像にするものだ。縦方向にも、横方向にも、連続的に体内の断面画像を表示できる仕組みだ。

 撮影された画像には、肝動脈(肝臓に血液を送る血管)の周囲にモヤモヤの影が映っていた。医師の見立ては、それががんから浸潤してできたもので、すでに原発のがんから転移しているので、ステージIVということになる。末期がんだというのだ。

 私はにわかには信じられなかった。何しろ、なんの自覚症状もない。朝から晩までフル稼働で仕事をして、食事もモリモリ食べていた。ただ、事態は一刻を争うということで、翌日の11月9日から徹底的な検診を行なうことになった。血液検査、レントゲン、心電図、造影CT(薬剤を投与して、より詳しいCT画像を撮影する)、PET検査、そして内視鏡検査などだ。

 PET検査という言葉には馴染みがないかもしれない。PETというのは、Positron Emission Tomographyの頭文字を取ったもので、まず、検査を受ける人の静脈にFDGと呼ばれる放射性フッ素を付加したブドウ糖を注射する。そして、細胞に取り込まれたブドウ糖量の分布を画像化するのだ。

 がん細胞の最大の好物は糖分だ。だから、がん細胞は糖分が体に入ってくると、積極的に取り込む。その際、放射性フッ素も一緒に取り込んでしまう。その後、放射性物質に反応する特殊なカメラで撮影すると、がん細胞が集まっているところが光って見えるという仕掛けだ。

 PET検査では、全身を撮影できる。つまり、すべての臓器の状況を見ることができるのだが、私の検査結果で、光って見えたのは胃とすい臓だけだった。

 胃は強く光り、すい臓はそれよりずっと弱く光り、その他の臓器は、まったく光っていなかった。胃に関しては、もともと食物を消化する臓器なので、がんでなくても光りやすい傾向があるという。いずれにしても、がんの本体は、胃がんか、すい臓がんのどちらかだというのが、PET検査の結果だった。そこで内視鏡検査の際に、胃の組織を採取して、生体検査に回したのだが、がんは見つからなかった。

 胃がんかすい臓がんの2つの候補があって、胃がんの可能性は低い。となると、消去法ですい臓がんということになる。

 その推定に私は納得がいかなかった。理由は2つあって、ひとつはCT検査の画像を見た医師が、「すい臓はきれいなんだけどな」と言っていたことだ。

 もちろん私も画像を見ていたのだが、たしかにがんに冒されて変形している様子はないし、病変も一切なかった。もうひとつの理由は、血液検査で、すい臓がんに反応する腫瘍マーカーの数値がほとんど上がっていなかったことだ。

 そこで医師と相談のうえ、近くの大学病院で、再度精密検査をすることになった。12月15日のことだ。検査の中心は、超音波内視鏡の検査だ。

 超音波内視鏡というのは、文字どおり超音波装置をともなった内視鏡を使った検査で、5~30MHzという高い周波数の超音波を発生させて、高い解像度の観察を可能にする内視鏡だ。この内視鏡によって臓器の組織内部や周囲の臓器、血管、リンパ節なども見ることができる。また、病理検査のために、超音波内視鏡に取り付けた穿刺を用いて、細胞を採取することも可能だ。そのことで、表面からではわからない粘膜の下に隠れた腫瘍も調べることができるのだ。

 私の場合、胃の深いところ、さらにもっとも深いところからも組織を採取して、生体検査に回したのだが、がんはまったく検出されなかった。胃がんの可能性はほぼ消えたのだ。

 一方、すい臓からは、組織採取をしなかった。私自身は、全身麻酔で眠っていたのだが、医師の判断で採取を止めたという。ひとつは、超音波内視鏡で丁寧に観察しても、すい臓に病変が一切見当たらなかったこと、そしてすい臓から穿刺で組織を採取すると、そのことが原因で、膵炎を起こしてしまうリスクがあることだった。

医師が下した診断は「すい臓がんステージ4」

 結局、がんの本体がどこにあるのか不明というのが、精密検査の結論だったのだが、病院の医師が下した診断は「すい臓がんステージ4」というものだった。

 徹底的な胃の検査で、胃がんの可能性はほとんどない。だから、すい臓のどこかに、超音波内視鏡にも映らないがんが隠れているのだろうということだった。ふつうは、検査をすると、どこにがんの本体があるのか判明するのだが、がん本体がすっかり隠れてしまう非常に珍しいケースだというのだ。

 私は性格的に疑り深いので、その結論を受け入れてよいのか、迷っていた。

 そこにラジオで何度も共演した医師からアドバイスがあった。彼が勤務する東京の病院にがん診断の名医がいる。その医師にCT画像を見せ、これまでの検査結果のデータを示せば、がんの正体がわかるはずだという。

 12月18日、私は妻と一緒に東京の病院を訪れ、セカンドオピニオンの診断を聞いた。

 驚くことに、結論は、近くの病院の医師の診断とまったく同じだった。すい臓がんのステージ4だ。私のなかでは、この日をもってステージ4のすい臓がんが確定した。

 だから、これまでも12月18日をがん宣告を受けた日として公言してきた。

 正直言うと、それでも私は納得していなかった。その後、がん治療を専門にしている病院で名医と呼ばれている医師にサードオピニオンを求めた。もっとも、そのときは私の体調がよくなかったので、妻がデータを持って、診断を仰いできた。結論は、またもや、すい臓がんのステージIVだった。

 3人の医師が口をそろえて同じことを言う。しかも、そのうち2人はがん診断の名医といわれる人だ。もはや素人の私があらがう理由はない。私はすい臓がんのステージ4を受け入れることにした。その決断が、私の体に大きな衝撃を与えようとは、そのときは夢にも思っていなかった。

〈 「三途の川が、はっきりと見えた」1日の食事は“イチゴ3粒”だけ…余命4ヶ月・森永卓郎(66)が苦悩した「がん治療」のリアル 〉へ続く

(森永 卓郎/Webオリジナル(外部転載))

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