足を引きずって歩いていた93歳女性がキックボクシングに目覚める!? 元プロ主催のジムに通いはじめた“まさかのきっかけ”とは…「強烈な蹴りはできないですよ(笑)」
文春オンライン / 2024年7月17日 6時0分
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川崎榮子さん
小田急線豪徳寺駅から歩いていると、3分もしないうちに、「バシッ」という小気味いい音が聞こえてきた。キックがミットを捉える音だ。
キックボクシングジム「 PEACE PACE 」。併設された整骨院「PALLEDO」とともに株式会社PALLEDOが経営している同ジムには、「70歳以上」を対象とした、珍しいシニア向けコース(月額3300円)がある。SNSでは90歳を超える高齢者がエクササイズする動画がアップされ、話題を呼んだことも。
ここでは、93歳のジム生・川崎榮子さんへのインタビューを紹介。ライフステージが進んでからの運動と健康、日常生活における楽しみの見つけ方を考える。
◆◆◆
90歳手前でのジムデビュー
壁にはミットがかけられ、サンドバッグが宙吊りにされている。使い込まれたものはそれなりの傷みがあり、練習の痕跡を感じさせる。正真正銘のキックボクシングジムだ。
筆者の前に現れたのは、93歳の川崎榮子さん。
シンプルな服装に姿勢の良さが映える。かくしゃくとしたご婦人だ。会釈をすると、「昔からあまりしゃべるのが得意じゃなくて、無口と言われてきたものですから」と照れた。
川崎さんが「PEACE PACE」を訪れたのは4年ほど前。きっかけはお孫さんの紹介だった。
「夫は他界していますが、娘とその子どもが気にかけてくれて、しばしば一緒に出掛けています。あるとき、いつものように一緒に買い物へ行くと、孫が私の歩き方が気になるというんです。確かに、90歳手前くらいから、右足を引きずって歩くようになっていました」
歩きづらさはあったが、病院で検査などをして重篤な病気などがないことは確認していたという。
「『良さそうなところがあるから』という孫に連れてこられて、整骨院『PALLEDO』にお邪魔したのが最初でした。はじめのうちは施術だけを受けて、徐々に歩き方のぎこちなさが和らいだころ、ちょっとした運動になればとこちらのジムにお世話になることにしました」
高齢者がキックボクシングと聞くとイメージのギャップに驚くが、川崎さんは穏やかに笑ってこう言う。
強烈な蹴りはできないですよ(笑)
「キックボクシングというと、強烈な蹴りをイメージするかもしれませんが、そんなことはできないですよ(笑)。あくまで日常の運動のために来ています。蹴りの威力がどうのという話ではなくて、私にとっては、週に1回来る場所があるというのがありがたいんです。それに、生井(宏樹)先生とお話をすることで、家族以外と話す機会もあるでしょう。やはりそういう時間は楽しいですよね。
若い頃は、運動の習慣はありませんでした。私が小学生のころに第2次世界大戦がはじまって、東京で暮らしていた家族は愛知県へ疎開しました。戦争のバタバタで、何か決まった部活動をやるとか、そういうのはなかったですね」
事業を興し成功を収めた父のもと、川崎さんは不自由なく育った。だが、高校生になるころ、父は他界。ほぼ決まっていた大学進学も諦めた。これまでの人生を振り返り、現在地をこんな風に俯瞰する。
「たとえば幼いころ、自宅には割合大きな書棚があって、はしごをかけて登ってそこで読書をするのが趣味でした。しかし今は目が悪くなってしまって、あまり読むことができません。振り返れば、女学校時代にピアノがやりたかったけどいろんな情勢の混乱で先延ばしにしていくうちに結局やらなかったなぁとか、ちょっとした心残りはありますね。
ただ、今はこうして運動ができることに感謝しています。この年で運動できるというのは、身体が健康であることはもちろん、家族や周囲の理解があるからです。自由にやりたいことをさせてもらえている環境は本当にありがたいと感じますね」
最後に、笑顔でミットにキックをいれる川崎さんへ、今後の展望について話を伺った。
「少し前まで右足を引きずりながら歩いていたのに、今は自分の体重を支えてキックをすることができます。未経験だった運動も好きになりました。そうした変化は素直に嬉しく思います。でも、欲はかかないことにしているんです。『これからこうなりたい』というイメージがあるわけじゃなくて、自然体で、今のままずっと続けられたらいいなと思っています」
◆◆◆
健康維持、そして、人生の新たな楽しみにもつながったキックボクシング。しかし、いったいなぜ町の整骨院は高齢者に向けたクラスを指導するようになったのだろう。そこには生井氏のスポーツマンとしてのキャリア、そして、ふいにかけられたある一言がきっかけになったのだという。
〈 〈SNSで大バズリ〉金髪&ヒゲの元日本ランカーが“高齢者向けトレーニング”を始めた“意外な理由”「考えたこともなかったんですが…」 〉へ続く
(黒島 暁生)
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