「『ジョーズ』の一番怖いシーンは?」手塚眞監督(62)がスピルバーグの名作から学んだ“恐怖の演出術”《死んだ漁師さんの顔が…》
文春オンライン / 2024年8月2日 6時0分
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©藍河兼一
〈 描いた絵コンテは数百枚――成蹊高校映画研究部2年で初の8ミリ作品『FANTASTIC★PARTY』で手塚眞監督が経験したこと 〉から続く
ハリウッド的なエンタメ作品とヨーロッパ的なアートフィルムはどちらも映画として正しい。両者のせめぎ合いが常に自分の中にある――日本映画界の「青春時代」をたどるインタビューシリーズ第3弾。(全4回の2回目/ #1 、 #3 、 #4 を読む)
◆◆◆
アートフィルムとして作った『UNK』
―― 『FANTASTIC★PARTY』の後、3年になってからは映研から離れて、個人的な映画作りを始めましたね。
手塚 うちのサークルのルールが、3年に上がったら受験勉強もあるし、あとは2年生に譲るというもので。だから、次の年は小中さんたちの代に任せました。ぴあ(ぴあフィルムフェスティバル=PFF)に出した『UNK』という短編があるんですけど、実は『FANTASTIC★PARTY』よりも前に作り始めていたんです。途中までちょっと特撮とかを撮って、中断して『FANTASTIC★PARTY』に入っていた。個人で何か表現したいという気持ちは元から強かったんです。
―― 個人で作る時は全部1人でやる感じですよね。
手塚 基本は1人で。出演者は必要になるので、同じ学校の中で身近にいる人に出てもらって。『UNK』は本当に漠然としたイメージから始まって、明確な1本のストーリーを作らないでイメージで作っていって、最後まで脚本はほとんどなかったんですね。ザックリとした構成だけあって、撮りながら考えていくとか、撮った後に編集でどうするか考える。これは今に至る自分のアートフィルムと全く変わらない。即興的に撮ったものを編集で映画にするという、そういうやり方です。『UNK』はUFOの映画ですね。つい最近、その頃のことを書き留めたノートが出てきて。
―― 書き留めていたんですね。
手塚 それを読んだら、『未知との遭遇』を見る前に作り始めていますね。
―― そうなんですか。
手塚 空飛ぶ円盤が踏切待ちをしたらという、まるで『未知との遭遇』を見たかのようなことを考えて、それで『未知との遭遇』を見にいったら、仰天したと書いてあるんです。だったら『未知との遭遇』に対するオマージュだな、みたいになっていくんですけど。最初は男の人がUFOに追いかけられてみたいなことを考えていたんだけど、『FANTASTIC★PARTY』というドラマを作ったから、ドラマではないやり方にしよう、イメージ的に作っていこうということで、女性に変えて、山本奈津子(注1)さんに出てもらって。
ハリウッド的な、スピルバーグ的な演出のものと、ヨーロッパのアートフィルム。これは自分の中でせめぎ合いが常にあるんですよ。どうやったら融合できるのかなと自分の中で思っているんです。どっちも自分の中では映画的に正しいと。一緒になるとどうなるんだろうという感じなんですよね。
―― 確かに『UNK』には両方の匂いがありますよね。
ホラー映画の習作『HIGH-SCHOOL-TERROR』
――『HIGH-SCHOOL-TERROR』はストーリーがあって分かりやすいですね。
手塚 『HIGH-SCHOOL-TERROR』は、ホラー映画の習作を作ろうとした。シナリオと絵コンテがきちんとある。これは学校の教室の話だから、授業中にずっと教室を見ながら、どこにカメラを置いてどうしようかと、すごく考えて。撮影前に教室でカメラを持って1人でアングルとかを全部決めているんです。丁寧にカット割りを考えて計算の上でやったんですね。その前にスピルバーグやヒッチコックの映画ももう見ているので、その考え方を盛り込んでいくと、こういう形だったらできるんじゃないかと、本当に計算で作った映画です。放課後に2日間で撮って。小中さんにも出演してもらいました。
―― 僕が演じたお化けの役って、ピンポン玉を2つに切って目にはめているだけなんだけど、それが非常に効果的で怖かったですね。
手塚 一番計算したのは、どこで音を入れるかというタイミング。普通だったらお化けが出た瞬間に怖い音を入れるんですけど、ほんのちょっと遅らせたんですね。これは『ジョーズ』で覚えたんです。『ジョーズ』で一番怖いシーンは、船の底から死んだ漁師さんの顔がヌッと出てくるところで、あそこを分析したら、音が遅いんですね。
