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「僕はそこ(大谷翔平)に並べるような“バレーボール選手の髙橋藍”になりたい」パリ五輪の若きエース22歳の“劇的な進化”のワケ

文春オンライン / 2024年7月8日 11時0分

「僕はそこ(大谷翔平)に並べるような“バレーボール選手の髙橋藍”になりたい」パリ五輪の若きエース22歳の“劇的な進化”のワケ

日本代表の髙橋藍選手

 バレーボールネーションズリーグで銀メダルを獲得した男子日本代表。パリ五輪の組み合わせ抽選が行われ、男子日本代表はグループCでアメリカ合衆国代表、アルゼンチン代表、ドイツ代表と予選ラウンドを戦うこととなった。

 52年ぶりのメダル獲得を目指す、史上最強といわれる日本代表の中で原動力ともなっている若きエース髙橋藍の秘話を『 日本男子バレー 勇者たちの軌跡 』(田中夕子著/文藝春秋)より抜粋して紹介します。(全2回の1回目/ 続き を読む)

◆◆◆

イタリアだと身長だけで評価されることもある

 東山高のトレーニングルームでも、日体大の一員として躍動した試合でも、日本代表のユニフォームをまとうようになっても。立場や環境が変わっても、いつも髙橋の心の中には「もっとこうなりたい」「もっとこうしたい」という向上心があった。

 単身イタリアへ渡ってからも同じ。パドヴァで過ごした2年目のシーズンには、開幕から堂々とスタメンを勝ち取り、攻守両面で欠かせぬ存在へと成長した。しかし、好調なプレーを見せていたにもかかわらず、リーグ中盤から後半にかけベンチスタートの機会が増えた。髙橋は「選手起用は監督が決めること」と言いながらも、少し不服そうな顔でぼやいていた。

「イタリアにいると、やっぱりまだ、単純に身長だけで評価されるところもあるんです。たとえば相手チームのオポジットが220センチとか、そういう選手とマッチアップすることになると、僕より高さがある選手に代えられる(髙橋は188センチ)。

 でも、じゃあ試合の中で俺のブロックがそんなに機能しないか、と言えば、触るところは触っているし、後ろと連携できれば自分では全然通用すると思っているんです。

 むしろタッチして、ボールがつながったのにレシーバーが拾いに行かずに諦めたりしているのを見ると、おい、って(笑)。高さが、って言う前にもっと徹底することあるやろ、って思うし、腹立つこともありますよ。でもそういうのも全部含めて、いかに黙らせるか、って世界ですから」

海外に行って思い知ったこと

 会えば笑顔で「大変っすよ」と言いながらも、今、取り組んでいることや見据える目標をよどみなく語ってくれる。コミュニケーション能力は高く、発する言葉も常にポジティブだ。大学生ながら難題も涼しい顔で乗り越え、簡単にステップアップしているようにすら見える。だが、それは錯覚に過ぎない。貪欲に突き進み、何度ももがきながら壁を乗り越えてきた時間でもある。

「今までは、監督やコーチに言われることに対して何でも『はい、はい』と言うだけ、言われた通り実行するだけでした。でも海外に行って、自分がどうプレーしたいのか。そもそもお前のプレースタイルは何か。イメージで描くだけでなく、それを言語化して、体現しないと通用しないというのを思い知ったんです。

 トス一つとってもそう。いろいろな人の意見を聞いて、全部取り込んでいいものを探していこう、と思ってやってきたんですけど、イタリアに来て言われたのは『もっと自分が欲しいトスをコールしろ』と。何でもオッケー、オッケーではなく、このトスをここでくれ、と主張して、ぶつかり合って強くなる世界だから当然ですよね」

やらずに後悔するよりも、やって後悔するほうがいい

 器用で、技術もある。だが、これから戦おうとしているのは、それだけで乗り切れる世界ではない。自分はどんな人間で、何を欲するのか。伝え、実践するのも自分自身。それ以上の証明はない、と気づかされてきた。

「言われたことをやるだけ、やろうと思ってもやらずに終えたら絶対後悔すると思ったんです。だったら、多少ワガママでも自分を通したい。納得いくまで、やってやろう、と思いました」

 やらずに後悔するよりも、やって後悔するほうがいい。日めくりカレンダーの一節になりそうな言葉を胸に深く刻みこんだシーンがある。

 2022年の夏、スロベニアとポーランドで開催された世界選手権の決勝トーナメント初戦、フルセットまでもつれたフランス戦だ。

少し不運な幕切れでの髙橋の迷い

 互いが2セットずつを取り合って迎えた最終セット。セッターの関田は、前衛レフトの髙橋に立て続けにトスを上げた。2本続けて決めて2対0。フランスも1点を返したが、直後にハイセットを髙橋が決め3対1。さらにサーブで崩したラリーを西田が決め4対1。15点先取の最終セットで、いきなり3点もリードし、勝利を大きく手繰り寄せたかに思われた。

 ただ、相手は世界の強豪。ましてやフランスは前年の東京五輪で金メダルを獲得した相手だ。確率論をぶち壊すかのように、中盤と終盤に連続得点を重ね、あっという間に逆転された。日本も負けじと踏ん張り、 14対14のデュースに持ちこむと、相手のミスも手伝いマッチポイントを握った。しかし、あと1点が取り切れなかった。

 崖っぷちに追い込まれたはずの王者は息を吹き返し、日本は僅差の攻防の末に16対18で敗れた。最後の1点はフランスの大エース、イアルヴァン・ヌガペトが日本の2枚ブロックに屈することなく、叩きつけた痛快な一撃だった。その前に、決してキレイではなかった返球がたまたまセッターのもとに返るという、日本にとっては少し不運な幕切れ。ただ、実はこの瞬間、ブロックに跳ぶか、レシーブに入るか。髙橋には迷いが生じていた。

「フランスのセッターにボールが返った時、前衛にガペ(ヌガペト)がいた。絶対に打ってくる。しかも、間違いなくインナーに打ってくる、とわかったんです。だけど、そこで自分もブロックに行っていいのか、それとも空いたスペースに落とされるんじゃないか、と迷ってしまった。

 結果的には、想像通り、絶対にここへ打つというところに打たれて決まった。負けた瞬間に思ったのは、負けた、悔しい、じゃなくて『あー、(ブロックに)行けばよかった』。やらなくて後悔が残ることがこんなに悔しいんだ、って改めて実感したんです。同じことは絶対に繰り返したくないと思うし、そうならなきゃダメですよね」

子どもたちの夢でありたい

 かつて10代の石川が己の道を貫いてきたように、自分が強くなるために最善だと信じる道を進んできた。 

 現役大学生でありながら、世界最高峰のイタリアリーグで戦う。その選択を、一人のバレーボール選手として称賛する声もあれば、学生ならば学生の本分を……と否定する人もいる。そもそも全員が賛同してくれることなどありえないと承知のうえで海を渡った。髙橋にはたとえワガママだと捉えられてもそれを貫きたい理由がある。

「今、バレーボールをしている子どもたちの夢でありたいんです。好きなバレーボールをして、うまくなって、将来バレーボール選手になりたいと考えた時に海外という選択肢があってほしい。その道をつくること自体が大切なこと。僕も祐希さんがいなければできなかったかもしれない。

 日本代表選手というのは、それだけ影響力があり、夢を与えられる存在。しかも、それができる選手って限られていると思うんです。今、『日本のスポーツ選手といえば?』と聞いたら、たぶんダントツで大谷翔平選手じゃないですか。でも僕はそこに並べるような、“バレーボール選手の髙橋藍”になりたい。

 そのためにはイタリアで頑張ることはもちろんだし、そこで得たものを、たくさんの人に見てもらえる日本代表の戦いで発揮したい。僕は日本が勝つために強くなるし、強くなることがすべて。見てろよって思うと楽しいんです」

石川が肩を並べて共に戦う存在になった

 春高で初めて注目を浴びた頃。日本代表に選出されてから飛躍的な成長を遂げ、東京五輪に出場した頃。「すごい選手だ」と騒がれながらも、髙橋を語る時は必ず「次世代の」や「若き天才」といった類のフレーズがついてきた。

 だが、 18歳から22歳になった髙橋に余分な枕詞はもう必要ない。今や、日本代表にとって不可欠な存在であることに誰も異論はない。

 高校時代は憧れ、目を輝かせながら、同じ練習をして追いつき、いつかそれ以上の自分になって追い越そうと、その背を見ながら走り続けてきた。そんな石川に対しても「あそこは自分に上げてほしかった」と、不満をストレートにぶつけられるようになった。

 見上げるのでも、追いかけるのでもなく、肩を並べて共に戦う存在になった。イタリアでは互いにトップ選手同士として、プライドをかけて戦う。もちろん、石川だけでなく、世界中の至るところに超えるべき選手は数えきれないほどいる。そのすべてが、髙橋にとっては望んで求める成長の糧だ。

うまくいかなかったらまた挽回すればいい

 子どもの頃に描いた「オリンピックに出場する」という夢は、現実になった。春高でも優勝し、10代で日本代表に選出されるという、幼い頃には考えもしなかった未来を、今、生きている。

「子どもの頃に描いた自分は越えていますね。もちろん『オリンピックでメダル』は、まだこれからの話ですけど、壁にぶつかればぶつかっただけ、また強くなって、自信をつけられると思うし、そのイメージしかないです」

 叩きのめされることもあるかもしれない。激昂することもあるかもしれない。プラスばかりでない、想像を超えるような出来事に巡り合うかもしれない。

 それでも――。

「いつも言い聞かせているんですよ。自分に対して『俺はやれる』って。どんな状況でも、くよくよしたってしょうがない。うまくいかなかったらまた挽回すればいいし、やり返せばいい。この世界、やればいいだけですから」

 だから、俺に上げろ。爽やかな笑顔で、バレーボールに邁進する選手と侮るなかれ。衝突、上等。必要なら、怒りも上等。

 髙橋にとって、そのすべてが強くなるためのエネルギーだ。

写真=末永裕樹/文藝春秋

〈 「一番怖かった。あの時だけは、ヤバいって思いました」男子バレー日本代表の主将・石川祐希が、コートで見せた“初めての姿” 〉へ続く

(田中 夕子/Webオリジナル(外部転載))

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