―― そうですか。
手塚 後で知ったんだけど。あそこでどのタイミングで音を入れるかって、編集と音のタイミングを何パターンも作って、プレビューでお客さんに見せて、一番反応のよかったのを選んだってスピルバーグの伝記で読みましたけど、やっぱり検証しているんですね。怖い顔が出た瞬間に音を入れないんですよ。一歩遅らせてガッと入れるんですね。画でドキッとさせて、ビックリした瞬間に音を入れると、相乗効果が出るんです。
―― リチャード・ドレイファスが驚いてボコボコッとなる時に鳴っているんですね。
手塚 そうなんです。これはブライアン・デ・パルマ監督の『キャリー』の最後に地面から手が出てくるところも同じなんです。『キャリー』も、手が出た瞬間には大きな音は入ってなくて、(手がエイミー・アーヴィングの手を)つかんだ瞬間からガーンと音楽を出すんです。下手な演出の映画は先に音を出しちゃう。そうすると、音でビックリするから、それは怖さじゃなくて、ただの条件反射の驚きなんですね。そうじゃなくて、視覚的に怖いと思った後に音がグッと入ると、これはダブルショックになるんです。そうすると悲鳴につながるんです。案の定、それでみんなワッとなった。だから、それは本当に計算をした感じですね。
でも、逆に言うと計算通りの結果でしかない。特別新しさもなければ、そこで個性は出せないんだということに気づいた。だから、あんまりそっちには行かなくなりました。その後『お茶の子博士のホラーシアター』というテレビの番組でホラーをやるんだけど、同じことはやりたくなくなっていくんです。だから、ちょっとずつずらしていっちゃう。
情報誌『ぴあ』から広がった映画仲間
―― 『お茶の子博士』は日大芸術学部に進学してからですね。日芸に進学したのは、プロになろうと決めていたからですか?
手塚 映画はやっていきたかったけど、プロになるために何かやろうという考え方はあまりしてなくて。それよりも、まずもう一本ちゃんと作りたい。『FANTASTIC★PARTY』はあまりうまくできなかったと自分では思っていて、その後の作品は習作的なものなので、もう一本きちんと作ってみたいという気持ちが強くて。受験の間に書いた『MOMENT』の脚本は、最初は「ポッキーの一番長い日」というタイトルで、ほとんど一晩で書いた。その時にはもう映画作りの仲間ができていたんです。今関あきよし(注2)さんや小林弘利(注3)さんとか。そういう人たちに見せて、「大学に入れたらこれを作るので、皆さん手伝ってください」という話をして。
―― 今関さんたちは『ぴあ』を見て『FANTASTIC★PARTY』を上映する文化祭に来たんですよね。
手塚 高校生でも『ぴあ』の自主上映欄に上映情報を載せることができたんです。今関さんたちがそれを見て、題名を気に入って来てくれた。彼らは自分たちの映画と一緒に上映する映画を探していた。見終わったらすごい喜んで、「ぜひとも一緒にやりましょう」と言ってくれたので、こっちもそれで舞い上がって、という感じでした。
―― 今関さんたちが『ボーイハント』という自分たちの映画と『FANTASTIC★PARTY』の上映を一緒にやろうと言い出して、1年間ぐらいやりましたっけ。
手塚 2年ぐらいやったと思います。
―― ずっとやってましたよね。としま区民センターで。
手塚 そうですね。今度は一般のお客さんでお金も払って来ている人たちにそこで作品を見せるということの重要性、そこでも勉強したような気がするんです。
注1 山本奈津子 成蹊高校映画研究部で小中と同期。「TURN POINT10:40」(1979)主演。日活の女優は同姓同名の別人。
注2 今関あきよし 映画監督。『ORANGING’79』でPFF入選。『アイコ十六歳』(1983)で商業映画デビュー。
注3 小林弘利 小説家、脚本家。『星空のむこうの国』(1986)で脚本家デビュー。代表作『死に花』『江ノ島プリズム』など。
〈 《父・手塚治虫が心配し大島渚が驚愕》「観客を不幸のどん底に突き落とす」手塚眞監督(62)が19歳で撮った映画『MOMENT』の恐るべき展開 〉へ続く
(小中 和哉/週刊文春CINEMA オンライン オリジナル)
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